認知症発症への強い不安「認知症恐怖」 強すぎる不安を適切に管理する介入が必要 名古屋大学

2025.07.08
 自分が認知症を発症することをイメージして、強い不安を感じる中高年者には4つの特徴があることが、名古屋大学が40歳以上の約1,000人を対象に行った調査で明らかになった。

 4つの特徴とは、(1) 認知症に関わる知識が多い、(2) 最近1年間に悩まされた症状が多い、(3) 中等症以上の抑うつがある、(4) 父母のいずれか、もしくは両親が、認知症の診断を受けている。

 「誰もが認知症になりうることを前提とした、認知症があってもなくても、ともに生きることのできる共生社会の実現が急務です」と、研究者は述べている。

自分の認知症の発症をイメージして強い不安に駆られる人の特徴

 認知症を発症していないにもかかわらず、自分が認知症を発症することをイメージして強い不安を感じている中高年者に4つの特徴があることが、名古屋大学の調査で明らかになった。

 研究グループ今回、自分が認知症を発症することをイメージして強い不安を感じる人たちの特徴を明らかにすることを目指し、愛知県、岐阜県に住む40歳以上(平均年齢 64.8歳)の中高年者、1,045人を対象に調査を行った。

 その結果、(1) 認知症に関わる知識が多い、(2) 最近1年間に悩まされた症状が多い、(3) 中等症以上の抑うつがある、(4) 父母のいずれか、もしくは両親が、認知症の診断を受けているという4つの特徴をもつ中高年者は、そうでない人に比べて、自分が認知症を発症することをイメージして強い不安を感じていることが明らかになった。

 研究は、名古屋大学大学院医学系研究科の星野純子准教授、中山綾子氏らの研究グループによるもの。研究成果は、「International Journal of Mental Health Nursing」に掲載された。

出典:名古屋大学、2025年

「認知症恐怖」に対策
認知症発症への強い不安を適切に管理するための介入が必要

 自分が認知症を発症することをイメージして、「自分を始末したい」「絶対になってはいけない」というように、否定的な気持ちをもつ人々がいることが、これまでの先行研究や海外の研究により明らかになっている。

 こうした強い不安は、国際的には「認知症恐怖(Dementia Worry)」と呼ばれており、死にたいという気持ちの強さや人生の幸福感の低下などとも関連し、生活の質を低下させている場合がある。またこうした不安が、認知症と共生できる社会の実現を妨げていると指摘されている。

 調査では、中高年者は認知症についての知識をもつ人ほど、自分の認知症の発症に対し、強い不安を感じているということが明らかになった。これは、認知症に関する知識や理解をどのように社会に普及させていくのかを再検討する必要があることを示している。

 さらに、頭痛や倦怠感など、最近悩まされた身体的症状が多い中高年者も、自分の認知症発症に強い不安を感じていることが示された。さまざまな身体的不調が、自分が認知症を発症することへの強い不安につながっている可能性がある。

 「誰もが認知症になりうることを前提とした、認知症があってもなくても、ともに生きることのできる共生社会の実現が急務です」と、研究者は述べている。

 「地域の人々への認知症教育に追加が必要な内容を提案したり、身体的な不調を緩和したりするなど、自分の認知症発症への強い不安を適切に管理できるようにするための研究を計画しています」としている。

「認知症恐怖」は人生の幸福感の低下などと関連し生活の質を低下させる
強すぎる不安は認知症と共生できる社会の実現を妨げると指摘

出典:名古屋大学、2025年

不安は適切な支援を受けることを妨げる
認知症との共生社会を実現するために必要なものは?

 厚生労働省の推計によると、65歳以上の高齢者のうち認知症の人の割合は12%に上り、認知症の前段階とされている軽度認知障害の割合は16%に上る。両方を合わせると、3~4人に1人は認知機能に関わる症状があることになる。

 日本では、誰もが認知症になりうることを前提に、認知症への正しい知識や理解を広く浸透させるための施策が進められている。

 「自分が認知症を発症することへの適度な不安は、予防行動や受診行動を促しますが、強すぎる不安は、適切な支援を受けることを妨げます。また、自分の認知症発症をイメージして強い不安を感じることにより、生活の質が低下している人もいます」と、研究者は述べている。

 「自分の認知症発症に強い不安を感じている人たちを特定し、その不安を適切に管理するための支援や看護を提供できれば、その人たちの生活のつらさを和らげることができます」。

 「今回の研究の成果は、自分の認知症発症に強い不安を感じている人たちを効率的に発見し、効果的に支援することに役立つ可能性があります。たとえば、すでに認知症に関わる一定程度の知識をもっている人たちを対象に、自分の認知症発症に強い不安を感じていないかどうかを確認し、不安を感じている場合は、その不安を和らげるために必要な知識や情報を追加的に提供するという看護が可能になります」。

 「最近1年間に悩まされた身体的な症状が多い人も、自分の認知症発症に強い不安を感じていることが分かりました。これは、頭痛や倦怠感、腹痛など、さまざまな身体的な不調の管理も、自分の認知症発症への強い不安の管理に役立つ可能性を示しています」。

 「自分が認知症を発症することに強い不安を感じている人たちへのこのような看護により、認知症との共生社会の実現に貢献できると考えられます」としている。

名古屋大学大学院医学系研究科・医学部医学科
Factors Associated With Dementia Worry Among Middle-Aged or Older Adults Living in a Japanese Community: A Cross-Sectional Study (International Journal of Mental Health Nursing 2025年6月9日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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