「糖が新しい脂肪細胞をつくるスイッチ」エピゲノム書き換え酵素JMJD1Aを同定 東北大学・秋田大学

2025.08.21

栄養が過剰摂取されると、脂肪組織内の脂肪細胞は「肥大化」するか、新たな細胞を「増生」する。中でも増生は代謝に有益な反応とされる。東北大学と秋田大学の研究グループは、糖がエピゲノム修飾酵素JMJD1Aを活性化し、エピゲノムを書き換えることで新たな脂肪細胞の形成を促す仕組みを解明した。

 栄養の過剰摂取による肥満は、2型糖尿病など生活習慣病発症の一因であり、脂肪の増加にはマイナスイメージがある。しかし、脂肪の増加は必ずしも健康に悪影響を及ぼすわけではない。脂肪組織内の脂肪細胞は摂食後に余剰な栄養分を脂肪として蓄え、空腹時には蓄えた脂肪を分解して全身の細胞にエネルギー源として供給する役割を担っている。脂肪組織は全身のエネルギー恒常性を維持するために、環境および栄養シグナルに応じて動的にリモデリング(再構築)する。栄養を過剰摂取した脂肪組織では、脂肪細胞の肥大化と増生という2種類のリモデリングが起こる。肥大化では、元々存在する脂肪細胞に脂肪が蓄えられて細胞が大きくなり、糖代謝異常、炎症反応、インスリン抵抗性の悪化に関わる。一方、増生では前駆脂肪細胞から新たに脂肪細胞が形成される。増生は糖代謝を促進し、炎症反応を抑え、インスリン抵抗性を改善するため、代謝面では好ましい適応反応と考えられている。また、エピゲノムは遺伝子の発現を制御して細胞機能や分化を調節し、環境変化に適応するようにはたらく。だが、過剰な栄養状態がどのような仕組みでエピゲノムを書き換え、新たに脂肪細胞を形成するかはこれまで明らかではなかった。

 同研究グループは前駆脂肪細胞から脂肪細胞への分化過程に着目し、メタボローム・トランスクリプトーム・エピゲノム解析を用いて、代謝物・エピゲノム・遺伝子発現の相互作用を詳細に解析した。その結果、過剰な糖(グルコース)が細胞内に取り込まれ解糖系およびクエン酸回路で代謝されることで、ヒストン脱メチル化酵素活性化因子であるα-ケトグルタル酸(αKG)が増加し、エピゲノム修飾酵素であるJMJD1A(ヒストン脱メチル化酵素の1つ)が活性化されることが明らかになった。

 ヒストンH3タンパクにおける9番目のリジン(H3K9)のメチル化は転写を抑制する。そのため、H3K9の脱メチル化は脂肪細胞の分化に不可欠とされる。活性化されたJMJD1Aはエピゲノムを書き換え、脱メチル化を促す。JMJD1Aはまた転写因子であるChREBPを標的遺伝子へと局在化させることで、糖代謝および脂肪細胞分化に関わる遺伝子発現を誘導し、前駆脂肪細胞から脂肪細胞への分化を急速に促進することが明らかになった。さらに、JMJD1A欠損マウスでは脂肪組織の増生が起こらず、既存の脂肪細胞が肥大化し炎症が進行することも確認されている。

 この研究は、東北大学大学院医学系研究科 分子代謝生理学分野の酒井寿郎教授と秋田大学大学院医学系研究科 分子機能学代謝機能学講座の松村欣宏教授らのグループによって実施された。研究成果は2025年7月26日付で学術誌『Cell Reports オンライン版』に掲載されている。この研究結果によって糖がエピゲノム修飾酵素を活性化し、脂肪細胞の形成を促す仕組みが明らかになった。研究グループは今回の成果について「今後の肥満症および糖尿病に対する予防・治療法の新たな開発につながることが期待される」としている。

[ 糖尿病リソースガイド編集部 / 日本医療・健康情報研究所 ]

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