糖尿病での難治性創傷の治癒に関わる新しい仕組みを発見 和歌山県立医科大学

正常な創傷治癒では、白血球が集まり細胞や異物を除去したあと、線維芽細胞がコラーゲンを産生し、血管を再生し、皮膚が再生される。しかし糖尿病では、血流低下や炎症異常により線維芽細胞が働かず、傷がいつまでも治らない「難治性創傷」が起こる。とくに足部などの創傷は感染や壊疽を起こし、最悪の場合は切断に至る。そういった中でも、なぜ糖尿病で傷が治りにくくなるのか、その分子レベルの原因はこれまで十分にわかっていなかった。
研究グループは、炎症や組織修復に関わるたんぱく質「オンコスタチンM(OSM)」と、その受け皿となる「OSM受容体β(OSMRβ)」に注目した。OSMは線維芽細胞を活性化し、コラーゲンや成長因子の産生を促すことが知られている。
そこで、遺伝子操作によりOSMRβ欠損マウス(Osmrb−/−マウス)を作製し、通常マウスと創傷治癒を比較した。また糖尿病マウスにも同様の創傷を作り、皮膚の再生速度や組織の変化を詳しく調べた。その結果、OSMRβ欠損マウスでは、肉芽組織(新しい皮膚を作る組織)と血管の形成が弱く、創傷治癒が遅れることがわかった。また、創傷部周辺の線維芽細胞の中では、TIMP-1(コラーゲンの分解を防ぐ物質)とHGF(血管を作る成長因子)が減少していた。
一方、糖尿病マウスの傷口にOSMを外から塗布すると、TIMP-1とHGFが増加し、血管再生と肉芽形成が活発化して創傷治癒が早くなった。つまり、OSM-OSMRβの経路が線維芽細胞を「修復モード」に切り替える鍵を握っていることが明らかとなった。
この発見は、「糖尿病でも傷を早く治すことができる」新しい分子治療の可能性を示している。これまで糖尿病性皮膚潰瘍の治療は、感染を防ぐ処置や血糖コントロールが中心であり、根本的に創傷治癒力を回復させる薬はなかった。今回発見されたOSM-OSMRβ経路の活性化による創傷治癒メカニズムを利用すれば、糖尿病の合併症による足潰瘍の改善、手術後の創傷や褥瘡(床ずれ)の回復促進、高齢者の皮膚修復機能の維持など、多くの臨床応用の可能性が示された。研究グループは「OSMは体の他の組織再生にも関係しており、将来的には『再生医療の新しい鍵分子』として活用されることも期待される」と述べている。
本研究は、和歌山県立医科大学 医学部 法医学講座の准教授 石田裕子氏、特別研究員 國中由美氏、教授 近藤稔和氏らの研究グループにより実施され、研究成果は2025年10月28日付で『Communications biology』オンライン版に公開された。



