がん以外にも広がる緩和ケア、腎不全患者向けに初のガイダンス公表

ガイダンス作成の背景
腎不全患者の身体的・精神的な苦痛に対する緩和ケアの提供体制が十分でないことはかねてより指摘されてきたが、緩和ケアに対する社会的要請はこのところ一段と高まりを見せていた。このことは、2025年6月13日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2025(骨太方針2025)」において、慢性腎臓病対策として緩和ケアの推進が明記されたことからも明らかだろう。
当サイトで9月に学会レポートを掲載した『透析を止めた日』の著者・堀川惠子氏の講演(第68回日本腎臓学会学術総会特別講演1「透析を止めた日」レポート)でも緩和ケアの体制整備の必要性が強く述べられ、講演は多くの聴講者を集めた。
こうした緩和ケアへの社会的要請の高まりを背景に、日本緩和医療学会、日本腎臓学会、日本透析医学会の3学会が協力してガイダンスを作成。9月11日には自民党国会議員有志で構成される腎臓病の医療に関する勉強会呼びかけ人代表である上川陽子衆議院議員に手渡され、9月29日、「腎不全患者のための緩和ケアガイダンス」が公表されるに至った。
ガイダンスの主な内容
本ガイダンスは全87ページ。腎不全患者への緩和ケアは、腎代替療法(透析療法や腎移植)を受けているか否かにかかわらず、全ての患者に必要に応じて緩和ケアが提供されるべきだと指摘している。以下、序文の一部を引用する。
【序文】
緩和ケアは、本来、がんのみならず、あらゆる重い病とともに⽣きる⼈々に対して提供されるべき医療です。しかしながら、わが国ではこれまで、緩和ケアの保険診療上の適応はがんと末期⼼不全に限られており、腎不全をはじめとするその他の疾患領域では、その必要性が認識されながらも、⼗分に普及してきたとは⾔えませんでした。
このたび、⽇本腎臓学会、⽇本透析医学会、⽇本緩和医療学会の3学会が協働して「腎不全患者の ための緩和ケアガイダンス」を作成したことは、がん以外の疾患における緩和ケアの普及促進に向けた極めて重要な⼀歩です。とりわけ、わが国は国際的に見ても、いわゆる先進国の中でがん以外の疾患の緩和ケアの整備が最も遅れていた国の⼀つであり、この取り組みは⼤きな意義を有します。
腎不全患者への緩和ケアは、腎代替療法(透析療法や腎移植)を受けているか否かにかかわらず、すべての腎不全患者に必要に応じて提供されるべきものです。
(中略)
私たちは、このガイダンスが全国の医療現場で広く活⽤され、腎不全患者の苦痛が少しでも和らぎ、患者とその家族の⽣活の質(QOL)が向上することを⼼から願っています。そして、この取り組みが、腎不全のみならず、わが国のあらゆるがん以外の疾患に対する緩和ケアの普及と質向上の礎となることを期待します。
ガイダンスでは、腎不全緩和ケアを「腎不全患者とその家族の痛みや、その他の⾝体的・精神的・社会的・スピリチュアルな問題を早期に⾒出し、的確に評価を⾏い、対応することで、苦痛を予防し和らげることを通してQOLを向上させるアプローチ」と定義。
具体的には、緩和ケアの基本的な考え方から、薬物療法(医療用麻薬を含む)、精神的な問題への対処(抑うつなど)、患者家族に対するサポートや医療提供体制の構築まで、幅広い内容が示されている。
腎不全の症状は透析治療により和らぐことが多いが、透析を行わない場合は、死を迎えることとなる。そのため、患者が透析を行わない意向を示した際には、適切な情報を提供した上で慎重な対応を行い、その意思が変わらないかどうかを繰り返し確認することが求められる。
厚生労働省は、「腎不全患者に対する緩和ケア等の総合推進事業費」として、新規で令和8年度予算の概算要求に1億円を盛り込んでいる1)。本ガイダンスをきっかけに、こうした緩和ケアに対する考え方が全国に普及し、苦しむ患者や患者家族の救いへとつながることが期待される。
文献