週1回基礎インスリンの活用と展望 ―イコデクの高齢者への導入からGLP-1との配合剤まで―

2026.07.08
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シンポジウム 17「進化する糖尿病薬物療法」
発表日:2026年5月22日
演題:週1回基礎インスリンをいかに使いこなすか?
演者:弘世貴久(東邦大学医学部 先進糖尿病治療学講座)

第69回日本糖尿病学会年次学術集会において、「進化する糖尿病の薬物療法」をテーマにシンポジウムが開催された。東邦大学医学部 先進糖尿病治療学講座の弘世貴久氏は、週1回基礎インスリンをいかに臨床で活用するか、高齢者への導入について有用性と注意点を解説した。また、今後の臨床導入が待たれている、次世代の週1回基礎インスリンや、GLP-1受容体作動薬との配合剤について、その期待と展望を述べた。

週1回基礎インスリン「イコデク」の登場

 1921年にインスリンが発見されて以来、インスリン製剤は絶え間ない進化を遂げてきた。近年ではGLP-1受容体作動薬が糖尿病治療の主流になりつつあるが、そのような中で新たな選択肢として週1回投与の基礎インスリン「イコデク」が登場した。

 インスリンイコデクの第Ⅲ相試験であるONWARDS 1〜6では、2型および1型患者を対象に検討が行われている1~6)。弘世氏はこれらの試験結果について、総じて導入においても既存のBOTからの切り替えにおいても、効果に遜色なく安全に使用できることが証明されていると説明した。

 患者がインスリン注射を糖尿病治療の「最終段階」と捉えたり、痛い、面倒くさいなどと忌避したりとすることから、医療従事者のインスリン導入が遅れるといったクリニカル・イナーシャ(臨床的惰性)は残念ながら未だ存在する。より早期のインスリン導入と高いアドヒアランスにつなげることが、週1回基礎インスリンに期待されることであると弘世氏は述べた。

自己管理が難しい高齢者へのイコデク活用

 弘世氏は、実臨床において期待される活用法の一つとして、自己管理が難しいインスリン必須の高齢患者への投与を挙げ、そのような活用可能性を示す一例として、自身が奄美中央病院との共同で実施した前向き観察研究(AMAMI研究)を紹介した。

 本研究では、インスリンの自己管理が困難で他者の介助を必要とする65歳以上の2型糖尿病患者を対象に、毎日のBOTからイコデクへの切り替えが検討された。その結果、HbA1c、空腹時血糖値の改善に加え、介護者へのアンケート(STCD2-J〔要介護2型糖尿病患者の介護者における治療満足度尺度 日本語版〕7))において、介護者の満足度が統計学的に有意な改善を示したという。

 一方で弘世氏は、インスリンの自己管理が難しくなった高齢者において、毎日のBOTからイコデクに切り替える際に注意すべきポイントを提示した。まず、これまでの基礎インスリンのアドヒアランスが実際にどれくらいであったかを確実に確認し、不明な場合は毎回の処方数から推測する。アドヒアランスが不良と思われる場合は、切り替え時の初回増量は行わず、そのままの7倍量で開始すべきであるとした。

 また、インスリンの自己管理が不十分という理由でイコデクへ切り替えられた高齢の患者では、過去の習慣から毎日自己注射を行ってしまう恐れも考えられる。そういった点からも、導入後は本人に自己注射はさせないことを原則とすることが重要であると弘世氏は強調した。また、初回の増量を行う場合は、最初の注射は病院・クリニックで医療従事者が行ってしまうのも一手ではないかと述べた。

BBTにおけるイコデクへの切り替えも有用

 では、1日4回注射のベーサルボーラス療法(BBT)におけるイコデクへの切り替えはどうか。1日4回の注射が1日3回+週1回となるのでは、患者QOLに大きな影響はないのではないかと考える方も多いのではないか。

 BBTにおけるイコデクへの切り替えは、ONWARDS 4試験4)で検討されている。基礎インスリンについて、イコデクまたはグラルギンU100への切り替えを比較したところ、血糖コントロールについては両群で遜色のない結果であった。

 特筆すべき点は、総インスリン投与量であり、イコデク群ではグラルギン群に比べて基礎インスリン投与量がしっかり確保(24週〜26週の平均で305U/週対279U/週)される一方で、追加インスリンの投与量は少なくて済む(同平均197U/週対255U/週)ことが示された。このことから、BBTにおける基礎インスリンをイコデクに切り替える意義は、血糖の安定性の担保や患者QOLの点から十分にありうると考えられた。

次世代の週1回基礎インスリン「エフシトラ」

 週1回基礎インスリンは、イコデク以外にも現在開発中の「エフシトラ(Efsitora)」がある。エフシトラは、インスリン分子にIgG2 Fc領域を結合させた構造を持つ。半減期は約17日、Peak-to-trough ratioは1.14に達し、大分子で血中に長くとどまる特徴がある。弘世氏は両者の技術的アプローチの違いについて、イコデクが「インスリンをゆっくり出す技術」であるのに対し、エフシトラは「インスリンを体から消えにくくする技術」であるとその機序の違いを説明した 。  

 エフシトラにおいては現在、第Ⅲ相試験であるQWINT(1〜5)8~12)プログラムが進行中である。インスリン未治療の2型糖尿病患者を対象とした第Ⅲ相試験、QWINT 18)およびQWINT 29)において、それぞれ固定用量(fixed dosing)および柔軟な用量調整(flexible dosing)の条件下で、グラルギンU100やデグルデクに対する非劣性が証明されている。

週1回投与の配合剤「イコゼマ」 患者の注射負担軽減に期待

 最後に弘世氏は、週1回の基礎インスリンのさらなる活用可能性として、インスリンイコデクと同じく週1回投与のGLP-1受容体作動薬 セマグルチドの配合剤である「イコゼマ(IcoSema)」を紹介した。イコゼマは、イコデク350単位とセマグルチド1.0mgの割合で配合されたもので、現在進行中の第Ⅲ相試験(COMBINE 1〜3試験)13~15)では、既存の基礎インスリンやGLP-1受容体作動薬からの切り替えにおける有効性が評価されている。 

 BOT中の2型糖尿病患者を対象としたCOMBINE 1試験13)では、イコゼマは全例において40ドーズ(イコデク40単位、セマグルチド0.114mg)という非常に低用量から一律で開始された。弘世氏は、きわめて低用量から開始する理由について、イコゼマの薬物動態を挙げた。セマグルチド単剤の場合は皮下注射後にアルブミンと結合してゆっくりと血流へ吸収されるが、イコゼマの場合、イコデクとの競合によって一部のセマグルチドがアルブミンと結合できず、急速に血中へ吸収される。このため、初期から高用量で投与するとセマグルチドの効果が急激に発現する懸念があることから、少量からの慎重な導入が設定されていると説明した。

 また、BBTからの切り替えを検討したCOMBINE 3試験15)においても、イコゼマ群はBBT群と比較して、臨床的に意義のある、レベル2または3の低血糖の頻度が統計学的に有意に減少したと報告されている。

 従来のBBTでは、持効型インスリン1回と食前の超速効型インスリン3回により、1日あたり4回、1週間で計28回もの注射が必要となる。しかし、イコデクとセマグルチドの配合剤であるイコゼマが臨床導入されれば、この負担が「週にたった1回」へと劇的に軽減される。弘世氏は、「注射の負担を減らすことで、治療の継続につながり、日々の生活もより前向きになるのではないか」と述べ、講演を締めくくった。

文献

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[ 糖尿病リソースガイド編集部 / 日本医療・健康情報研究所 ]
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