2型糖尿病の「脳インスリン抵抗性」が視床下部後核に局在することを解明 順天堂大学

2型糖尿病では、肝臓・骨格筋・脂肪組織などの末梢組織におけるインスリン抵抗性が主要な病態として知られている。一方、近年では、脳、特に視床下部におけるインスリン作用が、食欲やエネルギー消費、血糖恒常性の維持に重要であることが明らかになってきた。実際に、肥満や糖尿病患者では、経鼻投与したインスリンに対する脳活動変化が低下することも報告されており、「脳インスリン抵抗性」という概念が提唱されている。
視床下部は、摂食、体温調節、交感神経活動、エネルギー消費など、異なる役割を持つ複数の神経核から構成される。しかし、従来の脳画像研究では視床下部全体を一つの領域として評価することが多く、視床下部のどの神経核が糖尿病で障害されているのかは明らかではなかった。そのため、糖尿病における脳インスリン抵抗性の本態を理解するために、従来よりも高い空間分解能で、神経核レベルの解析が必要とされていた。
そこで研究グループは、高解像度機能的MRI(functional magnetic resonance imaging:fMRI)を用いて、2型糖尿病における脳インスリン応答を視床下部内の領域ごとに評価し、さらに約1,600名の地域在住高齢者の構造MRI解析を組み合わせることで、脳機能異常と脳構造変化との関連を検討した。
本研究では、機能評価(Study 1)と、構造評価(Study 2)の2つの解析を実施した。まずStudy 1では、40~64歳の日本人男性41名(2型糖尿病患者21名と健常者20名)を対象に、経鼻インスリン投与を併用した高解像度fMRIを用いて、脳のインスリン応答を評価した。
経鼻インスリン投与は、血液中の物質が脳へ自由に移行することを制限する血液脳関門を介さず、比較的直接的に脳へインスリンを到達させる方法。被験者は前夜から絶食した状態でMRI撮像を開始し、撮像中に鼻腔内へインスリンを投与した。MRI撮像は投与前15分から投与後30分まで連続して行い、血液検査も併用して末梢代謝変化を確認した。
解析では、視床下部内の6つの機能領域(弓状核、背内側核、室傍核、腹内側核、後核、外側視床下部)を対象に、時間経過に伴うMRI信号の変化を比較した。
その結果、健常群ではインスリン投与後わずか5分で、視床下部後核において明瞭な信号低下が認められ、脳がインスリン刺激へ迅速に応答していることが確認された。一方、2型糖尿病群ではこの反応が消失しており、同領域においてインスリン感受性が低下していることが示された。他の視床下部領域では同様の変化は認められなかったことから、脳インスリン抵抗性が特定領域に局在する可能性が示唆された。
さらにStudy 2では、文京ヘルススタディ※に参加した高齢者1,609名(糖尿病群209名、非糖尿病群1,400名)の脳MRIデータを解析し、視床下部の灰白質容積を比較した。
※順天堂大学大学院医学研究科 スポートロジーセンターで行われている、東京都文京区在住の1,629名の高齢者を対象とした研究
その結果、糖尿病群では視床下部全体の灰白質容積の低下がみられたが、特に後部視床下部で最も顕著な容積低下が確認された。中年層を対象としたStudy 1では構造変化は認められなかった一方、機能異常はすでに出現していたことから、糖尿病では、まず脳のインスリン応答の異常が生じ、その後長期の代謝負荷に伴って構造変化が進行する可能性が示唆された。
本研究では、2型糖尿病における脳インスリン抵抗性が、視床下部全体ではなく後部視床下部を中心として生じる可能性を示した。一方で、本研究は横断研究であるため、脳の機能異常が糖尿病の原因であるのか、糖尿病の進行に伴って生じた変化であるのかは明らかではない。研究グループは、「今後は、食事療法、運動療法、糖尿病治療薬などの介入によって後部視床下部のインスリン応答が改善するかを検証する介入研究を進め、脳インスリン抵抗性が可逆的な病態であるかを明らかにしていく予定」としている。
本研究は、順天堂大学大学院医学研究科代謝内分泌内科学の准教授 加賀英義氏、教授 田村好史氏、主任教授 綿田裕孝氏、神経生理学の准教授 長田貴宏氏、主任教授 小西清貴氏らの研究グループが実施したもので、研究成果は2026年6月8日付で「JCI Insight」オンライン版に掲載された。






