<ディベート>第一選択薬として優れるのは? 「DPP-4 阻害薬」の立場から

2025.07.17
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第68回日本糖尿病学会学術集会
会長特別企画2 「DPP-4 阻害薬」vs「SGLT2 阻害薬」:第一選択薬としてどちらが優れる?
発表日:2025年5月30日
演者:綿田 裕孝(順天堂大学大学院医学研究科代謝内分泌内科学)

第68回日本糖尿病学会学術集会において、糖尿病の第一選択薬として「DPP-4阻害薬」と「SGLT2阻害薬」とではどちらが優れているのか、ディベートセッションが行われた。「DPP-4阻害薬」の立場に立った綿田裕孝氏は、日本人における血糖降下作用ならびに安全性、心血管イベントへの影響などを挙げ、日本人の多くではDPP-4阻害薬が第一選択薬として優れるとした。

※本講演はディベートセッションとして発表されたものです。必ずしも演者が特定の薬剤・治療法を推奨するものとは限りません。

日本人におけるDPP-4阻害薬の血糖降下作用と安全性

 糖尿病治療では、患者個人の病態に応じて薬剤を選択することが重要である。病態に応じた薬剤選択をすることは、生体内で最もdefectiveな点に作用するため効果的に血糖が低下すると考えられるからである。DPP-4阻害薬は内因性のGLP-1濃度を上昇させることにより、ブドウ糖依存的なインスリン分泌促進作用とグルカゴン抑制作用を持つ。日本糖尿病学会が定める「2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム」では、「肥満」と「非肥満」で二分しており、DPP-4阻害薬は非肥満、すなわちインスリン分泌不全を想定する患者に対しての第一選択薬の一つとして位置づけられている。
 米国糖尿病学会(ADA)の診療ガイドラインでは、DPP-4阻害薬の血糖低下作用は極めて低いとされている。しかし綿田氏は、このことが日本人に当てはまるわけではないことを指摘した。GLP-1受容体のSNP(Arg131Gln変異)がGLP-1によるインスリン分泌を2倍以上にすることが報告されていたが、2019年にSuzukiら 1)はこの変異が東アジア人集団のみで多く認められていることを明らかにしている。本研究結果から、DPP-4阻害薬は内因性GLP-1を刺激することで、欧米人に比べて日本人でより強いHbA1c低下作用を示すことが想定された。実際にDPP-4阻害薬について検討したメタ解析では、アジア人は非アジア人に比べDPP-4阻害薬の強いHbA1c低下作用が認められた 2)。また日本人と非日本人を比較したシステマティックレビューでも、日本人は非日本人に比べHbA1c低下作用について有意な差が認められた 3)
 綿田氏は、DPP-4阻害薬においては安全性についても確立しているとして、その理由を述べた。まず、DPP-4阻害薬はその作用機序から単剤使用では低血糖リスクが低い。また体重への影響も不変であることから、体重減少効果を有するSGLT2阻害薬に比べ、多くの患者において使いやすい可能性がある。腎排泄型薬剤における腎機能低下例での減量や、ビルダグリプチンにおける重篤な肝機能障害での禁忌といった注意点があるものの、適切な薬剤選択を行えばリスクは回避可能である。心不全についても、一部の薬剤では心不全リスクを高めることが報告されているが、当該薬剤を使わなければ問題ない。特徴的な副作用として水疱性類天疱瘡が挙げられるが、DPP-4阻害薬による水疱性類天疱瘡は非炎症型が多く 4, 5)、発現頻度も低い。また綿田氏は、DPP-4阻害薬は臨床応用されてから約15年となるが、2020年までの高齢2型糖尿病患者での16試験のメタ解析では安全性について問題なかった 6)ことも述べた。

DPP-4阻害薬の心血管イベントへの影響

 通常、糖尿病治療薬の投与によりHbA1cを低下させることで心血管イベントも抑制されることが考えられる。しかしながら、チアゾリジン誘導体であるRosiglitazoneは、その血糖降下作用から1999年に米国で、翌2000年に欧州でも承認され2型糖尿病治療に使用されたが(※本邦では未承認)、その後42試験のメタ解析の結果、Rosiglitazoneの投与によりむしろ心血管イベントのリスクが高まることが明らかとなり 7)、同剤は販売中止となった。綿田氏は、このことから糖尿病治療薬のCV安全性試験は、被験薬の使用が標準的治療に比べCVリスクを上昇させないことの検証を目的としてデザインされるようになったことを指摘。DPP-4阻害薬は、SAVOR-TIMI 53、EXAMINE、TECOS、CARMELINA、CAROLINAといったFDAガイダンスに基づく大規模心血管アウトカム試験が実施されているが、これらの試験のメタ解析では、主要心血管イベント(MACE)を増加させなかったことを述べた 8)
 では、SGLT2阻害薬ではどうか。EMPA-REG OUTCOME試験では、エンパグリフロジンが心血管死を38%抑制させたという結果 9)が報告されたことは記憶に新しいが、クラス全体で見たときには異質性があると綿田氏は指摘した。実際に、SGLT2阻害薬4種に関する6つのRCTのメタ解析 10)では、心血管死の抑制に関してEMPA-REG OUTCOME試験とそれ以外の試験とで有意な異質性があった。また、心筋梗塞は全体で8%の有意差が見られたものの、脳卒中では有意差が見られず、このことから綿田氏は、SGLT2阻害薬が動脈硬化に対してどこまで作用しているかについては疑問が残るとした。
 動脈硬化への作用が示されている薬剤としては、GLP-1受容体作動薬が挙げられる。同剤の試験を対象としたメタ解析では、各薬剤間での異質性なく心血管死、心筋梗塞、脳卒中の有意な抑制が示されていた 11)。前述のArg131Gln変異も踏まえると、日本人におけるGLP-1受容体を介した免疫抑制効果による動脈硬化抑制の可能性が示唆される。このことから、同様にGLP-1を介するDPP-4阻害薬においても動脈硬化を抑制する可能性が考えられるとし、綿田氏は自身が実施したSPEAD-A試験について紹介。本試験は、明らかな心血管疾患を有しない日本人2型糖尿病患者を対象として、アログリプチンの頸動脈IMT(内膜中膜肥厚度)進展抑制について検討しており、アログリプチン群で総頸動脈のIMT進展が有意に抑制された 12)。さらに、延長研究(SPEAD-A Extension Study)では、DPP-4阻害薬を追跡期間中に使用した群は非使用群に比べ心血管イベントが抑制される結果であった 13)。またJPAD2 Studyにおいても、同様に心血管イベント歴のない日本人を対象に検討したところ、DPP-4阻害薬投与群は非投与群に比べイベントが抑制されたことが示された 14)

日本人の大規模データベースを用いたDPP-4阻害薬とSGLT2阻害薬の比較

 日本人の大規模データベースを用いた解析では、DPP-4阻害薬とSGLT2阻害薬の死亡、心筋梗塞、脳卒中、心不全に対する効果が検討されている 15)。本検討によると、SGLT2阻害薬が優れるとされるのはBMI25以上からであり、BMI22.5未満では、DPP-4阻害薬投与群とSGLT2阻害薬投与群間で、死亡、心筋梗塞、脳卒中、心不全の頻度に有意な変化は認められなかった。むしろ死亡についてはDPP-4阻害薬群と比較してSGLT2阻害薬投与群は高い傾向であった。このことから綿田氏は、BMI25未満の日本人においてはSGLT2阻害薬の有効性について再考する必要があるのではないかとした。
 綿田氏は最後に、前述の日本人における血糖降下作用ならびに安全性、心血管イベントへの影響、さらにはコストや服薬継続率も考慮するとDPP-4阻害薬が有利であるとし、明確な末期腎不全進展が危惧される場合、心不全による予後悪化が危惧される場合、体重減少が望まれる場合を除けば、多くの日本人2型糖尿病患者においてDPP-4阻害薬が第一選択薬として優れていると考えられると結論付けた。

文 献

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[ 糖尿病リソースガイド編集部 / 日本医療・健康情報研究所 ]

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