血中水銀濃度と2型糖尿病リスクが関連 日本人勤労者の血清疫学調査 JIHS・国立環境研究所

2026.02.10
国立健康危機管理研究機構と国立環境研究所は、日本人勤労者を対象に重金属であるカドミウム、水銀、鉛、ヒ素の血中濃度と2型糖尿病発症との関連を分析し、結果を報告した。水銀の血中濃度が最も高い群では最も低い群と比べて2型糖尿病リスクが約2倍高く、カドミウム、鉛、ヒ素では2型糖尿病との関連はみられなかったという。

 過去の公害や環境汚染地域の研究が示すとおり、カドミウムや水銀などの重金属を体内に多量に取り込むことで深刻な健康障害が生じる。環境汚染対策が進んだ現代において、一般住民が高濃度の重金属に曝露される機会はまれだが、食事や飲料水などを通じて、低濃度ながら重金属に曝露されている。動物実験では、カドミウム、水銀、鉛、ヒ素などへの曝露により、低濃度であっても糖代謝異常を引き起こすことが報告されており、ヒトにおいてもこれらの重金属への低濃度曝露に伴う2型糖尿病のリスク増大が懸念される。

 重金属汚染地域ではない住民を対象とした海外研究では、血液や尿中のカドミウム、鉛、ヒ素の濃度が高いと2型糖尿病リスクが高まることが一致して報告されている。一方、水銀については関連を認める研究と認めない研究があり、結果に一貫性がない。重金属と糖尿病に関する疫学研究の大半は欧米で行われたものであり、水銀やヒ素の主な曝露源である魚介類や、カドミウムの主な曝露源である米を多く摂取する日本人を対象とした前向き研究はなかった。

 そこで研究グループは、2008年度に人間ドックを受診した日本人勤労者を対象に血清疫学調査を実施し、カドミウム、水銀、鉛、ヒ素の血中濃度と2型糖尿病リスクとの関連を調べた。調査開始時に糖尿病にかかっていなかった約4,800人を5年間追跡し、その間に2型糖尿病を発症した325人(症例)と、糖尿病を発症しなかった者のうち年齢、性別、ドック受診時期が症例と同じになるように選定した611人(対照)を比較するコホート内症例対照研究を実施した。

 重金属は国立環境研究所にてICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析法)で測定し、2型糖尿病の発症は血糖値、HbA1c、および糖尿病の自己申告に基づいて判定した。研究対象者を各重金属の濃度が低い群から高い群まで人数が等しくなるように4グループに分け、職業、喫煙、飲酒、身体活動、BMI、高血圧、n-3系多価不飽和脂肪酸、ビタミンDなどの潜在的な交絡要因の影響をできるだけ取り除いたうえで、各重金属濃度と2型糖尿病リスクとの関連を統計的に分析した。

 その結果、血中水銀濃度が最も高いグループでは、最も低いグループと比べて2型糖尿病を発症するリスクが約2倍高いことが示された(オッズ比1.98、95%信頼区間:1.13–3.47)。同様の関連は、魚や海産哺乳類の摂取が多く、水銀曝露が比較的高いイヌイットを対象とした研究からも報告されている。さらに実験研究では、水銀曝露により酸化ストレスが引き起こされ、インスリンを分泌する膵β細胞の機能が低下し、血糖値が上昇することが報告されている。

 一方、カドミウム、鉛、ヒ素については2型糖尿病との関連はみられなかった。理由の一つとして血中濃度がそれほど高くないことが挙げられ、本研究集団におけるカドミウムおよび鉛の濃度は、関連が報告されている米国や中国の研究と比べ概ね2分の1以下であった。農林水産省が実施した調査結果を踏まえると、国産の農産物等に含まれるカドミウムや鉛は近年安全とされる基準値を下回る水準で推移していると考えられる。また、ヒ素には毒性が強い無機ヒ素と毒性が比較的弱い有機ヒ素があり、日本人が曝露されるのは魚介類などに含まれる有機ヒ素が主であるため、2型糖尿病との関連がみられなかったと考えられた。

 研究グループは、日本人は水銀の約9割を魚介類から摂取しているが、一方で魚介類はタンパク質やn-3系多価不飽和脂肪酸、ビタミンDを豊富に含むことを指摘。このため、魚を食べる習慣を保ちつつ、水銀摂取をできるだけ少なくする工夫が重要であるとした。また、メカジキ、キンメダイ、クロマグロ、マカジキ、ミナミマグロなどの水銀濃度が高い魚をよく食べる場合には、水銀の含有量が少ない魚(キハダマグロ、ビンナガマグロ、メジマグロ、ツナ缶、カツオ、サケ、アジ、サバ、イワシ、サンマ、タイ、ブリなど)に置き換えることも一案として提示している。

 なお、研究グループは研究結果について、「血中水銀濃度が食事からの摂取量を直接反映するものではない。水銀曝露あるいは魚摂取と2型糖尿病との関連についてさらなる研究が必要」と述べている。

 本研究は、国立健康危機管理研究機構(JIHS)臨床研究センター疫学・予防研究部の上級研究員 伊東葵氏、同部長 溝上哲也氏、国立環境研究所エコチル調査コアセンター・センター長の山崎新氏、同次長 中山祥嗣氏、日立健康管理センタの主任医長 中川徹氏らの共同研究グループにより実施され、研究成果が「Clinical Nutrition」に掲載された。

[ 糖尿病リソースガイド編集部 / 日本医療・健康情報研究所 ]

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