個別化と柔軟性が鍵を握るCKD栄養戦略~カリウム、たんぱく質制限を考える~
第70回日本透析医学会学術集会・総会
学会・委員会企画15 学術委員会(栄養問題検討ワーキンググループ)企画「CKD保存期から透析まで一貫した食事療法」
発表日:2025年6月29日
演題:「CKDステージ3~5の食事療法の現状」
演者:蒲澤秀門(新潟大学大学院医歯学総合研究科腎研究センター病態栄養学講座)
共同演者:細島康宏(新潟大学大学院医歯学総合研究科腎研究センター病態栄養学講座)

近年、CKD(慢性腎臓病)患者に対する一律的な食事制限の是非が議論されている。新潟大学の蒲澤秀門(かばさわ ひでゆき)氏は、CKD患者を取り巻く昨今の様々な状況を踏まえ、CKDステージ3~5の食事療法の現状と課題について講演した。
カリウム制限の妥当性
講演の冒頭で、蒲澤氏はCKD患者の食事療法における根本的な問題に言及した。WHOは、心血管疾患・脳卒中・がん・糖尿病などの非感染性疾患の予防・管理に植物中心の食事が有益であると提言している1)が、同じ非感染性疾患のCKDに関しては「野菜・果物を制限するべき」という考えがある。蒲澤氏はこのダブルスタンダードを指摘し、全てのCKD患者が野菜や果物を制限すべきか否かついて議論を展開した。
2023年に改訂されたCKD診療ガイドラインでは、CKD患者の血清カリウム値は4~5.5mEq/Lに管理することが推奨されている2)。食事療法においては、野菜・果物の積極的な摂取による高カリウム血症のリスクが懸念される。しかし、血清カリウム値の上昇は必ずしも食事由来とは限らない。腎機能の低下、代謝性アシドーシス、糖尿病による相対的インスリン不足、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)やレニン-アンジオテンシン系(RAS)阻害薬などの薬剤の使用といった複数の要因が、高カリウム血症に関与している3)。
ブラジルにおけるCKD患者を対象とした横断調査では、血清カリウム値が5 mEq/Lを超える因子として食事からのカリウム摂取量は関係なく、血清重炭酸イオン濃度の低下が関連していたという報告もある4)。
血清カリウム値が5.5mEq/Lとなったらどうすればよいのかについては、KDIGO(Kidney Disease:Improving Global Outcomes)診療ガイドライン2024で次のように3段階のラダーで示している。第一段階:「NSAIDsの回避」「食事由来カリウムの評価・最適化」、第二段階:「適切な利尿薬の検討」「血清HCO₃⁻の測定」「カリウム吸着薬の検討」、第三段階:「MRAやRAS阻害薬の減量・中止(その後再開を検討)」5)。第一段階の「食事由来カリウムの評価・最適化」の部分は、一律に果物・野菜を控えるべきか否かについて議論が必要となる。
代謝性アシドーシスを有するCKD患者については、CKD診療ガイドライン2023に「内因性酸産生量を抑制し、腎機能悪化を抑制する可能性があるため、アルカリ性食品(野菜や果物の摂取など)による食事療法を提案する」と以前のガイドラインには記載されていなかったアプローチが書かれており2)、野菜・果物の摂取が勧められている。この科学的根拠とされているのが、アメリカで行われた2つのRCT6)7)だが、これらの研究では糖尿病や腎炎、血清カリウム値が高い(K>4.6mEq/L)患者が除外されており、一律に野菜・果物の摂取を勧めるものではないことに注意したい。
CKD患者はカリウムの摂取に留意が必要であるが、一律に摂取を制限することの妥当性が、今改めて問われている。
一律制限から個別評価へ
では野菜・果物を積極的に摂るメリットが大きいCKD患者は、どのような人々なのか。蒲澤氏は海外の先行研究6)7)における選択基準や除外基準から、野菜・果物の積極的摂取が検討されるべき症例について次のように述べた。
「CKDステージ3~4の患者で、高血圧による腎障害の患者、活動性の腎炎や糖尿病・ネフローゼを有さない患者、血清カリウム値が4.6mEq以下の患者は摂取が望ましいと考えられる。MRAが投与されている方には注意が必要。これらを日本の患者さんに置き換えた時にどう考えるかは、今後議論していくべき課題である」。
野菜・果物の具体的な摂取量については、前述の研究7)における介入方法を日本食に換算すると、野菜350g・果物200gに相当する。この数字は、厚生労働省が掲げる「健康日本21」の食生活の改善目標と偶然にも一致する8)。
蒲澤氏は、「少なくともCKD患者に一律で野菜、果物を制限する時代ではない」と述べた上で、「CKD患者の野菜・果物摂取の安全性を担保するためには、血清カリウム値や血清重炭酸イオン濃度の定期的なモニタリングが不可欠である」と強調した。
カリウムと同様に、たんぱく質についても検討が必要だ。たんぱく質制限は腎代替療法の開始を遅らせる効果がある一方、栄養不良の患者では死亡率の上昇につながるおそれがある9,10)。
CKD診療ガイドラインではたんぱく質制限について、「腎臓専門医と管理栄養士を含む医療チーム管理のもと、必要なエネルギー摂取量を維持したうえで制限する」ことが推奨されているとおり、「チーム医療」と「必要なエネルギー摂取量の維持」がポイントとなるが、これまで多くの臨床試験で、たんぱく質制限とアドヒアランスが保たれないという報告があがっている。たんぱく質制限による死亡率上昇を防ぐためには、たんぱく質制限とアドヒアランスを両立することが課題であり、現在その方法が模索されている。
その方法のひとつとして、治療用特殊食品の利用がある。蒲澤氏らが行った研究では、たんぱく質を96%カットした「低たんぱく質ごはん」は、たんぱく質制限に対するアドヒアランスを向上させる結果となった11)。
また一方で、摂取たんぱく質の50%以上を植物由来にするPLADO(Plant-Dominant Low Protein Diet)という考え方が最近注目されている12)。ただ、日本人は既に主食の米や大豆食品など、植物由来たんぱく質の摂取割合が全たんぱく質摂取量の約45%に達している13)。PLADOは治療用特殊食品と同様に食事に対する考え方の選択肢の一つとして位置づけつつ、患者の生活背景や嗜好に応じて工夫することが大切となるだろう。
求められる栄養指導の柔軟性
高齢者は透析導入後、ADLが急速に低下し、累積死亡率も急上昇する14)。米国の高齢透析導入患者のコホート研究では、透析導入前1年間における血清アルブミンの低下が、透析導入後1年間の死亡リスクを高める結果が示されている15)。また別の米国のコホート研究では、透析導入前に栄養士による指導を長期間受けていた患者ほど導入後の生命予後が良くなることもわかっており、保存期からの栄養指導の重要性が明らかになっている16)。
しかし現在の日本ではCKD患者が推計約2,000万人いる一方で、病院勤務の管理栄養士は約3万3,000人である17,18)。1人あたり年1回の栄養指導を行うと仮定すると、年間600人ほどを1人で担当する計算となり、実現は困難だ。これについて蒲澤氏は、「日本のコホート研究19)で、多職種連携により腎機能低下を抑制できることがわかっている。医師・看護師・薬剤師の協力を得ながら、AIやDXも利用し、多職種連携の一貫として栄養指導を行う体制の構築を真剣に考える必要がある」と述べ、包括的なアプローチの必要性を強調した。
また、保存期CKDの患者に対し、「全ての患者が透析に至るわけではない」という前提に立って栄養管理を再考することも重要となる。アメリカの研究では、高齢になるほど末期腎不全になるリスクより、死亡のリスクの方が高まり、透析導入前に他の疾患で死亡する可能性が高いことが報告されている20)。日本腎臓学会が2019年に発表した「サルコペニア・フレイルを合併した保存期CKDの食事療法の提言」では、サルコペニアを合併した場合には、腎機能の低下速度が緩やかであったり、末期腎不全の絶対リスクの低い患者などに対してはたんぱく質制限の緩和を検討する考え方が示されている21)。
末期腎不全絶対リスクの判定方法としてCKD-PC(Chronic Kidney Disease Prognosis Consortium)が提供する「Kidney Failure Risk Equation」22)という計算ツールがあり、年齢やGFR、尿中アルブミン・クレアチニン比などを入力すると、末期腎不全リスクが数値化される。たとえばこうしたツールを使った計算値で5年後の透析導入リスクが5%未満となれば、栄養指導の間隔を延ばすようなことも検討していく必要があるかもしれない。
様々な研究結果やツール、食品が登場し食事療法の選択肢が広がっている現在、医療者は多職種連携を進めながら栄養障害のリスクやベネフィットを評価したうえで、CKDの進行抑制や透析導入後を見据え、個々の患者に柔軟な対応をすることが極めて重要となっている。
文献
- World Health Organization. Plant-based diets and their impact on health, sustainability and the environment: a review of the evidence, 4 November 2021
- 日本腎臓学会 CKD診療ガイドライン2023
- Kovesdy CP, et al. Nat Rev Nephrol. Nov;10(11):653–662, 2014
- Ramos CI, et al. Nephrol Dial Transplant. Nov;36(11):2049–2057, 2021
- KDIGO 2024 Clinical Practice Guideline for the Evaluation and Management of Chronic Kidney Disease
- Goraya N, et al. Clin J Am Soc Nephrol. Feb 7;8(3):371–381, 2013
- Goraya N. Kidney Int. Nov;86(5):1031–1038, 2014
- 厚生労働省 健康日本21(第三次)について~栄養・食生活関連を中心に~
- Tauchi E, et al. Clin Exp Nephrol. Feb;24(2):119–125, 2020
- Tauchi E, Hanai K, Babazono T. Clin Exp Nephrol. Feb;24(2):119–125, 2020
- Hosojima M, et al. Kidney360. Oct;3(11):1861–1870, 2022
- Kalantar-Zadeh K, et al. Nutrients. Jun;12(7):1931, 2020
- 厚生労働省:国民健康・栄養調査報告
- Tamura MK, et al. N Engl J Med. Oct;361(16):1539–1547, 2009
- Hsiung JT, et al. J Ren Nutr. Jul;29(4):310–321, 2019
- Slinin Y, et al. Am J Kidney Dis. Oct;58(4):583–590, 2011
- 日本腎臓学会 CKD診療ガイド2024
- 厚生労働省 令和4年版 厚生労働白書
- Abe M, et al. Clin Exp Nephrol 2023
- O'Hare AM, et al. J Am Soc Nephrol. Oct;18(10):2758–2765, 2007
- 日本腎臓学会 サルコペニア・フレイルを合併した保存期 CKD の食事療法の提言
- CKD-PC「Kidney Failure Risk Equation」