糖尿病患者へのがん予防に向けた積極的介入とスクリーニング検査の必要性

2025.06.25
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第68回日本糖尿病学会学術集会 シンポジウム14
発表日:2025年5月30日
演題:糖尿病とがんの関係Update2025
演者:能登 洋(聖路加国際病院内分泌代謝科)

糖尿病の無い人に比べ、糖尿病患者では肝臓がん、すい臓がんの発がんリスクは2倍であり、糖尿病患者のがん予防が重要である。また、日本では全がん患者の約21%が糖尿病を併発しており、特に肝臓がん患者と膵臓がん患者では糖尿病有病率が30%以上であるためリスク低減に向けた介入が必要である。第68 回日本糖尿病学会年次学術集会にて、聖路加国際病院内分泌代謝科の能登 洋氏が報告。

糖尿病とがん:複雑に絡み合う病態生理

 糖尿病とがんの発症および予後には、加齢、肥満、喫煙、運動不足、アルコール多飲といった生活習慣が大きく影響する。これらは両疾患の共通の危険因子として挙げられる。さらに、両者の関連性において、高血糖と高インスリン血症が主要な相互影響因子として想定されている。高血糖は正常細胞の増殖に関与し、酸化ストレスを介してDNAに損傷を与え、がん化を促進する。一方、高インスリン血症は細胞競合を抑制し、がんの増殖を助長する可能性が指摘されている。最近の日本からの研究では、インスリンが直接がん化した細胞に作用するだけでなく、周囲の正常細胞が行うがん細胞の増殖抑制を阻害することも明らかになっている。
 糖尿病罹患後5~10年で発がんリスクがピークに達する傾向が認められているデータもあり、欧米からの報告では、血中インスリン濃度が発がんの主な要因である可能性が示唆されているが、インスリン抵抗性が少なくインスリン分泌が低下しているとされるアジア人(日本人)においては、高血糖のインパクトもかなり大きいとされる。また、血糖変動幅とがんリスクの関連性も示されている。
 糖尿病に伴う発がんリスクの増倍率を見ると、国際的なデータと日本のデータは共通して肝臓がん、膵臓がんのリスクが糖尿病の無い人に比べ、約2倍に増加することを示している。さらに、大腸がんのリスク増加も顕著である。

がんリスク低減に向けた介入と課題

 糖尿病患者におけるがんリスク低減のための介入については、厳格な血糖コントロールが必ずしもがんリスクを低下させるとは限らないというデータも示されている。これは、動脈硬化性疾患のリスクを評価した介入研究の二次エンドポイント解析において、厳格な血糖コントロールを行ってもがんリスクの統計学的な低下が示されなかったことからもわかる。
 しかし、生活習慣の改善は依然として重要である。不適切な食事、運動不足、喫煙、過剰飲酒はがん罹患のリスクファクターであることから、糖尿病患者における食事療法、運動療法、禁煙、節酒はがんリスク減少につながる可能性があり、推奨すべきである。食事については、赤い肉や加工食品の過剰摂取、高GI食品の摂取は避けるべきとされ、野菜、果物、穀物(特に全粒穀物)、魚などを取り入れたバランスの取れた食生活が推奨される。ただし、過剰な摂取はエネルギー過多につながるため、総カロリーを考慮した調整が重要である。
 運動に関しては、日本人を対象とした疫学研究において、運動量が多いグループの方が、がん発症リスクが低いことが示されている。また、体重管理も極めて重要であり、減量手術を行うことで長期的には糖尿病とがんのリスクが顕著に低減することも示されている。
 糖尿病治療薬ががんリスクに与える影響については、現時点ではエビデンスが限定的である。メトホルミンがリスクを低下させる可能性が示唆されているものの、確証には至っていない。ピオグリタゾンについては、膀胱がん治療中の患者への投与を避けるべきとされている。

がんスクリーニングとがん患者の糖尿病管理

 糖尿病患者は、性別・年齢に応じて適切に科学的に根拠のあるがんのスクリーニングを受診するよう推奨される。厚生労働省が推奨する胃がん、子宮頸がん、肺がん、乳がん、大腸がん検診は、糖尿病患者においても積極的に検討すべきである。特に発見が難しい膵臓がんについては、2型糖尿病で家族歴がない、糖尿病発症時が65歳以上、発症時に体重減少がある、非肥満であるといった特徴が該当する場合には、画像検査などを含めた積極的なスクリーニングが推奨される。
 一方で、がんにより糖尿病のリスクが増加することも国内外で解明されてきている。日本では全がん患者の約21%が糖尿病を併発しており、特に肝臓がん患者と膵臓がん患者では糖尿病有病率が30%以上である。膵臓がんによる糖尿病発症リスクは5倍以上とも言われる。がん患者において高血糖を引き起こす要因としては、がん細胞が産生するサイトカイン、サルコペニアの合併によるインスリン抵抗性の増大、心身的なストレス、ステロイドや抗がん剤などの薬物副作用が挙げられる。がん患者では血糖値が乱高下しやすいため、高血糖だけでなく低血糖にも注意した慎重な血糖管理が求められる。
 糖尿病を有するがん患者は全般的に生命予後・術後予後が不良であることが報告されており、特に感染症リスクの増加が死亡率を高める一因とされる。しかし、がん患者における糖尿病の最適な治療法やコントロール目標値の確立は今後の課題として残されており、良好な血糖コントロールや特定の糖尿病治療薬によりがんリスクを低減できるかはまだ結論に至っていない状況である。能登氏は最後に、日本糖尿病学会ではがん関連学会と協力し、がん患者における糖尿病治療のコンセンサスステートメント作成に取り組んでおり、2025年中に発表される予定であると述べた。

[ 糖尿病リソースガイド編集部 / 日本医療・健康情報研究所 ]

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