糖尿病患者の腎臓病悪化を早期予測 新たなバイオマーカー「eGFRdiff」の有用性を報告 順天堂大学

2025.08.14
順天堂大学の研究グループらは、糖尿病と診断された患者において、血清クレアチニンとシスタチンCから算出される推算糸球体濾過量(eGFR)の差である「eGFRdif」が、腎疾患の進行および生命予後を予測する新たなバイオマーカーとして有用であることを明らかにしたと発表した。

 糖尿病は、進行すると腎不全に至る糖尿病関連腎臓病を引き起こし、透析導入の主要な原因となる。糖尿病患者では、タンパク質異化亢進や慢性炎症が複合的に作用し、筋肉量の減少や筋力低下を特徴とするサルコペニアやフレイルが進行することが知られている。これまで、腎機能評価には血清クレアチニン(Cr)に基づくeGFRcrが広く用いられてきたが、筋肉量の影響を受けやすいという課題があった。一方、血清シスタチンC(cys)に基づくeGFRは筋肉量の影響を受けにくいため、より正確な腎機能評価が可能とされている。しかし、両者のeGFRの差(eGFRdiff)が、糖尿病と診断された患者の予後予測にどの程度寄与するかは十分に検討されていなかった。

 そこで本研究グループは、糖尿病と診断された患者のコホートデータベースを用いて、Crとcysから算出されるeGFRの差(eGFRdiff)が、腎疾患の進行および生命予後とどのように関連するかを解析。特に、既存の腎機能指標(尿アルブミンおよびeGFRcr)で補正後も、eGFRdiffが腎疾患の進行および生命予後予測に有用かを検討した。

 解析の結果、eGFRdiffが大きいほど、腎疾患の進行(ベースラインから30% eGFRcr低下)や全死亡のリスクが増加していた。この関係は、eGFRcrで補正後も維持されており、この結果について研究グループは、eGFRdiffがこれらの既存指標とは異なる独自の予後予測情報を持つことを示しているとした。eGFRdiffの算出に必要なCrとcysは、日常の血液検査で広く測定されているため、eGFRdiffは、特別な検査機器やコストを要さず、日常診療にすぐに導入できる実用的指標となりうる。

 さらに本研究では、eGFRdiffが既存のマーカーとは異なる情報を提供する可能性についても報告している。GDF-15(Growth Differentiation Factor-15)は、炎症や心血管疾患、サルコペニアに関連するバイオマーカーとして知られており、糖尿病患者の予後予測にも有用であると報告されている。このGDF-15とeGFRdiffとの関連を多変量解析で評価した結果、腎機能指標などで補正後も、両者には有意な関連が認められた。この結果から、eGFRdiffはGDF-15のようなサルコペニアや慢性炎症を反映するマーカーと関連しており、単なる腎機能評価にとどまらず、全身状態を反映する可能性があると考えられた。

 また、eGFRdiffは尿アルブミンやeGFRcrといった腎機能指標とは異なる情報を提供しうることから、これらと組み合わせることで、糖尿病と診断された患者における腎疾患の進行および生命予後のリスクを、より精密に層別化できる可能性が示唆された。

 本研究は、順天堂大学大学院医学研究科腎臓内科学の合田 朋仁氏、村越 真紀氏らの研究グループと、共同研究者の広島赤十字・原爆病院内分泌・代謝内科の亀井 望氏、札幌医科大学内科学講座循環病態内科学分野の古橋 眞人氏らによって実施され、研究結果は、Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle誌のオンライン版に2025年7月23日付で掲載された。順天堂大学の研究グループは今後、臨床現場でのeGFRdiffの活用法や介入方法、治療効果について更なる研究を進めることで、糖尿病関連腎臓病の予後改善に貢献する方針を示している。

[ 糖尿病リソースガイド編集部 / 日本医療・健康情報研究所 ]

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