オンライン診療を『やめるクリニック・伸ばすクリニック』の違い

2026.05.28
 新型コロナウイルスを契機に一気に注目を集めたオンライン診療ですが、特例措置の終了とともに「導入したものの活用できていない」「採算が取れずやめた」というクリニックの声も聞こえてきます。 一方で、診療科や運用次第ではオンライン診療を経営の柱に育てているクリニックも確実に存在します。同じ仕組みを使っているのに、なぜここまで差がつくのでしょうか。 本記事では、オンライン診療を「やめるクリニック」と「伸ばすクリニック」の違いを、最新の制度動向と現場の実態から解説します。導入を迷っているクリニック経営者・事務長の方、あるいは既に導入済みで成果が出ていない方に向けて、判断軸となる視点を提供します。

【執筆者】Nsワーカー
介護士として勤務しながら准看護師資格を取得後、民間病院での臨床経験を積み正看護師へ。現在は大学病院に勤めて10年以上となる現役看護師。育児中のワーキングファザーでもあり、看護・医療・育児に関連した記事を100件以上執筆。高評価を多数いただいており、正確さと読みやすさを大切にしたライティングを心がけている。

オンライン診療の現状──普及は進むが、本格運用には壁

 まずは、オンライン診療を取り巻く環境を最新データで確認しましょう。

届出医療機関数は着実に増加

 厚生労働省医政局の資料によれば、情報通信機器を用いた初診料等の届出医療機関数は、2022年7月時点で5,494施設、2023年10月時点で10,108施設、2024年10月時点では12,507施設と着実に増加しています。2022年度の診療報酬改定で評価が新設されて以降、約2年半で倍増以上のペースで広がっており、制度の追い風を受けて導入のハードルが下がってきていることがうかがえます。

電子カルテと比べると、まだ「拡大の余地が大きい領域」

 ただし、医療DXのなかでオンライン診療がどの程度浸透しているかを電子カルテと比較すると、その差は歴然です。令和5年医療施設調査によれば、電子カルテの普及率は一般病院全体で65.6%、一般診療所で55.0%に達しているのに対し、オンライン診療を保険診療で実施できる体制を整えた届出医療機関数は12,507施設にとどまっており、本格運用に至っていない医療機関が大多数を占めているのが実態です。ここに「やめるクリニック」と「伸ばすクリニック」の分岐点が存在します。

2024年度診療報酬改定での追い風

 2024年度の診療報酬改定では、情報通信機器を用いた診療の評価も見直されました。情報通信機器を用いた初診料は251点から253点へ、再診料・外来診療料は73点から75点へと引き上げられ、対面診療との点数差は依然あるものの、評価の方向性は「拡大」に振れています。さらに、医療DX推進体制整備加算が新設され、オンライン資格確認・電子処方箋・電子カルテ情報共有サービス等を整備した医療機関は、初診時に月1回8点を算定できるようになりました。オンライン診療はこの医療DXの文脈の中で位置付けが明確化されつつあります。

オンライン診療を「やめる」クリニックの典型パターン

 ここからは、実際にオンライン診療をやめてしまうクリニックに共通する4つのパターンを見ていきます。

パターン1:患者が集まらず、採算が合わない

 最も多いのが「導入したが患者が来ない」というケースです。オンライン診療は対面診療と異なり、患者側にもITリテラシーや通信環境が求められます。高齢者の多いクリニックや、慢性疾患の定期受診が中心のクリニックでは、患者層とオンライン診療のニーズが噛み合わないことが少なくありません。さらに、診療報酬の点数は対面診療より低く設定されており、月数件の利用では月額のシステム利用料すら回収できないという声もあります。

パターン2:システム利用料・運用コストが重い

 オンライン診療システムには、専用システム(予約・問診・決済まで一気通貫)と汎用通話アプリ(Zoom等)の選択肢があります。専用システムは利便性が高い反面、初期費用・月額利用料が発生し、患者数が伸びなければ固定費負担が経営を圧迫します。一方の汎用アプリは低コストですが、処方箋作成・決済を別の手段で行う必要があり、スタッフの業務負荷が増えるトレードオフがあります。

パターン3:算定要件・指針への対応負荷

 オンライン診療を保険診療で実施するには、厚生労働省「オンライン診療の適切な実施に関する指針」に則った体制整備が必須です。具体的には、医師による厚労省指定の研修受講、患者の同意取得と診療計画書の作成・保存(2年間)、保険診療で実施する場合は地方厚生局への施設基準届出など、書類整備とコンプライアンス対応が求められます。

パターン4:院内オペレーションが回らない

 意外と見落とされがちなのが、院内のオペレーション設計です。オンライン診療は対面と並行して行う場合、外来診療の合間に組み込むタイミング設計、スタッフ間の役割分担、処方箋送付や決済の処理フローなど、運用ルールの整備が必要です。これを「とりあえずシステムだけ入れて始める」と、現場が混乱し、結局やめる結果になりがちです。

オンライン診療を「伸ばす」クリニックに共通する5つの戦略

 では、オンライン診療を経営の柱として成長させているクリニックは、何が違うのでしょうか。

戦略1:適応疾患の見極め

 伸ばしているクリニックは、自院の診療内容のうち「どの疾患・どの患者層がオンライン診療に適しているか」を明確に切り分けています。一般的にオンライン診療と相性が良いとされるのは、生活習慣病の継続管理(高血圧、糖尿病、脂質異常症など)、皮膚科(湿疹、ニキビなど画像で判断しやすい疾患)、心療内科・精神科の継続的なカウンセリング、AGA・ED・低用量ピルなどの自由診療領域です。逆に、触診・聴診・検査が不可欠な急性疾患や、初診で詳しい身体所見が必要なケースは対面に振り分ける、というメリハリが重要です。

戦略2:患者層ターゲティングと集患設計

 「誰に届けるか」を明確にし、その層に響く集患チャネルを設計することも欠かせません。20~30代の働く世代をターゲットにするなら、Webサイト・SNS・予約サイトでの認知拡大が中心になります。一方、高齢の慢性疾患患者を対象とするなら、対面診療の場で「次回からはオンラインも選べる」と案内する流れが効果的です。日本経済新聞の報道(2025年7月)によれば、2024年7月のオンライン診療実施件数は約14万5,000回と1年前から倍増しており、特に20~30代の利用が伸びています。若年層を対象とした診療科では、需要は確実に存在しています。

戦略3:予約・問診・決済のDX連携

 伸ばしているクリニックは、オンライン診療を単独で運用するのではなく、Web予約・Web問診・キャッシュレス決済とセットで設計しています。患者が自宅でスマホから予約→事前問診を済ませて→ビデオ通話で診察→クレジットカードで決済→処方箋・薬を自宅に郵送、という一連の流れがスムーズにつながることで、患者の満足度が高まり、リピート率が上がります。

予約システム・Web問診導入による業務効率化に関する記事はこちら

戦略4:スタッフ業務フローの最適化

 オンライン診療は「医師が一人で完結する」業務ではありません。予約管理、問診票確認、決済処理、処方箋送付など、看護師・医療事務スタッフの役割設計が成否を分けます。伸ばしているクリニックは、オンライン診療の時間枠を1日のなかに明確に確保し(午前の外来後の30分、昼休み中の1時間など)、スタッフの担当を明確化することで、対面診療と両立させています。

戦略5:自由診療との組み合わせで収益化

 保険診療のオンライン診療だけでは、点数の低さから収益化が難しい場合があります。そのため、AGA、ED、低用量ピル、メディカルダイエット、医療脱毛のアフターフォローなど、自由診療領域とオンライン診療を組み合わせることで、収益性を高めているクリニックが増えています。保険診療と自由診療のバランスをどう取るかは、自院のブランディングや診療理念とも関わるため、慎重な判断が求められますが、戦略的な選択肢として検討する価値はあります。

「やめる」「伸ばす」を分ける根本的な要因

 ここまで具体的な戦術を見てきましたが、より本質的に何が両者を分けているのか、3つの観点で整理します。

要因1:経営判断としての位置づけが明確か

 伸ばしているクリニックは、オンライン診療を「補助的なサービス」ではなく「経営戦略の一部」として明確に位置づけています。「コロナ禍で必要に迫られて入れた」「とりあえず流行りに乗った」というスタンスでは、運用負荷が経営判断を上回った瞬間にやめる結論に至ります。一方で、「働く世代の患者層を取り込みたい」「自由診療を拡大したい」といった明確な経営目的があれば、多少の初期負荷も乗り越えられます。

要因2:既存の医療DX投資と接続できているか

 電子カルテ、Web予約、Web問診、キャッシュレス決済といった既存のDXツールと、オンライン診療がシームレスに接続されているかどうかは、運用負荷を大きく左右します。特に電子カルテとオンライン診療システムの連携は重要で、診療記録・処方・会計が分断されると、スタッフの二重入力が発生して現場が疲弊します。

要因3:院長・事務長の運用コミットメント

 最後は、シンプルですが本質的な要素です。オンライン診療を立ち上げ、軌道に乗せるには、院長や事務長自身が継続的に関与し、課題が出るたびに改善するコミットメントが必要です。スタッフ任せ、ベンダー任せでは、初期の問題で挫折してしまいます。逆に、経営者が主導して「使いながら改善する」姿勢を持てば、半年~1年で安定運用に持ち込むことは十分可能です。

オンライン診療を伸ばすために確認すべきチェックリスト

 最後に、これからオンライン診療を導入する、あるいは既に導入していて見直したいクリニック向けに、自己診断のチェックリストを示します。

 このうち、半分以上に「No」がついているなら、オンライン診療の運用設計を一度見直すタイミングかもしれません。

まとめ:オンライン診療は「使い方次第」

 オンライン診療を「やめるクリニック」と「伸ばすクリニック」の違いは、システムや診療報酬といった外部要因よりも、自院の経営戦略の中にどう位置づけるか、医療DX全体とどう接続するか、運用にどうコミットするかという内部要因に大きく左右されます。厚生労働省も2024年度診療報酬改定でオンライン診療の評価を引き上げ、2026年4月にはオンライン診療を医療法上に明確に位置づける改正法を施行(オンライン診療受診施設の創設など)しています。制度面の追い風は今後さらに強まる見込みです。「やめる」「続ける」の二択ではなく、「どう伸ばすか」を主体的に設計できるクリニックが、これからの10年で患者から選ばれる存在になるでしょう。自院の状況を上記チェックリストと照らし合わせ、次の一手を検討してみてください。

参考文献

※本記事の情報は2026年5月時点のものです。各種統計データや診療報酬制度は変動するため、最新の情報は各機関の公式サイトでご確認ください。

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