CKD患者の血圧管理と腎代替療法選択における課題
第46回日本高血圧学会総会
共催ランチョンセミナー(株式会社ヴァンティブ)
「血圧管理でつながる心臓と腎臓のmissing link
~CKD/Dialysis診療ネットワーク~」
●発表日:2024年10月13日
●演題:「CKD患者の血圧管理と腎代替療法選択
~円滑な透析導入とその後を考える~」
●演者:阿部雅紀 先生(日本大学 腎臓高血圧内分泌内科 主任教授)

第46回日本高血圧学会総会(2024年10月12日~14日、福岡)において、共催ランチョンセミナー「血圧管理でつながる心臓と腎臓のmissing link ~CKD/Dialysis診療ネットワーク~」が開催され、日本大学 腎臓高血圧内分泌内科 主任教授の阿部雅紀氏は、CKD患者における血圧管理と腎代替療法選択の現状について講演した。
日本におけるCKD患者の現状
日本の慢性腎臓病(CKD)の推計患者数は2005年に約1,330万人(成人8人に1人1))、2015年に約1,480万人(成人7人に1人2))、そして現在は約2,000万人(成人5人に1人3))となっており、年を追うごとに増え続けている。
その背景には、CKDの原疾患である高血圧と糖尿病の増加がある。日本の高血圧有病者数は約4,300万人(成人3人に1人)4)であり、これは生活習慣病・コモンディジーズの中で最も多い。次いで多いのが糖尿病で、患者数は約1,200万人、予備軍を加えると約2,000万人5)となっている。
CKDは末期腎不全となった場合、透析導入に至るが、その原因は糖尿病性腎症が最も多く、次いで腎硬化症が多い。しかし、糖尿病性腎症の割合は低下傾向だ。2022年には14,330例と、17年ぶりの14,000例台となっている6)。これには腎保護効果のある治療薬が登場した影響が考えられ、今後も糖尿病から透析導入となるケースの減少が期待される。
一方で高血圧による動脈硬化が原因で透析導入に至る腎硬化症の割合が増えており、今後CKD患者数の増加を抑えるには、腎硬化症の予防が重要となる。
日本人のネフロン数は66万個しかないという報告も
CKDの治療目的は「透析導入」および「心血管疾患」の抑制だが、日本人は欧米人と比べて心血管疾患になるよりも腎機能の低下が起こりやすいという特徴をもっている。その理由のひとつに、血液の“ろ過装置”と言われる腎臓のネフロン数の少なさが考え得る。
「ネフロンは左右の腎臓それぞれに100万個ある」と古くから教科書的に記載されてきたが、近年、人種別の総ネフロン数の興味深いデータが報告されている。その論文によると、欧米人はネフロンが90万~100万個あるのに対し、日本人は66万個程度であった7)。
さらに、ネフロン数と低出生体重児、そしてCKDとの関連が注目されている。ネフロン数は在胎週数22週を超えてから増加するため、在胎週数が短い状態で生まれる低出生体重児ではネフロンの数が少なく8)、将来的な高血圧やCKD発症リスクが高いと考られる。そのため、低出生体重児の成人期までの血圧や腎機能のフォローの必要性と共に、成人では原因不明のCKDに対し、出生体重や出生週数を確認することの重要性についても今後の議論のひとつとなる。
また、世界各国の人口100万人当たりの透析導入患者数を比較すると、トップ10にアジア6か国が入っており、アジア人は共通して腎臓が弱い可能性がある。加えて、日本人は膵臓からのインスリン分泌能が弱く、食生活の欧米化により2型糖尿病を発症しやすい人種である。透析導入原因に占める糖尿病性腎症の割合においてもトップ10に日本を含むアジア6か国が入っている9)ことから、人種的なネフロン数の少なさ・インスリン分泌能の弱さが日本人の糖尿病関連腎臓病(DKD)発症、そして透析導入に至る要因となっている可能性が指摘された。
CKD患者の血圧管理戦略
ネフロン数が少ないと過剰な塩分を排出するのが不利な状況であるため、日本人は高血圧になりやすいと考えることもできる。
高血圧対策については、エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023にCKD進行抑制のための降圧目標が明記されており、75歳という年齢の区切り、そして糖尿病を合併しているか否か、あるいは蛋白尿があるかないかで目標血圧が分かれている(図1)。

降圧目標の達成には適切な降圧薬の選択が重要となる。高血圧の第一選択薬は、75歳以上でGFR30未満(CKDステージG4・G5)の場合はCa拮抗薬だが、75歳未満であれば尿蛋白の有無で推奨される降圧薬が分かれる(図2)。糖尿病を合併していればすべてRAS阻害薬とされた時代もあったが、現在では糖尿病の合併の有無よりも蛋白尿の有無で降圧薬の第一選択薬が分類されている。

CKD患者は血圧が下がりにくいため、降圧薬は単剤よりも併用した方がよいとされている。ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)単独と、ARB・カルシウム拮抗薬・利尿薬・βブロッカーをそれぞれ1/4量ずつ組み合わせた配合錠について比較したところ、配合錠において有意な降圧効果が示された10)。
このようにCKD患者における降圧目標と薬剤の選択が明らかになっている一方、降圧薬服用患者の降圧目標(130/80mmHg未満)達成率は21.3%(1999年~2005年に収集されたJALSのデータより再解析)11)と低い。この理由として阿部氏は、Ca拮抗薬以外でしっかり血圧を下げてくれる薬剤がなかったこと、クリニカルイナーシャ(診断を受けていながら適切な治療を受けられていない状況)の2つを挙げた。
また、ここでも日本人のネフロン数の少なさが影響していることが考えられる。先進国と日本の血圧コントロール達成率を比較したところ、使用できる降圧薬はほぼ同じであるものの、ドイツの達成率は男性48%・女性58%、カナダは男性69%・女性50%であるのに対し、日本は男性24%・女性29%であった12)。これについて阿部氏は、「日本人はネフロン数が少ないため、降圧薬を使ってもナトリウムなどの排泄が難しく、ほかの人種に比べて治療を受けていても効果が出にくい可能性がある」と述べた。
加えて、日本人は食塩を多く摂取する民族であり、一日6g未満の減塩目標を達成できている高血圧患者は男性の約13%、女性の約26%と少ない13)。
通常、摂取した過剰な塩分は起きている間に尿中に排出されるが、腎機能が低下している人はそれができないため、夜寝ている間も血圧を上げて腎臓に血液をたくさん送り込むことで塩分を排泄しようとする。そのためCKD患者は夜間高血圧になりやすいのだが14)、高血圧の曝露はさらなる腎機能低下を招くことになる。
また、寿命に影響する因子の研究においても日本人は血圧による影響が圧倒的に大きいことがわかっており15)、血圧管理の重要性が改めて指摘された。
CKD治療の進展と腎臓病治療薬の登場
CKDの治療は、尿異常とGFR低下の早期発見、早期治療介入が重要だ。蛋白尿が陽性でGFRが下がっていない状態のうちに治療を開始すればGFR低下速度を緩やかにできるが、GFRが60未満かつ蛋白尿(1+)以上になると透析までの期間延長が難しくなってくる。
通常、CKDを発症するとGFRは年々下がっていくが、ある日を境に急激にGFRが低下する「加速型」がある16)。加速型はDKDに多いとされ、「ラピッドデクライナー(Rapid Decliner)」(または「ラピッドプログレッション(Rapid Progression)」)と呼ばれる。ラピッドデクライナーは、①蛋白尿の増悪(微量→顕性アルブミン尿)、②インスリン抵抗性による肥満、③治療抵抗性高血圧(降圧薬を3種類以上使用しても降圧効果が低いもの)の3つが重なることで起こりやすい。エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023ではラピッドデクライナーの基準を年間5 mL/min/1.73m2以上のeGFR低下としており、このような患者は透析導入リスクが高いため、腎臓専門医への早期紹介が望まれる。
CKDの治療に関しては長い間、腎臓病に効果的な薬がなく、「たんぱく質制限」と「安静」のみでの対応となっていたため、薬剤の開発が待ち望まれていた。そのような中、2001年に「RAS阻害薬」、続いて「SGLT2阻害薬」と「MR拮抗薬」のフィネレノンの効果が認められ、これら3つが腎保護効果をもつ薬剤として確立した17~21)。
阿部氏は「3剤に共通する特徴として、数か月という短期間でアルブミン尿が減少し、それが長期的なGFR保持効果につながり透析導入を抑制すると考えている」と述べた。また、CREDENCE試験では、SGLT2阻害薬においてプラセボに比べて透析導入を30%減少させるという結果が示された22)。
さらに2024年、4剤目として、「GLP-1受容体作動薬」のセマグルチドにDKD患者の腎臓のハードエンドポイント(eGFRの50%以上の低下、 eGFR<15、RRT、腎死、心血管死)を24%改善し、eGFR低下速度の抑制効果があることが発表された23,24)。
こうした結果から、CKD領域、特にDKDに対するファンタスティックフォー(SGLT2阻害薬、MR拮抗薬、RAS阻害薬、GLP-1受容体作動薬)が揃い、現在CKD患者の年間eGFR低下速度は、-2 mL/min/1.73m2程度まで改善され、健常人の低下速度(通常45歳をピークに-0.4 mL/min/1.73m2~-0.8 mL/min/1.73m2程度)に近づきつつある。治療薬がなかった1980年には、-10 mL/min/1.73m2程度であった25)ことから、これら治療薬の登場が大きな予後改善効果をもたらしたと言える。
チーム医療による透析予防とフレイル対策の重要性
CKDは高血圧や糖尿病といった生活習慣を背景とした患者が増えており、治療や進展防止のためには薬物療法だけでなく、生活習慣の改善や食事療法を含めた包括的なアプローチが求められる。そのため医師だけでなく、看護師、管理栄養士、薬剤師など多職種が協力するチーム医療の導入が効果的である。
CKDのチーム医療を行っている全国24施設、3000例の患者データの集積の結果において、チーム医療の介入によってCKD患者の年間eGFR低下速度が、年間-6mL/min/1.73m2から-1.4 mL/min/1.73m2と、約1/4にまで抑制されたことが報告された26)。この結果が評価され、2024年6月より慢性腎臓病透析予防指導管理料が新設27)。糖尿病以外のCKD患者でも、最初の1年間毎月300点が算定できるようになった。
また、「腎臓病療養指導士」や「腎代替療法専門指導士」などの資格制度も設けられており、これらの専門スタッフを含めた多職種の協力によってCKD患者の適切なケア、そして腎代替療法の選択、移行が円滑に進むことが期待される。
腎代替療法の治療選択肢には血液透析、腹膜透析、腎移植の3つがあるが、日本では血液透析を選ぶ割合が圧倒的に高い。透析に関して言えば、腹膜透析は約3%と、世界と比べても非常に低いのが特徴である(アメリカは20%、カナダは30%程度)28)。
血液透析は内シャント造設や週3回程度の通院、1日4~5時間の透析時間が必要であり、患者にとって負担が大きい。透析患者は高齢化が非常に進んでおり29)、75歳を超えると自力で通院できる患者は3割となる30)。残りの7割は寝たきりの方も含めて何らかの介護や介助が必要な状況で通院しており、高齢になるほど患者本人や施設の負担が増えることを考えると、取り扱いがシンプルかつ自宅で行える腹膜透析の普及が望まれるところだ。
また、高齢患者の多くが透析導入後、1年以内に死亡しているという報告がある。透析導入前はADLが保たれていたものの導入した途端にADLが下がってしまう人は多く、フレイルとも関係して死亡リスクが高くなる。高齢の透析患者に対してはADLの低下、そしてフレイルをいかに抑制するかが重要である31~33)。
丁寧なSDMで平等な療法選択の機会を
日本は世界で唯一、血液透析と腹膜透析の併用が認められており、週1回は血液透析、残りの日は腹膜透析といった形を取ることもできる。しかし前述のとおり日本の腹膜透析の普及率は非常に低く、その理由のひとつには、血液透析に比べて腹膜透析の情報が広く伝わっていないことが考えられる。過去に実施された慢性腎不全患者へのアンケートでは腹膜透析の認知度は低く、腹膜透析の説明を受けることなく血液透析を始めた人が多いという結果が出ていた34)。
腹膜透析に関しては、高齢などの理由で自己管理が難しい患者に対して訪問看護や訪問診療、患者家族が透析をサポートするアシステッドPDという取り組みもあるが、こうした情報も届くべき人々にしっかり伝わっているだろうか。血液透析だけでなく、腹膜透析、そして腎移植、この3つの治療法を患者に平等に情報提供することは、日本の腎臓領域における課題である。
また、患者は透析が必要と告げられた時、医療者側が気にしている「治療法」よりも、「今後の日常生活がどうなるか」という生活面での不安が大きいことも明らかとなっている35,36)。
そこで大切なのが、医療者と患者が治療法の選択を相談しながら決定する「共同意思決定(SDM)」だ。治療法選択について十分な時間をかけ、患者の価値観や生活背景を踏まえた治療法選択ができれば、患者満足度の向上、医療費の減少、入院期間の短縮などの様々なメリットが得られる37,38)。
講演後、参加者から「透析患者における血圧管理のエビデンス」について質問が寄せられた。これについて阿部氏は、現状ではまだ十分ではないとする一方、透析導入後も適正な血圧管理を続けることで予後が良くなる可能性があるとコメント。今後、関連学会で協議を重ねていきたいという座長の言葉で締めくくられた。
がんと同様、透析患者の生存期間も延長している時代の中で、「血圧管理の目標」に関しては「薬剤の選択」と共に心血管イベントのリスク低減や治療期間延長、QOL維持につながるエビデンスの集積が期待される。
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