肥満関連腎臓病の病態と減量・代謝改善による治療の効果
第40回日本糖尿病合併症学会
シンポジウム3 肥満症
「肥満関連腎臓病の病態と治療」
発表日:2025年11月14日
演者:和田 淳(岡山大学 腎・免疫・内分泌代謝内科学)
共同演者:大西康博、中司敦子、江口 潤

岡山大学腎・免疫・内分泌代謝内科学教授の和田淳氏は、第40回日本糖尿病合併症学会(11月14~15日開催)のシンポジウム3「肥満症」において、「肥満関連腎臓病の病態と治療」をテーマにした講演を行った。和田氏は、肥満(BMI高値)が末期腎不全に至るハイリスク因子であることを改めて強調。その上で、減量や代謝改善による治療がアルブミン尿や経年的な推定糸球体濾過量(eGFR)低下に対して抑制効果があることを訴えた。
肥満は蛋白尿に匹敵する末期腎不全のリスク
和田氏は、肥満が高血圧性腎硬化症や糖尿病関連腎臓病(DKD)、慢性糸球体腎炎といった腎機能障害の危険因子であることを強調。末期腎不全においては、BMI高値が蛋白尿に匹敵する影響を有していることを明かし、肥満自体が腎機能悪化の独立した危険因子であることを示した。
またBMI 30 kg/m²以上でネフローゼレベルの蛋白尿を認めるが、血清アルブミンが比較的保たれているという肥満関連糸球体症(ORG)の特徴を挙げつつも、日本人ではBMI 25~30 kg/m²の段階でもORGと同様の組織像を呈する症例が確認されていることを示し、BMI 25 kg/m²以上で肥満に関連した腎臓病(肥満関連腎臓病:OKD)が起こり得る可能性を指摘した。
OKDに関しては、その発症にレニン・アンジオテンシン系(RAS系)の亢進や糸球体過剰濾過、活性酸素、炎症、脂肪毒性などが複雑に絡み合っていること、糸球体肥大や巣状糸球体硬化症(FSGSパターン)といった特徴的な糸球体病変がみられることなどを紹介。一方で、DKDと重なる部分も多く組織学的な鑑別が困難なことや、アルブミン尿があまり出ずに糸球体濾過量(GFR)が低下するケースも含まれることを挙げ、従来の定義では捉えきれない多様な病態が存在するため、定義自体を見直す必要があるのではないかと述べた。
減量と代謝改善によりアルブミン尿・GFRが劇的に改善
OKDの治療に関しては、減量が極めて重要であると指摘。高度肥満症患者では一定の基準を満たす場合、手術療法(減量代謝改善手術)も選択されるとし、本邦の観察研究においても、腹腔鏡下スリーブ状胃切除を受けた患者群は、内科治療群と比較してアルブミン尿が抑制されることが示された。
BMI 43.6 kg/m²の高度肥満症と、アルブミン尿2,300 mg/gCrを伴った2型糖尿病のある女性では、フォーミュラ食を用いた食事療法と手術療法、GLP-1受容体作動薬(セマグルチド)などを用いた薬物療法により体重が減少し、術後にはアルブミン尿が完全に正常化したほか、糸球体過剰濾過により高値であったeGFR(160 ml/min/1.73m²以上)も術後100 ml/min/1.73m²未満に落ち着いたことが示された。
また、糖尿病のない肥満症例(62歳女性、BMI 33.5 kg/m²、アルブミン尿 160 mg/gCr)においても、食事指導などでは体重減少が難渋したものの、セマグルチドの導入により体重が減少し、アルブミン尿が正常化し、肝機能も改善したことが報告された。
糖尿病治療薬がOKDに対しても効果を発揮する可能性
和田氏は、糖尿病の治療薬であったSGLT2阻害薬が慢性腎臓病(CKD)治療薬として、GLP-1受容体作動薬が肥満症治療薬として保険収載されていることにも言及。DKDにおいて腎保護効果が明らかになっている非ステロイド型選択的ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)についても、肥満症でのRAS活性化やアルドステロン非依存性経路の病態への関与が考えられており、OKDでの有効性が期待されると述べた。
さらに和田氏は「DKDの治療薬として確立されてきた4本柱(RAS阻害薬、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬、MRA)の臨床研究には、OKDの患者もおそらく含まれている」との見解を示し、これらの薬物の併用による肥満症治療への効果が今後期待されると展望した。






