糖尿病関連腎臓病の疫学アップデート ―重症化予防と老年症候群対策 2つの柱―

2026.06.23
prev
シンポジウム 41「糖尿病と糖尿病合併症の疫学アップデート」
発表日:2026年5月23日
演題:糖尿病関連腎臓病
演者:荒木信一(和歌山県立医科大学 腎臓内科学講座)

糖尿病を原疾患とする新規透析導入患者数は減少傾向にある一方で、患者の高齢化が進行し、糖尿病関連腎臓病(DKD)においては新たな課題が浮き彫りとなっている。和歌山県立医科大学 腎臓内科学講座の荒木信一氏は、第69回日本糖尿病学会年次学術集会でのシンポジウムに登壇。「DKD重症化予防」と「老年症候群対策」の2つの柱が相反することによる課題、老年症候群対策を見据えた適切な腎機能評価の重要性など、DKD重症化予防と健康寿命延伸のための適切な治療を目指すうえでの最新知見を述べた。

糖尿病を原疾患とする新規透析導入患者数は減少している

 冒頭、荒木氏は、近年の糖尿病関連腎臓病(DKD)の疫学における最大の話題として、糖尿病を原因として透析を受ける患者数が、近年では減少傾向にあることを挙げた。日本透析医学会から報告されたデータ1)によれば、2024年12月31日現在、国内の慢性透析患者総数は33万7,414人であり、3年前から減少に転じている。2024年は前年比で6,094人の減少となっている。また、新規透析導入患者数も前年比2,360人の減少となっており、原疾患別にみても、依然としてDKDが最も多いものの、2010年頃に新規透析導入患者の約45%を占めていた割合が、2024年には37.6%まで低下している。

 荒木氏は、この減少傾向には、糖尿病の治療成績向上が大きく影響していると指摘した。YokoyamaらによるJDDM研究での報告2)では、同じ登録条件で2004年(Cohort 1)と2014年開始(Cohort 2)の2つの前向きコホートについて、観察開始時を比較した。後者のCohort 2は、10年前開始のCohort 1と比較して平均HbA1c、収縮期血圧、LDL-Cなどのリスク因子の平均値が低下していた。また、アルブミン尿、網膜症、神経障害といった細小血管合併症の有病率も低下していた。一方で、BMIだけは平均値が上昇しており、この肥満の増加が将来の合併症発症につながるか注視していく必要があると述べた。

 一方、予後についてはどうか。Cohort 1、2それぞれの8年間の観察結果を比較したところ、総死亡および心血管系疾患の発症からなる複合エンドポイントの発症率は、Cohort 2で低下しており、古典的なリスク因子を補正してもなおリスクが30%弱低下(Adjusted HR 0.73)していた3)。荒木氏は、新しい治療薬の普及や日常診療における指導といった目に見えない要素が、患者の生命予後や心血管疾患の発症率改善に大きく貢献している可能性が考えられるとした。

高齢化進行がもたらす新たな課題
相反する「DKD重症化予防」と「老年症候群対策」

 治療成績が向上する一方で、荒木氏は透析医療におけるもう一つの大きな問題として「高齢化の進行」を挙げた。新規透析導入患者の平均年齢は、2014年の69.0歳から2024年には71.7歳と約3歳上昇しており、患者層のボリュームゾーンは75歳から85歳の後期高齢者となっている1)。特に90歳以上の新規透析導入患者が、2014年の719人(1.9%)から2024年には1,375人(4.1%)と約2倍に増加している1)。荒木氏は、自身が研修医となった約30年前では、90歳以上で透析を新規導入することは躊躇される時代だったと振り返る。一方現在では、90歳以上でも元気な状態で透析を導入して生活を送る患者が増えており、この30年で状況が大きく変わっていることを指摘した。

 荒木氏は、このような高齢社会において、DKD対策には大きく2つの柱があると説明。1つは従来の「重症化予防対策」であり、もう1つは高齢化の進行に伴う「老年症候群対策(サルコペニア・フレイル予防、認知症、老々介護、一人暮らしの課題など)」である。これらを合わせて考慮しなければ、高齢患者の生命予後を改善することは難しいとした。

 また、こうした時代背景のなかで、DKDの病態にも変化が生じていることを指摘。微量アルブミン尿から顕性蛋白尿、そして腎不全へと至る典型的な進行パターンをとらず、蛋白尿を伴わずに腎機能が低下する症例が近年増加している。これらの患者では、高血糖だけでなく、加齢や動脈硬化、薬剤などが複合的に腎機能に影響を与えていると考えられるという。

 荒木氏は、「DKD重症化予防」と「老年症候群対策」の2つの柱が相反する側面を持つことを課題として挙げた。たとえば食事療法において、重症化予防を目的とすれば塩分制限や蛋白制限といった「制限」を行う一方で、老年症候群対策としてサルコペニアやフレイルを予防するためには「摂食促進」が求められる。この相反する2つの側面のどちらを優先するべきか、重症化予防と健康寿命延伸のための適切な治療とは何かを考えていくことが、今後の高齢DKD対策において求められると強調した。

DKD治療では腎保護効果を想定して薬剤を選択

 DKD治療においては、生活習慣の改善に加え、高血糖、高血圧の是正、脂質の管理といった、包括的リスク管理が重要となる。ガイドラインで設定された管理目標値に向けて治療を行っていくことになるが、可能であれば腎保護効果のある薬剤を優先的に使用していくことが昨今のDKD治療の流れとなっている。

 これまでガイドライン等でDKDの治療薬として推奨されてきたのはRAS阻害薬のみであった。しかし近年、数々の大規模臨床試験において、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬、非ステロイド型選択的ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)の腎保護効果が報告されている。荒木氏は、心不全における「Fantastic Four」に対抗する形で、これら4つの薬剤を「Four Pillars」として優先的に組み合わせて使用することが望ましいのではないかと述べた。

 実際に、これらの薬剤を重ね合わせて使用した場合の腎保護効果について、これまでの大規模臨床試験を基にシミュレーションしたデータが報告されている4)。ベースにRAS阻害薬を使用しており、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬、MRAを2剤、3剤と併用するほど、CKD進行(末期腎不全+クレアチニン倍化+腎死)リスクは低下し、4剤併用では約6割のリスク低下が推定された。

老年症候群を見据えた腎機能評価
eGFRcrとeGFRcysの乖離

 高齢のDKD患者に対する食事療法においては、残念ながら明確な答えはないという。しかしながら、腎保護を優先すべき患者と、サルコペニア・フレイルなどの老年症候群の予防を優先すべき患者とでは治療方針が大きく異なることが想定される。そのため、予後不良患者、サルコペニア・フレイル高リスク患者を同定し、それぞれの患者により適した食事療法を選択することが重要であると荒木氏は強調した。

 高齢患者では食事量が減少し、相対的にタンパク質摂取量も減少する。それに伴い筋肉量が減少すると基礎代謝が低下し、クレアチニンの産生や排泄に影響を及ぼす。通常、腎機能評価に用いられるeGFRは血清クレアチニン値により算出されることが多いが、筋肉量が減少している高齢患者では必然的にクレアチニン濃度が下がるため、実際のGFRよりも見かけ上良く算出されてしまうと荒木氏は指摘した。

 その結果、クレアチニン値に基づくeGFRcrと、シスタチンCに基づくeGFRcysを同時に測定した場合、両者に乖離が生じる患者が少なからず存在するという。糖尿病患者を13.5%含む23の研究のメタ解析では、eGFRcrの方が大きい患者では、総死亡や心血管死、透析などのリスクが上昇し、逆にeGFRcysの方が大きい患者ではリスクが低下することが示されている5)

 eGFRcrとeGFRcysの乖離については、荒木氏らによる滋賀医科大学での糖尿病前向き経過観察研究のデータでも同様の傾向がみられた。本研究では、eGFRcrが60以上の患者518名を対象に、15年の観察期間で複合腎心血管疾患の発症イベントを評価した。その結果、eGFRcrの方が大きい患者では、複合腎心血管疾患の発症リスクが1.53倍高かった。一方、eGFRcysの方が大きい患者ではリスクが0.70倍に減少していた。 また、このeGFRの乖離は、尿中クレアチニン排泄量、1日推定蛋白摂取量、Creatinine Muscle Indexといった筋肉量を反映する因子と強い正の相関を示していた。このことから、eGFRの乖離は食事や筋肉量、基礎代謝などを反映している可能性が示唆された。

 以上のことから荒木氏は、eGFRcrの方が大きい患者は予後不良であり、筋肉量が少ないサルコペニアやフレイルの状態にある可能性が高いと評価できるとし、eGFRcrの方が大きい患者に対しては、腎保護よりも予後全体の改善を見据えた治療方針を検討するのが望ましいとの考えを示した。

重症化予防と健康寿命延伸のための適切な治療を、いかにして行っていくかが課題

 最後に荒木氏は、糖尿病の治療成績向上により透析導入患者が減少する一方で、高齢化の進行に伴い老年症候群対策が必要になっていると改めて強調。これら2つの側面から患者のリスクを評価し、重症化予防と健康寿命延伸のための適切な治療を行っていくことが今後の大きな課題であると総括した。

文献

  • 正木崇生ほか: 日本透析医学会雑誌. 2025; 58(12): 524-590.
  • Yokoyama H, et al. : BMJ Open Diabetes Res Care. 2018; 6(1): e000521.
  • Yokoyama H, et al. : Diabetes Res Clin Pract. 2023; 202: 110674.
  • Neuen BL, et al. : Circulation. 2024; 149(6): 450-462.
  • Estrella MM, et al. : JAMA. 2025; 334(21): 1915-1926.
[ 糖尿病リソースガイド編集部 / 日本医療・健康情報研究所 ]
postbottom_ckdsdm_pc
postbottom_ckdsdm_sp

糖尿病・内分泌プラクティスWeb 糖尿病・内分泌医療の臨床現場をリードする電子ジャーナル

医薬品・医療機器・検査機器

糖尿病診療・療養指導で使用される製品を一覧で掲載。情報収集・整理にお役立てください。

一覧はこちら

最新特集記事

よく読まれている記事

関連情報・資料