糖尿病に潜む内分泌疾患 ―ホルモンによる糖代謝異常をいかに見逃さず、治療するか―
発表日:2026年5月23日
演題:糖尿病に潜む内分泌疾患を見つけるには
演者:大月道夫(東京女子医科大学 内分泌内科学分野〔現 大阪大学大学院医学系研究科 肥満脂肪病態学寄附講座〕)

日常診療において、一般的な治療で改善が見られない糖尿病の背景には内分泌疾患が潜んでいる可能性がある。東京女子医科大学 内分泌内科学分野(現 大阪大学大学院医学系研究科 肥満脂肪病態学寄附講座)の大月道夫氏は、第69回日本糖尿病学会年次学術集会でのシンポジウムに登壇。糖尿病に潜む「先端巨大症」「褐色細胞腫・パラガングリオーマ」「Cushing症候群」を取り上げ、それぞれがもたらす糖代謝異常のメカニズムや、これらの疾患を見逃さないための身体所見、適切なスクリーニング検査などについて詳説した。
「内分泌疾患による糖尿病」の治療の原則
生体は種々のホルモンにより恒常性が維持されており、ホルモンの異常はインスリン作用不足の原因となる。そのため、インスリン分泌低下やインスリン抵抗性に対する薬物療法、食事療法、運動療法を適切に実施しているにもかかわらず、期待したように血糖コントロールが改善しない場合、ホルモンの異常、つまり「内分泌疾患による糖尿病」を疑うことになる。 また、診断には、そのホルモン自身の異常による特徴的な症状や身体所見、臨床検査値が役立つ。
大月氏は「内分泌疾患による糖尿病」について、治療の原則は、インスリン作用不足の原因となるホルモン異常を治療することであると説明。特に、インスリン分泌抑制が主因となっている疾患(褐色細胞腫や原発性アルドステロン症など)では、ホルモン異常の治療により糖尿病が改善する場合がある。一方で、インスリン抵抗性が主因となる疾患(先端巨大症やCushing症候群など)においては、罹病期間が長くなると膵β細胞が疲弊し、結果としてインスリン分泌が低下することがある。
成長ホルモン過剰:先端巨大症
成長ホルモン(GH)過剰は、さまざまな臓器等の糖代謝に影響を及ぼす1)。脂肪組織では、糖取り込みの低下と脂肪分解の亢進を引き起こして遊離脂肪酸を上昇させる。肝臓では糖新生やグリコーゲン分解が亢進し、腎臓でも糖新生が亢進する。筋肉では糖取り込み低下やグリコーゲン分解が亢進し、膵臓ではインスリン分泌が上昇する。これらの結果、インスリン抵抗性が引き起こされ、結果的に高血糖を引き起こし、耐糖能異常をきたす。
先端巨大症は、骨端線閉鎖後にGHの過剰分泌が起こる疾患で、身体変化、代謝異常、それに伴う合併症をきたし、適切な治療が施行されなければ生命予後が悪く、98%がGH産生下垂体腫瘍(腺腫)によるものである。
主症候として、眉弓部の膨隆、鼻や口唇の肥大、下顎の突出といった先端巨大症様顔貌がある。非常に特徴的な顔貌を呈すため、研修医でも容易に気付く。また、巨大舌も特徴の一つで、舌を出すと口からはみ出るような形となったり、歯型がついていたりするなど一目でわかる。そのため、マスクを外して診察することが非常に重要であり、Snap diagnosisできる疾患であると大月氏は強調した。
先端巨大症を疑った場合は通常、1)ブドウ糖75g経口投与によりGHが抑制されないこと、2)IGF-1(成長ホルモンが肝臓に作用して分泌される)が高値であること、を診断基準とする。しかしながら、糖尿病患者の場合は、血糖値200mg/dL以上かつGH 0.4ng/mL以上であればGHが自律分泌されていると考えてよい。大月氏は、血糖コントロール不良の状態で糖負荷検査を行うことがないよう、診断の際に注意する必要があるとした。なお、先端巨大症における耐糖能異常や糖尿病の合併頻度は高く、それぞれ5〜33%、14.6〜54.5%に及ぶとされる2)。
先端巨大症における糖代謝異常の規定因子として、インスリン抵抗性が挙げられることが多い。しかしながら、先端巨大症患者におけるインスリン感受性の指標(HOMA-%S)と膵β細胞機能(HOMA-%β)を検討した報告では、正常耐糖能(NGT)群と耐糖能異常(IGT)/糖尿病(DM)群との間でHOMA-%Sには有意差がなかったが、HOMA-%βはNGT群と比較して、IGT/DM群では有意に低下していた3)。このことから大月氏は、先端巨大症患者の耐糖能を規定しているのは膵β細胞機能であると考えられると指摘した。
実際に、先端巨大症術後の耐糖能を予測しうることを示唆する報告がある。先端巨大症患者92例を対象として、術前NGTで術後もNGTだった群と、術後にIGT/DMが持続した群を比較すると、他の指標には有意差はなかったが、HOMA-%βはIGT/DMが持続した群で有意に低値となっており、インスリン初期分泌能を示すインスリンジェニックインデックス(IGI)も同様に低かった4)。これらのことから、先端巨大症における糖代謝異常の規定因子として、インスリン初期分泌を含む膵β細胞機能が重要であることを大月氏は強調した。
カテコールアミン過剰:褐色細胞腫・パラガングリオーマ
糖代謝におけるカテコールアミン過剰の影響も、さまざまな臓器に及ぶ5)。消化管からのGLP-1分泌低下や、膵臓ではβ細胞からのインスリン分泌低下、α細胞からのグルカゴン分泌上昇を引き起こす。脂肪組織においては、インスリン感受性を良くするアディポカインの産生を低下させ、脂肪分解の亢進により遊離脂肪酸を上昇させる。これらがインスリン抵抗性につながり、さらに骨格筋での糖取り込みが減少するため、結果として高血糖、糖尿病をもたらす。
褐色細胞腫・パラガングリオーマ (PPGL)は、副腎髄質または傍神経節のクロム親和性細胞から発生するカテコールアミン産生腫瘍である。転移のある悪性腫瘍として定義されるため、適切な治療と経過観察が必要である。過剰分泌されたカテコールアミンは全身のアドレナリン受容体を介して症状を呈し、「5H disease」と呼ばれる高血圧、代謝亢進、頭痛、多汗、高血糖が特徴である。そのほか、動悸や振戦などの交感神経刺激症状も認められる。
疑われる場合の検査として、随時尿メタネフリン分画(クレアチニン補正で正常上限の3倍以上増加)、血中カテコールアミン分画(正常上限の3倍以上増加)や血中遊離メタネフリン分画(基準値上限以上の増加)がある6)。大月氏は、血液検査のほうが採りやすい点はあるものの、結果が出るまでの期間を考慮して、自身は随時尿を用いることが多いと語った。なお、PPGLにおける耐糖能異常の頻度は19.1〜34.78%、糖尿病の頻度は23.4〜48%と、高い割合を示すことが報告されている2)。
褐色細胞腫の手術により、78.6〜100%の症例で糖尿病治療の中止が可能になることが報告されている7)。また大月氏は、自身が経験した37歳男性の症例を紹介。褐色細胞腫手術直前のインスリン投与量は46単位、診断時の血漿アドレナリンが13,944pg/mLと非常に高値であったが、手術翌日よりインスリン投与が不要となり、術後5日目の75gブドウ糖負荷試験では正常な血糖推移を示すまでに劇的な改善を遂げたという8)。
グルココルチコイド過剰:Cushing症候群
糖代謝におけるグルココルチコイドの過剰の影響は多岐にわたる9)。脂肪組織では脂肪分解が亢進し、脂肪酸やグリセロールが分泌される。これが肝臓での中性脂肪の合成増加やインスリン抵抗性につながり、脂肪肝を引き起こす。筋肉においてはタンパク質合成の低下と分解の亢進により、筋萎縮のような状況になり糖の取り込みが低下する。また膵β細胞に対しては、急性期ではインスリン分泌が亢進し細胞が増殖するが、慢性期になるとインスリン分泌や生合成が低下し、アポトーシスが誘導される。
Cushing症候群の主症候は、特異的症候と非特異的症候に分けられる10)。特異的症候としては、満月様顔貌、中心性肥満または水牛様脂肪沈着、皮膚の伸展性赤紫色皮膚線条(幅1cm以上)、皮膚の菲薄化および皮下溢血、近位筋萎縮による筋力低下、小児における肥満を伴った成長遅延が挙げられる。大月氏は、これらの特異的症候を確認するためには、マスクを外して顔を確認し、可能であれば腹部を診察することが重要だとした。
Cushing症候群では、50〜70%に耐糖能異常が認められる11)。2型糖尿病患者におけるスクリーニング検査としては、一晩少量デキサメタゾン抑制テスト、深夜唾液コルチゾール(保険未収載検査)、深夜血中コルチゾールがある。深夜唾液コルチゾールは感度が85%と良好であるものの特異度が14%と低い。一方、偽陽性率の観点からは一晩少量デキサメタゾン抑制テストが優れているとされており、スクリーニングには同検査が推奨される12)。スクリーニングを実施すべき対象としては、1)2剤以上の降圧薬を服用している患者、2)インスリン治療が必要な患者、3)糖尿病細小血管・大血管障害を有する患者、が挙げられる13)。
ホルモン自身の異常による症状や身体所見、臨床検査値が重要
最後に大月氏は、内分泌疾患による糖尿病の診断には、そのホルモン自身の異常による症状や身体所見、臨床検査値が重要であり、ホルモン異常の治療が糖尿病の治療となりうることを改めて強調し、講演を締めくくった。
文献
- Ferrau F, et al. : Front Endocrinol (Lausanne). 2018; 9: 358.
- Moustaki M, et al. : Endocrine. 2023; 81(1): 1-15.
- Kasayama S, et al. : Clin Endocrinol (Oxf). 2000; 52(5): 549-555.
- Kinoshita Y, et al. : Eur J Endocrinol. 2011; 164(4): 467-473.
- Lopez C, et al. : Int J Mol Sci. 2023; 24(6): 5153.
- 日本内分泌学会「褐色細胞腫・パラガングリオーマ診療ガイドライン」作成委員会編: 褐色細胞腫・パラガングリオーマ診療ガイドライン 2025. 診断と治療社, 東京, 2025.
- Beninato T, et al. : Ann Surg Oncol. 2017; 24(5): 1208-1213.
- Sato M, et al. : JCEM Case Rep. 2025; 3(1): luae240.
- Li JX, et al. : Nat Rev Endocrinol. 2022; 18(9): 540-557.
- 間脳下垂体機能障害と先天性腎性尿崩症および関連疾患の診療ガイドライン作成委員会編: 間脳下垂体機能障害と先天性腎性尿崩症および関連疾患の診療ガイドライン 2023年版. 日本内分泌学会雑誌. 2023; 99(Suppl): 21-23.
- Barbot M, et al. : Front Endocrinol (Lausanne). 2018; 9: 284.
- Guarnotta V, et al. : J Endocrinol Invest. 2025; 48(Suppl 1): 47-59.
- Aresta C, et al. : Endocr Pract. 2021; 27(12): 1216-1224.








