1型糖尿病患者に幹細胞から分化した膵島細胞を移植 インスリンが不要になり重症低血糖も排除 米国糖尿病学会で発表

2025.07.01
 幹細胞から分化したインスリンを分泌する膵島細胞を、重症低血糖などがある血糖管理が困難な1型糖尿病患者12人に移植する第1相・第2相試験を実施した結果、12ヵ月後に病状に明らかな改善がみられ、12人中10人が外因性インスリンの必要がなくなり、重度の低血糖イベントを排除できたという研究が発表された。

 研究成果は、6月にシカゴで開催された「第85回米国糖尿病学会年次学術集会」(ADA 2025)で発表され、「New England Journal of Medicine」に掲載された。

幹細胞から分化した膵島細胞を移植
インスリンが不要になり重症低血糖も排除
1型糖尿病の画期的な治療選択肢をもたらすと期待

 研究は、ペンシルベニア大学病院の膵島細胞移植プログラムのディレクターであり、同大学医学部内分泌・糖尿病・代謝部門の教授であるMichael Rickels氏らによるもの。トロント大学、ウィスコンシン大学、シカゴ大学、ピッツバーグ大学、シティ オブ ホープ国立医療センター、ライデン大学、南カリフォルニア大学、ルーベン カトリック大学、ダナ ファーバーがん研究所、ボストン小児病院、マイアミ大学の研究者も参加した。

 今回の第1相・第2相試験に使われた「Zimislecel(VX-880)」は、米Vertex Pharmaceuticals社が開発している、同種幹細胞から分化したインスリンを分泌する膵島細胞を移植する治療法。グルコース応答性インスリン産生を含む膵島細胞の機能を回復させ、血糖値を調節する能力を回復するというもの。

 試験に参加した1型糖尿病患者は、低血糖性認識障害および重症低血糖イベントがあり、血糖管理が困難だった。

 研究グループは試験の、パートAではZimislecelの半量(0.4×109cells)を単回投与し、2年以内に残りの半量を追加投与するオプションが含まれた。パートBおよびパートCではZimislecelの全量(0.8×109cells)を単回投与した。参加者全員は、グルココルチコイドを含まない免疫抑制療法も受けた。

 主要評価項目は、パートAは安全性だった。パートCは90日~365日の期間に重度の低血糖イベントが発生しないこと、180日~365日の1つ以上の時点でのHbA1c値 7%未満、あるいはHbA1c値がベースラインから1パーセントポイント以上の低下とした。

 パートCの副次評価項目は、180日~365日の安全性およびインスリン非依存度で、主要評価項目および副次的評価項目の評価には、パートBあるいはパートCでZimislecelの全用量を単回注入で投与された参加者が参加した。4時間の混合食負荷試験中に血清Cペプチドを検出し、移植および膵島機能を評価した。すべての分析は中間結果であり、事前に規定されていなかった。

 その結果、計14人の参加者(パートA 2人、パートBおよびC 12人)が、12ヵ月以上の追跡調査を完了し、解析の対象となった。主な内容は次の通り――。

  •  グルコース応答性の内因性Cペプチド産生は、14人の参加者全員でベースラインでは検出されなかったが、Zimislecel投与後は全員で検出されるようになり、移植および膵島機能が認められた。

  •  血糖管理の目標であるHbA1c 7%未満が達成され、血糖値が目標(70~180mg/dL)におさまった時間は70%以上になった。

  •  移植により、1日のインスリン投与量は平均して92%減少し、外因性インスリン使用量が減少した。移植後12ヵ月の時点では12人中10人(83%)が外因性インスリンを必要としなくなり、インスリン療法から離脱した。

  •  90日目以降はパートBおよびCの12人の参加者全員で重症低血糖イベント(SHE)が発生しなかった。

  •  移植を受けた患者はおおむね良好な忍容性を維持し、有害事象(AE)のほとんどは軽度あるいは中等度だった。もっともよくみられた重篤な有害事象は好中球減少症で、3人の患者で発生した。

 なお、今回の試験では2人の死亡が発生しており、1人はクリプトコッカス髄膜炎によるもので、もう1人は既存の神経認知障害の進行による激越をともなう重度の認知症によるものだったとしている。

 「完全に分化した幹細胞由来の膵島細胞を移植する治療は、前例のないはじめてのものだ。12人の患者対象に、1年以上の追跡調査を行った結果、全員から規模、一貫性、持続性についての良好な結果を得られたことは、重度の低血糖を合併している1型糖尿病患者にとって変革をもたらす可能性を示唆している」と、Vertex Pharmaceuticals社のCarmen Bozic氏は述べている。

 「ベースラインのHbA1cが7%を超え、重度の低血糖を複数回経験している12人の1型糖尿病患者の全員が、HbA1cと血糖値の範囲内時間の両方で、血糖管理の目標を達成でき、重度の低血糖イベントを排除できたことに注目している」と、ペンシルベニア大学病院の膵島細胞移植プログラムのディレクターでもあるRickels教授は言う。

 「糖尿病の管理をしている1型糖尿病患者や、1型糖尿病のコミュニティでの現状の満たされていないニーズについて考えると、幹細胞由来の膵島を移植する治療により、内因性インスリン分泌を回復できることを示した今回の試験の成果は、そう遠くない将来に、1型糖尿病の患者にとって画期的な治療選択肢をもたらすことなるだろうという希望を与える」としている。

Vertex Presents Positive Data for Zimislecel in Type 1 Diabetes at the American Diabetes Association 85th Scientific Sessions (Vertex Pharmaceuticals 2025年6月20日)
Stem Cell–Derived, Fully Differentiated Islets for Type 1 Diabetes (New England Journal of Medicine 2025年6月20日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

糖尿病・内分泌プラクティスWeb 糖尿病・内分泌医療の臨床現場をリードする電子ジャーナル

糖尿病関連腎臓病の概念と定義 病態多様性 低栄養とその対策
小児・思春期1型糖尿病 成人期を見据えた診療 看護師からの指導・支援 小児がんサバイバーの内分泌診療 女性の更年期障害とホルモン補充療法 男性更年期障害(LOH症候群)
神経障害 糖尿病性腎症 服薬指導-短時間で患者の心を掴みリスク回避 多職種連携による肥満治療 妊娠糖尿病 運動療法 進化する1型糖尿病診療 糖尿病スティグマとアドボカシー活動 糖尿病患者の足をチーム医療で守る 外国人糖尿病患者診療
インクレチン(GLP-1・GIP/GLP-1)受容体作動薬 SGLT2阻害薬 NAFLD/NASH 糖尿病と歯周病 肥満の外科治療 骨粗鬆症 脂質異常症 がんと糖尿病 クッシング症候群 甲状腺結節 原発性アルドステロン症
エネルギー設定の仕方 3大栄養素の量と質 高齢者の食事療法 食欲に対するアプローチ 糖尿病性腎症の食事療法
糖尿病薬を処方する時に最低限注意するポイント(経口薬) GLP-1受容体作動薬 インスリン 糖尿病関連デジタルデバイス 骨粗鬆症治療薬 二次性高血圧 1型糖尿病のインスリンポンプとCGM

医薬品・医療機器・検査機器

糖尿病診療・療養指導で使用される製品を一覧で掲載。情報収集・整理にお役立てください。

一覧はこちら

最新ニュース記事

よく読まれている記事

関連情報・資料