進化する薬と課題~CKD治療の最前線~
第70回日本透析医学会学術集会・総会
学会・委員会企画1 腎不全総合対策委員会企画
「地域を踏まえた腎不全対策を考える」
発表日:2025年6月27日
演題:「CKD治療薬の腎不全医療への影響~期待と現実~」
演者:深水 圭(久留米大学医学部内科学講座腎臓内科部門)

CKD(慢性腎臓病)に対する薬物療法は近年、大きく進歩している。もとは糖尿病治療薬であった薬がCKDにも適用拡大するなどしており、今では保存期CKDの治療薬には様々な選択肢がある。その一方で、保存期では有効とされる薬剤の多くが、透析期に移行すると使用できなくなるという現状が存在する。久留米大学医学部内科学講座腎臓内科部門の深水圭氏は、透析期における治療選択肢の新たな可能性について講演した。
治療薬の進化とジレンマ
CKD保存期の薬物療法は、SGLT2阻害薬、nsMRA(非ステロイド性ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)、GLP-1受容体作動薬といった薬剤の登場により、腎保護効果や心血管イベントの抑制効果が得られるようになってきた。
たとえば、SGLT2阻害薬のダパグリフロジンはDAPA-CKD試験において、腎機能の持続的な低下、末期腎不全への進展、心血管死、腎臓死といった主要複合エンドポイントの発現リスクを39%低下させた1)。SGLT2阻害薬はこの試験で糖尿病患者以外にも有効であることを示したことから、以後CKD治療薬として使われることとなった。
また、同じくSGLT2阻害薬であるエンパグリフロジンは、EMPA-KIDNEY試験により、糖尿病の有無を問わず、腎疾患の進行や心血管死のリスクを28%抑制する効果が示されている2)。
さらに、FIDELIO-DKD試験では、nsMRAであるフィネレノンが2型糖尿病合併CKDにおいて腎不全や腎機能低下、腎臓死の発現リスクを18%減少させたことから、現在では保険適用となっている3)。
これらの治療法の有効性をさらに高めるものとして、最近発表されたのが「CONFIDENCE研究」である4)。同研究では、2型糖尿病合併CKD患者に対して、エンパグリフロジンとフィネレノンの同時投与と、それぞれの単剤投与との効果を比較した。その結果、同時投与群では単剤投与群に比べてアルブミン尿が52%低減する結果となった。また、収縮期血圧も約7〜8mmHg低下し、血圧管理にも寄与することが示された。
SGLT2阻害薬では、投与開始初期にeGFRの一時的な低下(initial dip)が認められることがあるが、フィネレノンとの同時投与では単剤投与時よりも深い−6mL/min/1.73㎡程度のdipが生じた4)。ただし、この低下は30%に及ぶような急激な悪化ではなく、その後はプラトーを形成する傾向が確認された。アルブミン尿の改善や血圧改善といったベネフィットと合わせて、慎重な経過観察のもとでの活用が求められる。
このように、CKD保存期の薬物療法について研究が進んでいるが、eGFRが15mL/min/1.73㎡未満となる透析期に使用できる薬剤は大きく減る。GLP-1受容体作動薬は、糖尿病関連腎臓病(DKD)に対して腎保護と心不全予防の両面で有用性が報告されており5)、透析期も継続使用が推奨されているが、SGLT2阻害薬およびnsMRA(フィネレノン)はいずれも透析患者は適用外となる。保存期と透析期の間に横たわるこのジレンマをどう扱っていくかが、腎不全治療における大きな課題となっている。
透析導入後の使用可能性を探る試験の現状について
そんな中、SGLT2阻害薬を透析導入後も投与した際の効果を検証する「Renal Lifecycle Trial」が現在ヨーロッパを中心に行われている6)。
本試験は、eGFRが25 mL/min/1.73㎡未満の保存期CKD患者、透析導入から3か月以上経過した患者、腎移植から6か月を経てeGFRが45 mL/min/1.73㎡未満の患者など約1500人を対象に、ダパグリフロジン10mgの投与が、全死亡、心不全による入院、非透析患者における末期腎不全への移行といったアウトカムに与える影響が評価されている。日本人は含まれていないが、特に透析期、末期腎不全期におけるSGLT2阻害薬による治療の可能性を探る注目すべき試験である。
また、今後の治療薬として期待されるアルドステロン合成酵素阻害薬(ASi)の治験が進行中である。ASiは、ミネラルコルチコイド受容体(MR)を阻害するMRAとは異なり、アルドステロンの産生そのものをCYP11B2阻害によって抑制する。従来のASiではCYP11B1も阻害されるため、副腎皮質ホルモン(コルチゾール)の合成が抑えられ、副腎不全のリスクが問題となっていたが、この課題を克服したのが、Baxdrostatである。本薬剤はCYP11B2を選択的に阻害し、コルチゾールに大きな影響を与えずにアルドステロンの産生を低下させる。現在進行中のBaxDuo-ARCTIC studyでは、Baxdrostatとダパグリフロジンの併用によるeGFRスロープ変化が評価項目となっており、2027年12月の試験終了が予定されている7)。日本人も対象に含まれており、国内臨床への応用が期待される。
さらに、別のASi であるVicadrostatとエンパグリフロジンの併用を評価する試験も進行中である。Phase II試験では、eGFR51 mL/min/1.73㎡、アルブミン尿400mg程度の患者において、プラセボ+Vicadrostatでも尿蛋白が減少したが、併用群ではさらに有意な低下が確認され、クッシング症候群などの有害事象も少なかった8)。現在進行中のPhase Ⅲ studyであるEASi-KIDNEY試験は我が国でも行われており、eGFRのスロープではなく、透析導入、腎疾患の進展、心血管死や心不全による入院、eGFR40%以上の低下といったハードアウトカムが評価項目となっている9)。
ASiとMRAは異なる作用機序を持つ。MRAはアルドステロンに加えて、コルチゾールや酸化ストレス、高血糖などによって活性化されるMRを幅広く抑制できる点が特徴である10)。一方で、MRを介さない経路に対しては、ASiの方が優位に働く。今後、両者の有用性を比較するhead-to-head試験(新薬と既存薬の比較試験)が求められる段階に来ている。
現在、糖尿病合併CKDにのみ適用のあるフィネレノンについても、適用拡大を目指すFIND-CKD試験が進行中である11)。非糖尿病CKDに対する有用性が確認されれば、治療選択肢がさらに広がる。
腎不全医療の地域格差をなくすために
保存期CKDに対する薬物療法の研究は進展しているが、それを地域医療の現場へと浸透させるには、いくつかの課題が残されている。たとえば福岡県では、女性の透析導入が減少傾向にある一方で、男性の特に75歳以上の導入率が高い。一方、北海道や熊本などでは75歳以上の男性の透析導入率も減っている12)。こうしたことから、地域によりCKD対策が十分に行き届いていない実情が見てとれる。地域で何が違うのか、腎不全対策がどう違うのかを精査していく必要があるが、差が生じている要因のひとつの可能性として、腎臓専門医の地域偏在がある。また、全国のCKD患者は約2,000万人13)にのぼると言われており、その全てを腎臓専門医だけで診ることは不可能だ。
CKD治療の地域格差をどのようになくしていくかは今後の大きな課題である。
深水氏は「全国の市町村にCKD治療、そして腎不全治療を根づかせていくためには、啓発と同時に、保健所の方々や看護師さんなど多職種の皆さんにご協力をいただきながら、実地医家の先生方にCKD治療を担っていただくことが重要となる。薬の使い方においては、進行を防ぐための薬理学的介入を適切なタイミングで行う、SGLT2阻害薬のCKD患者への投与割合や、DKDにおけるSGLT2阻害薬+フィネレノンとの併用割合を上げていく、DKDがあれば上記に加えてGLP-1RAを積極的に使用するといった治療を全国の隅々までいきわたらせていくことが患者さんのQOLや寿命延長につながると考えている」と述べ、締めくくった。
文献
- Heerspink HJL, et al. N Engl J Med. Sep 24;383(15):1436–1446, 2020.
- The EMPA-KIDNEY Collaborative Group. N Engl J Med. Jan 5;388(1):117–127, 2023.
- Bakris GL, et al. N Engl J Med. Dec 3;383(23):2219–2229, 2020.
- Nephrol Dial Transplant. Jun 14;gfac198, 2022.
- Perkovic V, et al. N Engl J Med. May 24;391(2):109–121, 2024.
- The RENAL LIFECYCLE Trial: A RCT to Assess the Effect of Dapagliflozin on Renal and Cardiovascular Outcomes in Patients With Severe CKD.
- A Phase III Study to Investigate the Efficacy and Safety of Baxdrostat in Combination With Dapagliflozin on CKD Progression in Participants With CKD and High Blood Pressure.
- Tuttle KR, et al. Lancet. Jan 27;403(10424):379–390, 2024.
- Judge PK, et al. Nephrol Dial Transplant. May 30;40(6):1175–1186, 2025.
- Ando H. Hypertension Research. Apr;46(4):1056–1057, 2023.
- バイエル フィネレノンの第Ⅲ相臨床試験プログラムを非糖尿病性の慢性腎臓病患者に拡大
- 厚生労働行政推進調査事業費補助金 腎疾患政策研究事業 全国の取り組み・年次推移
- 日本腎臓学会 CKD診療ガイドライン2024. p.1.