<ディベート>第一選択薬として優れるのは? 「SGLT2阻害薬」の立場から
第68回日本糖尿病学会学術集会
会長特別企画2 「DPP-4 阻害薬」vs「SGLT2 阻害薬」:第一選択薬としてどちらが優れる?
発表日:2025年5月30日
演者:西村 理明(東京慈恵会医科大学 糖尿病・代謝・内分泌内科)

第68回日本糖尿病学会学術集会において、糖尿病の第一選択薬として「DPP-4阻害薬」と「SGLT2阻害薬」とではどちらが優れているのか、ディベートセッションが行われた。「SGLT2阻害薬」の立場に立った西村理明氏は、薬剤の作用点、臨床試験データから見る心血管イベントへの影響、SGLT2遺伝子変異と有効性の関連、高齢者へのエビデンスなどから、SGLT2阻害薬が第一選択薬として優れるとした。
※本講演はディベートセッションとして発表されたものです。必ずしも演者が特定の薬剤・治療法を推奨するものとは限りません。
SGLT2阻害薬は作用点が明確である
西村氏はまず、DPP-4阻害薬とSGLT2阻害薬の体内での局在部位について触れた。DPP-4は、小腸刷子縁、肝臓、肺上皮、血管内皮、免疫細胞など全身に広範に分布し、インクレチン分解(GLP-1、GIP)のほか、免疫調節(CD26)や炎症応答調整など多様な機能を持つ。このようにDPP-4全身に分布しているため、オフターゲット作用に注意が必要であるとした。
一方、SGLT2は腎臓の近位尿細管にほぼ特異的に局在する輸送体であり、機能としてはグルコースとNa+の再吸収のみとなる。このようにSGLT2阻害薬は腎選択的標的であるため、副作用は比較的限定的であると西村氏は述べた。
SGLT2阻害薬、DPP-4阻害薬の心血管イベントへの影響
西村氏は、DPP-4阻害薬は各製剤間で構造式が大きく異なり、一方でSGLT2阻害薬は各製剤間で構造式は類似していることを指摘。このことからSGLT2阻害薬の作用はクラスエフェクトである可能性があるとした。
次に西村氏はDPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬それぞれの心血管イベントに対するエビデンスについて言及。まずDPP-4阻害薬について、SAVOR-TIMI 53 1)、EXAMINE 2)、TECOS 3)、CARMELINA 4)、CAROLINA 5)の各試験では、実薬群でHbA1cが有意に低下した一方で、心血管イベントの発現率はプラセボ群に対して非劣性は示したが優越性は認められなかったことを指摘した。またCAROLINAを除く上記4試験のメタ解析では、DPP-4阻害薬は心血管イベントに対してニュートラルな影響を示したが、一部試験ではむしろ心不全による入院が増加していた 6)。
SGLT2阻害薬のエビデンスの代表としては、やはりEMPA-REG OUTCOME 7~9)が挙げられる。本試験では、エンパグリフロジンが心血管イベントのリスクを有する2型糖尿病患者において、主要評価項目のMACE(心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中)、心不全による入院、全死亡のいずれの項目においてもプラセボに比べ有意な低下を示した 7)。また副次評価項目においても、腎複合イベント(顕性アルブミン尿への進展、血清クレアチニン値の倍化、腎代替療法の開始、腎疾患による死亡)を抑制し 8)、eGFRの経時推移では、投与開始4週間後のinitial dipは見られたものの、慢性期にはeGFRの低下はプラセボに比べ緩やかであった 9)。この結果について、薬剤間で異質性があるとの評価もあるが、西村氏はその後のCANVAS Program 10)、DECLARE-TIMI 58 11)においてもプラセボ群に比べて心不全による入院が有意に低下していることを述べ、SGLT2阻害薬のクラスエフェクトとしての心血管イベントへの影響が示唆されうるものであるとした。
腎性尿糖が示唆するSGLT2阻害薬の長期予後
SGLT2阻害薬は臨床応用されてからまだ10年ほどであるが、西村氏は長期予後に関して腎性尿糖に着目した。家族性の腎性尿糖はSGLT2遺伝子の変異により生じることがわかっているが、UKバイオバンクのデータを用いた研究 12)では、約41万人を対象に解析したところ、SGLT2の遺伝子多型スコアが高いほど2型糖尿病や心不全のリスクが低かった。また、約94万人を対象とした研究では、SGLT2関連の遺伝子変異rs61742739が、心不全、心筋梗塞、虚血性心疾患、全死亡のリスク低下と関連していたこと、心血管疾患による死亡と全死亡には、変異がもたらす血糖低下作用は4%以下しか関与していないことが報告されている 13)。西村氏は、これらの報告はSGLT2阻害薬の長期的な治療効果の方向性を示唆しうるものであるとした。
高齢者におけるSGLT2阻害薬のエビデンス
これまで一般的にSGLT2阻害薬は、痩せ型の高齢者への使用に懸念があるとされてきた。このことに対し西村氏は、日本人2型糖尿病患者におけるエンパグリフロジンの3年間の製造販売後調査のサブグループ解析結果 14)を提示した。本解析では、体重減少の程度とBMIの間には正の相関が見られ、BMI20未満の患者においては体重減少がほとんど見られなかった。このことは、65歳未満、65歳から75歳未満、75歳以上のすべての年齢群において一貫していた。またBMI別にHbA1cの変化量を見ると、BMI20未満の群が最も大きく低下していた。
また西村氏は、直接ではないもののSGLT2阻害薬とDPP-4阻害薬を比較した研究を紹介。約90万人の臨床試験データから傾向スコアマッチングした約8万7000人の比較研究では、SGLT2阻害薬使用者はDPP-4阻害薬使用者に比べ、MACE、心不全のリスクが低かった 15)。また、糖尿病治療薬の有効性における年齢と性別の違いを検討したメタ解析 16)では、DPP-4阻害薬は男性では各年齢(55歳、65歳、75歳)においても相対的にMACEのリスクが上昇していた。逆に女性では各年齢においてもMACEのリスクは低下しており、男女差が見られた。一方SGLT2阻害薬は、男女ともに年齢が上がるほどMACEのリスクは低下しており、西村氏は高齢患者でのSGLT2阻害薬の有用性が示唆される結果であるとした。
最後に西村氏は、SGLT2阻害薬は作用点が明確であること、心血管イベントへの影響など豊富な臨床試験データを有しており、腎性尿糖の遺伝子変異に関する疫学調査の観点からは長期的な治療効果のベネフィットについても示唆されること、痩せ型の高齢者でも体重減少を来しにくいことを挙げ、これらの点からSGLT2阻害薬が第一選択薬として優れていると考えられると結論付けた。
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