膵島α細胞を保護する分子「Sec31A」の働きを解明 大阪・北野病院

糖尿病の主な原因として、インスリンを分泌するβ細胞の機能低下や細胞死が知られている。しかし膵島にはβ細胞以外にもう一つ、血糖を上昇させるホルモン「グルカゴン」を分泌するα細胞が存在し、血糖の安定に重要な役割を果たしている。グルカゴンは低血糖時に肝臓へ作用して糖産生を促すことで血糖値を回復させるホルモンであるが、この調節がうまく働かないと意識障害やけいれんなどを伴う重症低血糖が起こり、生命に関わることがある。このことから、α細胞の機能が保たれていることは、糖尿病患者が安全に治療を受け続けるためのもう一つの重要な柱と言える。
糖尿病では、慢性的な高血糖や炎症などの刺激により、膵島細胞が「小胞体ストレス(ERストレス)」や「酸化ストレス」など多様な細胞ストレスにさらされる。これらのストレスが長く続くと、β細胞では細胞死が進み、インスリン分泌が低下していく。一方、同じ膵島内にあるα細胞は、上述のような多様なストレス環境下でも比較的生き残ることが知られているが、なぜ同じ膵島内にあるα細胞だけがストレス環境で耐えられるのか、その仕組みは明らかになっていなかった。
そこで研究グループはその仕組みを解明するため、マウス由来α細胞株(αTC6細胞)を用いてゲノム全体を対象としたCRISPRスクリーニングを実施した。さらに、線虫を用いた生体レベルの検証、ヒト1型糖尿病膵島とヒトα細胞擬似膵島を用いた解析を行い、動物からヒトまで一貫したアプローチでα細胞のストレス応答を解析した。
その結果、細胞内輸送に関与する既知の分子「Sec31A」が、α細胞のストレス耐性を制御することを発見した。Sec31Aを抑制すると、α細胞はERストレス下でも細胞死に陥りにくくなることがわかった。酸化ストレスなど他のストレス環境でも、Sec31A抑制によって生存率が上昇する傾向が見られた。ヒト膵島でも炎症性刺激によりα細胞でSec31Aが特に強く発現していた。また、Sec31Aはインスリン受容体と相互作用し、細胞生存シグナルの制御に関与していることが示された。
さらに、ヒト擬似膵島を用いたRNA解析により、Sec31A下流で活性化される分子や経路がα細胞とβ細胞で異なることが明らかになった。この結果は、Sec31Aが同じ膵島内でも細胞型に応じて異なるネットワークを形成し、異なる生存戦略を支えていることが示している。
研究グループは「今回の研究は、α細胞が持つ生存力の分子基盤を世界で初めて明らかにしたもので、臨床的にも重症低血糖の予防や膵島機能維持の新しい発想につながる可能性がある。」とし、「今後はSec31Aの調節機構を詳細に解析し、薬剤による制御や細胞保護への応用をめざす」と述べている。
本研究は、医学研究所北野病院の研究員 渋江公尊氏らの研究グループが、米国ジョスリン糖尿病センターとの共同研究として実施したもので、研究成果が国際学術誌「Nature Communications」に2025年10月15日付で掲載された。





