J-DREAMS10年の成果:腎機能低下は心不全発症の重要リスク

2025.07.10
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第68回日本糖尿病学会学術集会
シンポジウム28:糖尿病ビッグデータサイエンスのこれまでと未来~方法論から最新データまで
発表日:2025年5月31日
演題:「J-DREAMS のこれまでと今後」
演者:大杉 満(国立健康危機管理研究機構 国立国際医療センター 糖尿病内分泌代謝科 第三糖尿病科/国立国際医療研究所 糖尿病情報センター)

日本における糖尿病の治療実態や合併症の状況をリアルタイムで把握するため、国立健康危機管理研究機構(旧NCGM)と日本糖尿病学会が共同で運営する大規模データベース「J-DREAMS」。構築から10年余りが経過し、その豊富なデータから日本の糖尿病診療の姿が明らかになりつつある。第68回日本糖尿病学会学術集会にて、同機構・糖尿病情報センターの大杉満氏が登壇し、J-DREAMSの歩みと最新の解析結果について講演した。11万人超のデータを解析した結果、2型糖尿病(T2DM)において腎機能の低下が心不全(HF)の新規発症と極めて強く関連することが示され、腎機能維持に対する早期介入の重要性が改めて浮き彫りとなった。

10年で築いた11万人規模のデータベース「J-DREAMS」

 J-DREAMS(Japan Diabetes comprehensive database project based on an Advanced electronic Medical record System)は、従来のデータベース研究における手入力の手間といった障壁を克服し、リアルタイムでの診療状況把握を目指して企画された。現在、全国74病院が参加し、重複のない登録者数は11万4000人に上る、国内有数の糖尿病データベースである。

 データ収集の根幹をなすのは、電子カルテから処方や検査結果を自動で取り込むSS-MIX2の拡張ストレージと連携する約500項目の臨床情報を入力可能な「糖尿病標準診療テンプレート」だ。大杉氏は、「テンプレート導入前後を比較すると、BMIなどの項目はそれまで20%程度しか入力されていなかったが、導入後はほぼ全例で入力されるようになった」と述べ、データ精度の向上と診療の質評価への貢献を強調した。

 構築から10年が経過し、J-DREAMSの強みも明確になった。十分な症例数を用いた数年にわたる縦断観察が可能となり、使用薬剤の変遷を追跡できるほか、1型糖尿病など単施設では十分な症例数を確保することが難しいサブタイプの解析も可能となった。これらの特性を活かし、様々な角度から解析が進められている。

データベース解析が示す腎機能と心不全の密接な関連

 講演では、J-DREAMSのデータを用いたT2DM患者における心不全に関する縦断解析の結果が報告された。約1万8000人のデータを解析したところ、ベースライン時にHFの既往がある患者は、年齢が高く、男性が多く、糖尿病罹病期間が長く、そして腎機能が低下している傾向にあった。

 さらに、観察期間中における新規HF発症のリスク因子を検討したところ、年齢や性別、冠動脈疾患の既往に加え、腎機能が他の因子よりも強い関連因子として示された。eGFRが低下、もしくはアルブミン尿が陽性であると、HFの新規発症リスクは段階的に上昇。eGFR 90mL/分/1.73㎡以上を1とした場合、腎機能低下群(eGFR 30-59)ではリスクが3倍以上に、腎不全(eGFR <30)に至っては8倍以上に達することが明らかになった。この結果は、2型糖尿病診療において、腎症の管理と腎機能維持への早期介入が、心不全の発症を抑制する上で重要であることをデータで裏付けた。

ビッグデータサイエンスの未来:機械学習と外部データ連携

 大杉氏は、J-DREAMSの今後の展望として、機械学習の活用と外部データ連携の重要性を強調した。J-DREAMSのデータを見ると実際の臨床現場では、処方パターンが2000種類以上にも及ぶなど、伝統的な統計手法のみで解析するには限界がある。「人間が見た上で2000パターンを解析することは不可能。機械学習にかけて解析していくことで薬剤をたくさん使い、複雑な症例ほどHbA1cを下げることが難しいということがわかる」と述べ、複雑な臨床データを機械学習により解析し、多角的に評価するビッグデータサイエンスの必要性を訴えた。
 また、今後の大きな課題として、CGMデータやライフログといった、院外で記録される患者個人のデータを効率的かつ安全に取り込むシステム構築を挙げた。大杉氏は、「患者さんが印刷して持ってきたSMBGデータを看護師がスキャンしてカルテに貼り付ける、という15年前から変わらない現状がある」と指摘。クラウド上のデータを電子的に直接取り込む仕組みの重要性を強調した。当センターでは2年前から患者個人のデータを電子カルテへ電子的に連携する試みを開始しており、現在300名ほどの患者データを連携している。しかし、外部データを取り組むため現状のシステムは複雑すぎるため、より安全で安価なシステムを構築したいとの考えを示した。J-DREAMSは今後、蓄積されたビッグデータと新たな解析手法、そして外部データとの連携を推し進めることで、日本の糖尿病診療のさらなる発展に貢献することが期待される。

診療録直結型全国糖尿病データベース事業 J-DREAMS(Japan Diabetes compREhensive database project based on an Advanced electronic Medical record System)

[ 糖尿病リソースガイド編集部 / 日本医療・健康情報研究所 ]

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