夜型生活リズムと網膜症の発症・進展リスクが関連 2型糖尿病における追跡調査 順天堂大学

2025.11.20
順天堂大学の研究グループは、夜型の生活リズムを送る「夜型クロノタイプ」の2型糖尿病を有する人では、血糖マネジメントが悪化しやすく、糖尿病網膜症の発症・進展リスクが高いことを明らかにしたと発表した。

 糖尿病網膜症は、高血糖が原因で網膜の微小血管に障害が起こる、糖尿病の慢性合併症の一つで、失明の主要原因とされている。その発症・進展には、糖尿病の罹病期間や血糖マネジメントの状態、収縮期血圧などが関係することが知られている。また、血糖マネジメントの改善は、糖尿病網膜症の発症・進展リスクの低下につながり、生活習慣も発症・進展リスクに大きく影響することが報告されている。

 生活習慣の中で近年注目されている「クロノタイプ」とは、個人の朝型・夜型といった生活リズムの特性を指す。夜型の人は、夜遅くまで光を浴び、食事も遅く、身体活動量が少なく、肥満や2型糖尿病の発症リスクが高いことが知られている。2型糖尿病を有する人でも夜型クロノタイプはHbA1cが高い傾向にあり、は夜型クロノタイプの人は血糖マネジメントの悪化に注意が必要であるとしている。しかし、2型糖尿病を有する人々において、クロノタイプが長期的に血糖マネジメントや糖尿病合併症の発症・進展に与える影響を調査した前向き調査はほとんどなかった。そこで本研究では、2型糖尿病を有する人々を対象に、生活習慣のなかでも特にクロノタイプの違いが糖尿病網膜症の発症・進展および長期的な血糖マネジメントにどのような影響を与えるかを明らかにすることを目的とした。

 研究グループは、順天堂医院などに通院する心血管イベントの既往がない2型糖尿病を有する人731名を対象に、生活習慣(食事、身体活動、睡眠時間・質、生活リズム)と糖尿病網膜症の発症・進展との関連を最大10年間にわたり調査した。クロノタイプ(朝型・夜型)は「Morningness–Eveningness Questionnaire(MEQ)」により判定した。MEQは16〜86点の範囲で評価し、低得点ほど夜型、高得点ほど朝型の傾向を示す。平均追跡期間は7.5年で、57名(7.8%)に糖尿病網膜症の発症・進展が認められた。解析の結果、年齢・性別・既知のリスク因子を調整しても、夜型クロノタイプほど糖尿病網膜症の発症・進展リスクが有意に高いことが示された。具体的には、夜型クロノタイプ群は中間型クロノタイプ群に比べ2.29倍、朝型クロノタイプ群に比べ2.09倍のリスク増加が認められた。

 夜型クロノタイプ群では、若年・肥満傾向で糖尿病罹患期間が短い一方、HbA1cやトリグリセリドが高く、HDLコレステロールが低い傾向が認められた。また夜間クロノタイプ群では、睡眠の質低下、抑うつ症状の多さ、睡眠時間の短さ、身体活動量の少なさといった特徴を有し、就寝・起床が遅い、食事時間の遅延、夜食が多い、朝食欠食が多いなどの生活習慣も明らかとなった。観察期間中、夜型クロノタイプ群ではHbA1cやインスリン使用率の増加が認められた。血糖マネジメント状態(HbA1c)を考慮した解析においても、夜型クロノタイプであること自体が糖尿病網膜症の発症・進展リスクと関連する独立したリスク因子であった。

 本研究により、夜型生活リズムを持つ2型糖尿病を有する人では、糖尿病網膜症の発症・進展リスクが高まることが示された。この背景には血糖マネジメントの悪化や睡眠・食習慣の乱れに加え、網膜の生体リズム破綻による炎症や酸化ストレスが関与している可能性がある。研究グループは、夜型クロノタイプが血糖マネジメントや網膜の炎症・酸化ストレスのどのような影響を与えるか、その具体的なメカニズムを解明することが重要であるとしている。また、生活リズムを整える行動介入や、光曝露・睡眠改善・食事タイミング調整といった「時間医学」に基づく介入が、糖尿病網膜症や他の合併症の予防につながるかどうかを検討していくことが必要があり、さらには、クロノタイプを考慮した個別化医療を進めることで、2型糖尿病を有する人の長期的な予後改善に貢献できる可能性があるとしている。

 研究グループは「これまで糖尿病網膜症の発症・進展には血糖マネジメントや血圧などが重要と考えられてきたが、今回の研究から、生活リズムの傾向である“クロノタイプ”が独立したリスク因子となることがわかった。具体的には、夜型クロノタイプを有する人々は、血糖マネジメントが悪化しやすく、糖尿病網膜症のリスクが高いことが明らかになった。生活リズムを改善することが糖尿病合併症の予防につながる可能性があり、患者一人ひとりの生活習慣に寄り添った新しい治療・予防戦略を考えるうえで、大きな一歩になると考えている」と述べている。

 本研究は、順天堂大学大学院医学研究科代謝内分泌内科学の非常勤助手 所雅子氏、准教授 三田智也氏、主任教授 綿田裕孝氏らの研究グループによって実施され、研究成果が2025年10月24日付けでオンライン版「Diabetologia」に掲載された。

[ 糖尿病リソースガイド編集部 / 日本医療・健康情報研究所 ]

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