糖尿病・肥満症の治療薬GLP-1受容体作動薬が片頭痛を大幅に低減 片頭痛の治療に転用できる可能性を示唆 欧州神経学アカデミーで発表

GLP-1受容体作動薬が片頭痛の頻度を大幅に低減
体重減少は頭痛の頻度に影響を与えていないことも確認
糖尿病・肥満症の治療に使われているGLP-1受容体作動薬が、片頭痛の頻度を大幅に低減したというパイロット前向き観察研究の結果が発表された。
研究は、イタリアのナポリ大学頭痛センターのSimone Braca氏や神経学部のRoberto Simone氏らによるもの。詳細は、6月にヘルシンキで開催された欧州神経学アカデミー(EAN)2025年会議で発表された。
研究グループは、肥満と慢性片頭痛(頭痛日が月に15日以上)を有する成人患者26人に、GLP-1受容体作動薬(リラグルチド)を投与した。その結果、頭痛日数は月に平均して11日減少し、片頭痛障害評価テストのスコアは35ポイント低下し、仕事、学業、社会生活での臨床的に意義のある改善が示された。
参加者のBMI(体格指数)は34.01から33.65にわずかに低下したものの、この変化は統計的に有意ではなかったとしている。共分散分析の結果、BMIの低下は頭痛の頻度に影響を与えていないことが確認され、体重減少ではなく血圧調節が効果をもたらしたという仮説を示している。
「ほとんどの患者は、最初の2週間以内に体調が良くなり、QOLが著しく向上したと報告した。体重減少はわずかで統計的に有意ではなかったが、その効果は3ヵ月間の観察期間の全体にわたり持続した」と、主任研究者のBraca氏は述べている。
試験に参加した患者は、乳頭浮腫(頭蓋内圧亢進による視神経乳頭の腫脹)と第6脳(外転)神経麻痺を除外するためのスクリーニングを受け、特発性頭蓋内圧亢進症(IIH)も交絡因子として除外された。
GLP-1受容体作動薬が片頭痛を低減するメカニズムとして、脳脊髄液分泌を抑制する可能性を示唆している。このことは、IIHの治療で効果があることがすでに証明されており、頭蓋内圧のわずかな上昇と片頭痛発作との密接な関連を示すエビデンスは増えているとしている。
これらの観察結果にもとづき、同じ作用機序を利用することで、片頭痛の根底にある皮質および三叉神経の感作を最終的に抑制できる可能性があるという仮説を、Braca氏らは示している。
「GLP-1受容体作動薬は、脳脊髄液圧を調節し、頭蓋内の静脈洞の圧迫を軽減することで、片頭痛を促進する主要なペプチドであるカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)の放出を減少させると考えられる。これは、頭蓋内圧のコントロールを薬理学的な標的にする経路となる可能性を示唆している」と、Braca氏は指摘している。
なお、今回の試験では軽度の胃腸系の副作用(主に吐き気と便秘)が参加者の38%で発生したが、治療中止にはいたらなかったとしている。
この12週間の探索的パイロットスタディの結果を得て、Simone氏らの研究グループは、直接あるいは間接的な頭蓋内圧の測定をともなうランダム化二重盲検試験を計画している。
「リラグルチド以外のGLP-1受容体作動薬も、同様に片頭痛の軽減効果をもたらすかや、消化器系の副作用をさらに少なくできるかを検討したいと考えている」と、Braca氏は述べている。
GLP-1受容体作動薬は、糖尿病や心血管疾患を含むさまざまな疾患の治療アプローチで有用と注目されており、2型糖尿病の治療では、血糖値を下げ、食欲を抑制しエネルギー摂取量を減らし、減量にも役立つことが報告されている。
「2型糖尿病と肥満症の治療薬として確立されているGLP-1受容体作動薬が、神経学での薬剤転用の有望な事例となる可能性がある。片頭痛は世界中で7人に1人が経験している。とくに既存の治療薬が効かない患者にとって、新たな治療選択肢となると期待している」としている。
From blood sugar to brain relief: GLP-1 therapy slashes migraine frequency (MedLink Neurology 2025年6月24日)
EAN 2025 - A pilot prospective observational study exploring GLP-1R agonists in the treatment of migraine (欧州神経学アカデミー 2025年6月24日)