医学生・臨床研修医の意識調査で糖尿病スティグマの認知度が低い結果 約40%が糖尿病への誤ったイメージ 京都大学ら

2025.11.12
京都大学の研究グループは、聖マリアンナ医科大学と共同で、京都大学・聖マリアンナ医科大学の医学部医学科生と両大学病院の臨床研修医を対象に、糖尿病スティグマとアドボカシー活動に関する大規模実態調査を実施。その結果、糖尿病スティグマの認知率は全体の57.0%、アドボカシー活動の認知率は25.9%と低く、また臨床研修医で「糖尿病をもつ⼈は⾷事や運動などの⾃⼰管理ができていない」などのスティグマをもっている⼈が多いことが明らかになったと発表した。

 スティグマとは、「負の烙印」を意味し、特定の属性をもつ⼈に対して否定的な価値を付与することを意味するが、これは知識不⾜や偏⾒によって⽣じるものであり、スティグマを受ける側は不当に不利益を被ることになる。糖尿病をもつ⼈が直⾯するスティグマには、「糖尿病をもつ⼈は寿命が短い」「糖尿病は怠惰で無責任な⽣活の結果である」といった誤解が含まれる。これらの偏⾒は患者の社会的評価を低下させ、就学、就職、結婚、⽣命保険や住宅ローンの審査といった重要なライフイベントにおいて不当な扱いを招くことがある。糖尿病スティグマが放置されると糖尿病をもつ⼈は⾃⾝の疾患を隠そうとし、適切な医療を受ける機会を逃し、結果として合併症の進展や悪化につながる可能性がある。

 日本糖尿病学会と日本糖尿病協会(JADEC)は、糖尿病の正しい理解を促進する活動を通じて、糖尿病をもつ⼈が安⼼して社会⽣活を送り、⼈⽣100年時代の⽇本でいきいきと過ごすことができる社会形成を⽬指す活動(アドボカシー活動)を2019年から開始している。しかし、糖尿病をもつ⼈の5⼈に4⼈が糖尿病スティグマを感じているにもかかわらず、社会全体での認知度は低いのが現状である。また、糖尿病スティグマは医療者が付与する可能性もあり、糖尿病スティグマのない世界を実現するためには、まずは糖尿病スティグマがあるということを医療者が認識することが重要である。そこで研究チームは、未来の医療を担う医学⽣と臨床研修医における糖尿病スティグマとアドボカシー活動の認知度を含めた世界初の意識調査を⾏った。

 本研究では、京都大学と聖マリアンナ医科大学の医学部医学科の1~6年生 1,369名、京都大学医学部附属病院、聖マリアンナ医科大学病院の臨床研修医 238名、計1,607名を対象に、糖尿病スティグマおよびアドボカシー活動に関するアンケート調査を実施し、921名(57.3%)より回答を得た。⽇本の医学教育では、臨床医学の授業が3 年⽣以降に開始となり、5年⽣以降では実際に臨床現場で臨床実習を⾏うため、教育段階別に1・2年生(一般教養グループ)、3・4年生(医学講義グループ)、5・6年生(臨床実習グループ)、臨床研修医の4グループに分けて解析を行った。

 その結果、糖尿病スティグマを認識していたのは全体の57.0%であり、教育段階別で⽐べると臨床医学の授業を受けていない1・2年生では35.7%と低く、臨床講義を受けた3・4年生以降は60〜70%と高くなる傾向があった。しかしながら、実際に臨床現場で実習あるいは業務を⾏っている5・6年生および臨床研修医の糖尿病スティグマの認知度が3・4年生と同程度であったことから、臨床講義は糖尿病スティグマの認知度向上に⼀定の効果はあるものの、それ以降の医学教育プログラムに課題があることがわかった。

 さらに糖尿病をもつ⼈に対するイメージに関する質問では、約40%が「糖尿病は遺伝病である」「糖尿病をもつ人は寿命が短い」といった誤ったイメージをもっていた。また、「糖尿病をもつ人は食事や運動などの自己管理ができていない」といった糖尿病スティグマにつながるイメージをもつ⼈が臨床研修医で最も多いという結果だった。このことから、糖尿病スティグマを認識していたとしても、糖尿病に関する 正しい理解からは程遠く、正しい知識をもたないまま臨床現場に⾜を踏み⼊れることで、誤ったイメージが臨床現場で固定化する危険性が高いことがわかった。

 また、糖尿病スティグマを認識している群では、自身や医療者がスティグマの形成に寄与する可能性を認識していたため、まずは糖尿病スティグマについて認識してもらうことが糖尿病スティグマのない世界の実現には重要であることもわかった。共感性の指標となる「Jefferson Scale of Empathy」という質問用紙による解析では、スティグマを認識している群で共感性スコアが高かった。このことから、医学教育を通じて共感力を維持・強化する教育的介入が必要であることが示唆された。

 以上の結果より、医学⽣および臨床研修医における糖尿病スティグマとアドボカシーに対する理解は十分でなく、臨床教育・臨床実習を経てもなお根強い誤解があることがわかった。糖尿病糖尿病スティグマを体系的に扱うための医学教育カリキュラムの強化が急務であることが明らかになった。

 研究チームは、本研究結果を受け、糖尿病に対するスティグマのない世界の実現に向けて、効果的な医学教育カリキュラムの開発が⾏われることが期待されるとし、「さらに、日本国内にとどまらずアジアを含む西太平洋地域の国々と連携し、国際的な医学教育プログラムの開発に取り組む予定」と述べている。

 本研究は、京都⼤学⼤学院医学研究科 糖尿病・内分泌・栄養内科学 村上隆亮助教、⽮部⼤介教授らの研究グループと、同 医学教育・国際化推進センター ⽚岡仁美教授、聖マリアンナ医科大学の中村祐太講師、曽根正勝教授らの共同で実施され、研究成果が2025年10月10日付で『Diabetes Research and Clinical Practice』に掲載された。

[ 糖尿病リソースガイド編集部 / 日本医療・健康情報研究所 ]

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