(扉)特集にあたって
梶尾 裕 Kajio, Hiroshi
国立国際医療研究センター 糖尿病内分泌代謝科
石垣 泰 Ishigaki, Yasushi
岩手医科大学 内科学講座 糖尿病・代謝・内分泌内科分野
糖尿病性足病変は,早期の段階で適切な介入が行われないと,回復が困難な状態まで進行することも多く,患者のQOLを大きく損なう重篤な合併症のひとつである.しかし,診療する医師・医療スタッフの足病変に対する認識にはばらつきが大きく,足に関する問診や診察が標準化されているとは言い難い状況である.また,患者は足壊疽といった病名に漠然とした恐怖感をもっているが,具体的にどういった状態から発症するのか,予防には何が重要かといった正しい知識の啓発は不十分である.すなわち,医療者・患者の双方において糖尿病性足病変の理解が不十分なことが,一部の患者の不幸な転帰を招いている一因であると懸念される.
糖尿病性足病変に関するフットケアや治療のスタンダードは,すでに確立されている.そのなかでも,糖尿病性足病変に関する評価スケールやガイドラインが開発・改訂され,また外科的治療法の成績や日常生活での注意点についての考えかたも日々アップデートされているが,広く周知される機会は少ない.本特集は,糖尿病性足病変治療の実践を見直すことをテーマに,診療科や職種を横断したエキスパートの先生方が執筆された6編の論文から構成される.はじめに,日常的な糖尿病外来診療において内科医ができる足の診察について富田益臣先生に実践的な指導をいただき,次に大浦紀彦先生らに外科的アプローチについて,糖尿病診療医・医療スタッフ向けにわかりやすく,最新の保険診療改定も含めて解説をいただいた.続いて,足病変の悪化予防に欠かすことのできないフット ケアを継続するコツとチーム医療の重要性について,楢原直美先生より経験に基づく助言をいただいた.後半では,四津里英先生らが開発された糖尿病性足潰瘍に特化した客観的な創部評価スケールに関して,実際の症例を基に具体的な活用を紹介いただき,杉本崇行先生らにはADLの維持に向けた適切なフットウエアの選びかたと運動療法の指導方法について明解に解説いただいた.最後に,尹 庸先生らに糖尿病性足病変国際ワーキンググループ(IWGDF)の改訂ガイドラインのなかで,特に重要な感染症対策について,国際的な状況も含めて詳細におまとめいただいた.
本特集を通読していただくことで,読者の皆様のもとに定期通院されている糖尿病患者が,1日でも長く歩いて外来に通い続けるために,足病変に注意を向けるとともに,チーム医療が発展する機会になれば幸いである.
特集 ■糖尿病性足病変:治療の実践を見直す─歩いて外来に通い続けるために─
(扉)特集にあたって
梶尾 裕/国立国際医療研究センター 糖尿病内分泌代謝科
石垣 泰/岩手医科大学 内科学講座 糖尿病・代謝・内分泌内科分野
1.日常の内科外来診療でできること ―フットケアや糖尿病性足病変の集学的治療―
富田益臣/下北沢病院 糖尿病センター/足病総合センター
2.足の創傷をいかに治療するか ―糖尿病性足病変への形成外科的アプローチ―
大浦紀彦/杏林大学医学部 形成外科
加賀谷 優/杏林大学医学部 形成外科
森重侑樹/杏林大学医学部 形成外科
竹江雄貴/杏林大学医学部 形成外科
村上莉沙/杏林大学医学部 形成外科
河野由布子/杏林大学医学部 形成外科
木下幹雄/杏林大学医学部 形成外科
嶋崎鉄兵/杏林大学医学部 感染症科
3.自信をもってフットケアを実践するために ―現場からの提言―
楢原直美/済生会横浜市東部病院 看護部
4.糖尿病性足病変の重症度の評価 ―糖尿病性足病変治癒過程モニタリングスケールの開発から―
四津里英/国立国際医療研究センター病院 皮膚科
長崎大学熱帯医学グローバルヘルス研究科
Tulane School of Public Health and Tropical Medicine
大江真琴/金沢大学医薬保健研究域保健学系
玉木 毅/国立国際医療研究センター病院 皮膚科
真田弘美/石川県立看護大学
5.慢性足潰瘍患者や足病変ハイリスク患者の運動療法とは?
杉本崇行/JR 東京総合病院 リハビリテーション科
藤谷順子/国立国際医療研究センター リハビリテーション科
6.糖尿病性足病変の感染症対策 ―IWGDFの国際ガイドラインから―
尹 庸/国立病院機構京都医療センター 形成外科
荒田 順/滋賀医科大学 形成外科
海透修子/国立病院機構京都医療センター 形成外科
松田翔太/国立病院機構京都医療センター WHO 糖尿病協力センター
河野茂夫/国立病院機構京都医療センター WHO 糖尿病協力センター