糖尿病・メタボにおけるロコモ予防・介入の意義 ―メタボ×ロコモの負のスパイラルを断ち切るには―
発表日:2026年5月22日
演題:糖尿病・メタボリックシンドロームにおけるサルコペニア肥満とロコモーティブシンドローム
演者:浅原哲子(国立長寿医療研究センター 糖尿病・内分泌内科/ジェロサイエンス研究センター,国立病院機構京都医療センター 臨床研究センター 内分泌代謝高血圧研究部)

超高齢社会で増加する要支援・要介護の背景には、メタボリックシンドローム(メタボ)とロコモティブシンドローム(ロコモ)の「負のスパイラル」が存在する。国立長寿医療研究センター/京都医療センターの浅原哲子氏は、第69回日本糖尿病学会年次学術集会でのシンポジウムに登壇。サルコペニア肥満のリスクや、メタボとロコモの相互依存、健康障害改善のための減量目標、多職種・診療科間連携の重要性などについて詳説した。
超高齢社会ではフレイル、ロコモ、サルコペニアの対策が重要
超高齢社会の日本において、主な死因の上位は心疾患や脳血管疾患が占める1)が、これらの死亡に至る前に介護が必要となるケースが多い。要支援・要介護状態になる要因としては、「高齢による衰弱」「認知症」、そして「関節疾患」や「骨折・転倒」といった運動器障害が多くを占めているが、これらの基礎疾患として生活習慣病が存在している2)。このことから、日本の約20の関連学会からなる医学会連合からは、フレイル・ロコモの予防と早期介入を社会全体で推進することを目的に、「フレイル・ロコモ克服のための医学会宣言」が発出されている3)。
フレイル、ロコモ、サルコペニア、これらはそれぞれどのように定義されるか4)。フレイルには、「身体的フレイル」「精神・心理的フレイル」「社会的フレイル」が存在する。このうち身体的フレイルの一部には運動器機能低下が含まれ、ロコモと概念的に重なる部分がある。ロコモは運動器障害によって移動機能が低下した状態であり、骨粗しょう症、変形性関節症やサルコペニアなどから生じることが多い。いわゆる「メタボリックドミノ」5)の概念に示されるように、肥満を起点として生活習慣病が生じ、心血管疾患のみならず、フレイルや認知症、ロコモ、サルコペニアへと進行していくと言われている。
これまで糖尿病合併症としては、「しめじ(神経障害・網膜症・腎症)」に代表される細小血管合併症や心血管疾患が注視されてきた。しかし、超高齢社会を迎えた現在では、フレイルやサルコペニア、ADL低下、うつ状態、認知機能障害などの老年症候群を鑑みた治療が重要視されている6)。
「サルコペニア肥満」は死亡リスクを増大させる
日本肥満学会による「肥満症診療ガイドライン2022」7)では、加齢と肥満が脂肪組織の炎症を引き起こし、インスリン抵抗性を生じさせ心血管疾患の発症につながることが指摘されている。とくに肥満とサルコペニアが合併した「サルコペニア肥満」の状態は、単なる肥満単独やサルコペニア単独の病態と比較して、心血管疾患のみならず、身体機能の低下、骨折、認知機能低下など死亡リスクを増大させる8)ため注目を集めている。
日本肥満学会と日本サルコペニア・フレイル学会の合同ワーキンググループは、2024年にサルコペニア肥満の診断アルゴリズムを策定している9)。ただし、75歳以上のBMIに関するエビデンスがまだ十分でないため、現時点では40歳以上75歳未満を適用範囲としている。
浅原氏らワーキンググループ委員は、サルコペニア肥満の診断アルゴリズムを策定するにあたり、肥満外来で何を測定するのが最適なのかを検討している。サルコペニアの指標(骨格筋量、握力、筋質)、肥満の指標(BMI、ウエスト周囲長)の中から、心血管(CVD)リスクの予測に最も適した組み合わせを分析した結果、「筋質(握力÷上肢筋肉量)」と「ウエスト周囲長」の組み合わせが、CVDリスクスコアが最も高値であったと報告している10) 。
肥満と健康障害の関連について、浅原氏は英国の290万人を対象としたプライマリケアデータベースのコホートデータを用いた解析結果を紹介した。肥満があることで生活習慣病リスクが上昇するだけでなく、睡眠時無呼吸症候群が5.1倍、変形性関節症が1.7倍に増加することが示されている11)。また、日本肥満学会によるJ-ORBIT研究においても、BMIが上昇するにつれて睡眠時無呼吸症候群や筋骨格系障害(運動器疾患)の発症割合が顕著に増加することが確認されている12)。糖尿病や脂質異常症などがBMI上昇に伴う発症率の増加が比較的緩やかであるのに対し、睡眠時無呼吸症候群や運動器疾患は明確な増加傾向を示すことから、これらが肥満の「量的異常」に起因する健康障害であると考えられると浅原氏は述べた。
浅原氏は肥満症患者の合併症について、自身の施設における外来での例を提示。京都医療センターのメタボ外来に通院する肥満症患者146例を対象とした解析13)によれば、BMIが高くなるほど整形外科の通院歴、膝の痛み、関節症歴を有する割合が増加していたという。特に女性において、BMIの増加や年齢の上昇に伴ってこれらの合併症が増加することが確認されたとした。また、国立長寿医療研究センターの肥満外来においても、65歳未満では脂質異常症や脂肪肝が多いのに対し、65歳以上では整形外科疾患の割合がより高いという。
メタボとロコモの相互依存が招く「負のスパイラル」
ロコモは、運動器の障害によって「立つ」「歩く」といった移動機能の低下をきたした状態を指し、これが進行すると歩行障害や自立度の低下を招き、要支援や要介護のリスクが高まる14)。
国立長寿医療研究センターが実施している長期縦断疫学研究「NILS-LSA」15)では、1つでも当てはまればロコモを疑う「ロコチェック」16)を実施した結果、1項目以上「症状あり」と回答した人の割合は加齢とともに増加し、60代では約30%、70歳以上では約50%に達していた17)。また同研究のデータから、歩行速度で層別化した肥満度と要介護発生の関連を検討したところ、肥満度別では要介護リスクに大きな差はみられなかったが、歩行速度が低下している群において要介護発生が有意に増加していた。特に歩行速度が低下している集団においては、肥満者だけでなく低体重者においても要介護の発生リスクが高かった18)。
メタボとロコモも関係が深い。千葉大学の約3万5000人の健診データを用いた後ろ向き横断研究によれば、メタボが存在するとロコモの有病率が有意に高まり、年齢・性別調整後も独立した関連を示したと報告されている19)。内臓肥満/メタボからロコモ、要介護へ進展する機序としては、以下が想定されている。肥満やサルコペニア肥満が慢性炎症を引き起こし、それが関節障害や神経成長因子の増加、セロトニンの低下、HPA軸の慢性活性化などを招く。これらにより疼痛や抑うつが引き起こされ、機能障害やロコモへ進展し、要介護リスクが上昇すると考えられている20)。
また浅原氏は、ロコモとメタボは相互依存することを指摘。肥満により身体が重くなることで運動が億劫になり、身体活動量が低下することで運動器の機能が低下し、さらに運動ができなくなることで内臓肥満が増長する、「負のスパイラル」に陥っている患者が肥満外来には非常に多いのだという。このことから、栄養療法や適切な運動療法など、それぞれの状態に応じた個別化介入戦略が重要であると強調した。
健康障害改善には5%以上の減量が有効である可能性
「肥満症診療ガイドライン2022」7)では、メタボ健診等のエビデンスを踏まえ、肥満症の治療において現体重の3%減量を推奨している。しかし、浅原氏らは国立病院機構の多施設共同研究(JOMS)の約576例のデータで検討した結果、合併症を有する患者において、1年で5%以上、5年で7.5%以上の減量を達成すると、CVDリスク因子の重積数が有意に改善することが示された21)。また、欧米のさまざまな報告22~25)でも、治療効果を得るためには、高血糖や脂質異常症では3%以上、高血圧、脂肪肝、変形性関節症では5%以上、睡眠時無呼吸症候群では7%以上の減量が必要であるとされている。
また浅原氏は、年齢層に応じたアプローチの転換についても言及した。中年期まではメタボ予防を目的としたエネルギー制限が主体となるが、高齢期においてはサルコペニアやフレイル予防を目的とした適切なエネルギー摂取へと「ギアチェンジ」を図る必要がある26)。このギアチェンジをどのタイミングで行うべきか、その基準となる血中バイオマーカーの同定が重要であるとした。
近年は治療薬の進歩も目覚ましい。浅原氏は、これまで食事指導や行動療法だけでは10kgの減量を達成できる患者はわずかであったといい、一方で現在ではGLP-1受容体作動薬を使用することで大幅な減量に成功し、患者からは膝の痛みが良くなったなどと言われることも多いと語った。なお、同剤では筋肉量の低下が危惧されていたが、最近報告されたメタ解析では、脂肪量は有意に減少する一方で、筋肉量の減少は体重減少全体の20%未満にとどまっており、同剤における筋肉量低下は懸念されるほどではない可能性が示唆されている27)。
メタボとロコモの負のスパイラルを断ち切るには、多職種・診療科間連携が重要
肥満による健康障害は多岐にわたるため、肥満症治療にはさまざまな立場の医療者の協力が欠かせない。国立長寿医療研究センターの肥満外来では、院内外の整形外科からの紹介が全体の31%を占めており、減量に成功した患者は手術が不要になるなど、整形外科の医師からも高い評価を得ているという。また、理学療法士などを交えた多職種連携や運動療法の有用性も強く実感されている。
最後に浅原氏は、メタボとロコモの負のスパイラルを断ち切るには、診療科間連携・多職種連携が極めて重要であると強調した。「生涯を通じたメタボからフレイルへの対策を、学会の垣根を越えて連携して取り組む本日のような企画は、大変素晴らしい意義がある」と述べ、講演を締めくくった。
文献
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- 厚生労働省: 2019年 国民生活基礎調査の概況. IV 介護の状況. 2020.
- 日本医学会連合: フレイル・ロコモ克服のための医学会宣言. 2022.
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- 浅原哲子: メタボリック症候群の心血管予防におけるポイント、メタボリックシンドロームからロコモティブシンドロームへ~歩く喜び!歩ける喜び!~(2010年8月·京都).
- 日本整形外科学会: ロコモティブシンドローム予防啓発公式サイト「ロコモonline」.「ロコモを知ろう」.
https://locomo-joa.jp/locomo - Shimokata H, et al. : J Epidemiol. 2000; 10(1 Suppl): S1-S9.
- 日本整形外科学会: ロコモティブシンドローム予防啓発公式サイト「ロコモonline」.「ロコチェック」.
https://locomo-joa.jp/check/lococheck - 国立長寿医療研究センター: すこやかな高齢期をめざして. ロコモティブシンドローム(ロコモ)をご存知ですか.
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