トホグリフロジン、サルコペニア性肥満での骨格筋損傷からの回復を促進 富山大学

高脂肪食や運動不足などによるエネルギー過剰の生活習慣は、肥満者だけでなく非肥満者でも内臓脂肪の蓄積を介してインスリン抵抗性を引き起こし、糖代謝異常を生じる。この代謝異常は、2型糖尿病、高血圧、脂質異常症などの動脈硬化の危険因子を誘導し、将来の脳卒中や心筋梗塞、認知症などの素地となる。そして肥満は、骨格筋におけるインスリン抵抗性を引き起こし、ミトコンドリアの生成を抑制することによって骨格筋の機能障害を引き起こし、最終的に運動機能の障害と骨格筋の萎縮を伴う「サルコペニア性肥満」と呼ばれる状態を引き起こす。
このため、インスリン抵抗性と肥満を有する患者において、骨格筋機能を保護し、筋形成促進を目指した治療戦略が必要である。インスリン感受性を改善することは、前述の合併症の多くを予防し、生活の質を大幅に改善する可能性がある。しかしながら、肥満2型糖尿病患者の骨格筋におけるインスリン感受性を向上し、肥満に伴う骨格筋の機能低下を予防する治療法は、未開発の分野である。
SGLT2阻害薬は、SGLT2を選択的に阻害し、腎臓におけるグルコース再吸収を抑制し、糖尿病患者における高血糖改善に広く使われている薬剤である。SGLT2阻害薬は、高血糖により引き起こされるさまざまな臓器の機能障害に対し、多様な保護作用を有することが報告されているが、損傷モデルにおいてトホグリフロジンが筋線維の形成を促進するメカニズムについては研究されていなかった。そこで本研究では、高脂肪食負荷による肥満マウスにおいてカルディオトキシン(CTX)による急性損傷後の筋線維の 回復、線維化、運動能力の改善に SGLT2阻害薬治療がどのように作用するかを検討した。
研究グループは、トホグリフロジンが急性骨格筋損傷と回復に与える影響を評価するため、マウスを普通食群、高脂肪食+生理食塩水群、高脂肪食+トホグリフロジン群の3群に分け、12週間摂取させた。その後、CTXを注入して骨格筋損傷を誘発した。
損傷した骨格筋と損傷していない骨格筋の重量割合を調べた結果、高脂肪食+生理食塩水群の骨格筋量が有意に減少したが、高脂肪食+トホグリフロジン群では損傷7日後にこの現象が抑制された。さらに、損傷後3日、7日、10日、14日に、MRIを用いて前脛骨筋(TA)と腓腹筋(GC)を評価したところ、TA と GC の冠状面および横断面は、対照群の生理食塩水群(左足)と比較して、CTX による損傷の典型的な所見を示した(右足)。普通食マウスでのデータは、CTXによる骨格筋損傷後の生理的再生プロセスが損傷後 14 日時点でほぼ完了していたことを示したこれらの結果は、高脂肪食摂取マウスにおけるトホグリフロジン投与が、高脂肪食+生理食塩水群と比較してCTXによって誘導された骨格筋損傷からの回復を促進することを示している。
また、トホグリフロジン投与により、骨格筋幹細胞マーカー遺伝子「Pax7」と筋線維マーカー「MyoG」の発現が上昇し、急性損傷後に骨格筋前駆細胞の活性が上昇した。また、トホグリフロジンはTAにおける肥満に伴うp-AMPK(AMPKリン酸化)の低下を回復させ、ミトコンドリア生成と脂肪酸酸化を活性化するとともに、フォリスタチン(Fst)の発現亢進を介して、損傷後の筋形成を促進した。
今回の結果から、高脂肪食負荷による肥満において、トホグリフロジン投与により改善された糖代謝は、急性骨格筋損傷からの回復を促進し、骨格筋の生理的機能を改善することが示された。しかし、SGLT2阻害薬が、やせ状態と肥満状態で骨格筋機能調節に異なる作用を示す可能性があり、今後さらなる検証が必要となる。研究グループは「トホグリフロジンは、肥満を合併した糖尿病および肥満に伴うサルコペニアや骨格筋機能障害などの管理において重要な役割を果たす可能性がある。」と述べている。
本研究は、富山大学学術研究部医学系内科学第一講座の特命助教 ムハンマド・ビラール氏、准教授 藤坂志帆氏と同大学未病研究センターの特別研究教授 戸邉一之氏らの研究グループによって実施され、研究成果は英国科学誌「Scientific Reports」に2025年10月22日付でオンライン掲載された。





