医療DX推進とスタッフ育成の実践 ―糖尿病専門クリニックの実例―

2026.06.11
prev next
シンポジウム 9「医療DX化の最前線(日本医療情報学会合同シンポジウム)」
発表日:2026年5月21日
演題:糖尿病専門クリニックにおける医療DX推進とスタッフ育成の実践
演者:澤木秀明(澤木内科・糖尿病クリニック)

第69回日本糖尿病学会年次学術集会において、医療DXをテーマとしたシンポジウムが開催された。登壇者の一人である澤木内科・糖尿病クリニックの澤木秀明氏は、少子化による医療従事者の採用難が深刻化する中、「糖尿病難民をなくす」というミッションを自院で掲げているといい、業務効率化と医療の質向上を両立させるための医療DX戦略と、それを支えるスタッフ育成の実践について、自院での取り組みを報告した。

「ボトルネック戦略」による診療フローの円滑化

 同院では第一に「コンピューターやAIに仕事を奪われるのではなく、活用できるメンバーを育てる」という方針を掲げ、DX推進とスタッフ育成を一体的に推進している。診療を効率よく進めるためには、カルテの代理入力を行うクラークの存在が大きいといい、同院では医師以外の全スタッフがクラーク業務を行えるようにしている。これにより、同院のシステムに不慣れな勤務医であっても、クラークが強力なサポーターとなることで、医師が本来の診療技能を十分に発揮できると説明した。

 また同院では、患者の診療フローを円滑にするため「ボトルネック(砂時計のくびれ)戦略」1)を導入している。患者さんの流れを「1人の患者=1本のライン」と捉えた場合、「来院」⇒「受付で登録・問診」⇒「検査(血液検査など)」⇒「診察室で診察」⇒「会計で精算」という流れになる。澤木氏は、スタッフが「一人3役」をこなすことを推奨し、受付・クラーク・管理栄養士業務など複数こなせるようにしていると説明。これにより、どこで流れが詰まっているか(ボトルネック)をリアルタイムに把握して全員で共有し、詰まっている箇所に手の空いたスタッフが集まって一気に解消するのだと強調した。

 このボトルネック解消のサイクルは、① 流れが詰まる、② 誰かが気づき全員に共有する、③ 応援が入る、④ 解消して流れる、⑤ 次のボトルネックへ移動する、という5段階で循環する。以下に具体例を示す。

  • 受付が混雑:管理栄養士が受付へ応援に入り混雑を緩和する
  • クラークが不足:看護師がクラーク業務を代行してカバーする
  • 診察室で停滞:上流の患者待機の段階で聞き取りを追加して、診察室で溜まっているカルテを減らす

 澤木氏は、ボトルネックは次々と移動するものであるとし、「発見したら、みんなで手当てする」文化こそが、スムーズなクリニック運営の核心であると述べた。

セキュリティと利便性を両立するハイブリッドシステム構成

 医療DXの導入において、同院では、① 比較的低コストで導入可能、 ② 高度なセキュリティ確保、③ 個別カスタマイズの容易性、といった3つの基準を重視し、導入後も常に最適化を図っているという。

 実際のシステム構成としては、セキュリティ重視の観点から、カスタマイズ性の高い電子カルテ14台をオンプレミス環境で構築し、ネットワークから物理的に分離して運用している。一方で、インターネット接続PC8台と複数のタブレットも併用するハイブリッド構成を採用している。診察室には電子カルテと連動した4画面モニターシステムを配置しており、CGMやインスリンポンプのデータを統合して表示させることで、先進的な糖尿病治療における意思決定の迅速化を実現している。

ウェブ問診・オンライン予約システム活用による患者サービスの向上 

 患者の利便性向上のため、同院ではオンライン予約システム、ウェブ問診、自動電話応答サービス、自動受付機を段階的に導入している。特にウェブ問診は、事前に患者情報を確認して診療準備を行えるため、必要に応じた事前対応が可能になるというメリットが大きい。澤木氏は具体的な活用事例として、妊娠を希望しインスリンポンプへの切り替えを検討している30代女性(1型糖尿病)のケースを提示した。

 この患者は受診の2ヶ月前にウェブ問診を完了しており、スタッフの手を煩わせることなく、以下の詳細な情報が事前にクリニック側へ共有された(一部改変)。

  • 基本情報・病歴:1型糖尿病(23歳頃発症)、肺炎と蓄膿症の既往(治療済)があり、現在は花粉症・アレルギー性鼻炎を治療中
  • 現在の状態:身長170.0cm、体重61.0kg。神経障害や目の合併症はなく、腎症は1期
  • 治療内容:インスリン療法を行っており、インスリンポンプ不使用。血糖測定はSMBGとFreeStyleリブレ2を使用
  • 処方薬:トレシーバ注、フィアスプ注、ヒューマログ注、フェキソフェナジン、フルチカゾン点鼻液
  • 生活背景:一人暮らしで自炊。デスクワーク(座位中心)で、運動習慣はないが徒歩通勤(20〜30分)をしている。飲酒は週1回程度で喫煙歴はない
  • 家族歴:糖尿病、難聴、高血圧、脂質異常症、がん すべてなし
  • 聞きたいこと:自己注射のみでの血糖コントロールへの不安があり、インスリンポンプへの切り替えを検討しているが、ポンプを使ったことがなく、切り替えの要否や使い方などについて教えてほしい
  • その他:女性医師の希望、マイナ保険証利用への同意、郵送物受け取り可能

 ウェブ問診を確認した同院は、受診前の事前介入として患者本人に電話で状況を確認した。その結果、HbA1cは6.5〜7.0%で推移しており(挙児希望のため目標値は6.5%未満)、前医で3ヶ月分の処方を受ける予定であることが判明した。澤木氏らは、「頻回インスリン注入療法とFreeStyleリブレ2の状態で3ヶ月処方を受けると、その期間はCGMの変更やポンプの開始が難しくなり、血糖自己測定加算が使えず治療の最適化に制限が生じる可能性がある」と患者に説明し、前医での処方を1ヶ月分に変更するよう依頼した。

 この事前対応により、前医受診時に1ヶ月処方への変更が実現しただけでなく、予約日の担当女性医師への情報共有や、患者に対するインスリンポンプ療法のブログ・動画を用いた事前学習の案内も可能となった。結果として、初診時にはミニメド780Gとパッチ式であるメディセーフウィズの違いを踏み込んで説明するなど、事前準備を活かした質の高い診療が提供できたという。

 澤木氏は、ウェブ問診とオンライン予約システムのメリットとして、① 医療機関と患者双方にとって時間を味方につけられる、② 専門外の重篤な疾患(突然の胸痛など)が疑われる場合に受診前に最適な医療機関へ案内できる、③ 記入されたEメールアドレスに連絡することが可能、④ 事前に最適な方針を立てやすくなることを挙げた。

 一方でデメリットとしては、専門施設に案内した患者から自院にかかりたかったと苦情があったことや、対面診療には及ばない情報量の限界があること、また患者・医療機関の双方にとっても手間であり、患者全員が記入してくれるわけではないこと、スタッフもすべてのウェブ問診を来院前に目を通せるわけではないことを挙げた。

デジタル化による教育施設としての体制整備

 同院では、患者サービスのデジタル化として、電子処方箋、オンライン資格確認、オンライン診療にも積極的に対応している。澤木氏は、これらのデジタル化により、受付業務の効率化と待ち時間の短縮を実現し、スタッフはより専門性の高い業務に注力できる体制を構築できたとした。

 同院ではデジタルを活用した効率的な研修体制も整備されており、複数の日本糖尿病療養指導士が誕生している。さらに、DXにより効率化された診療体制が複数医師による専門的診療と教育活動の両立を可能にし、非常勤医師8名(現在は9名)の参画を得て、2025年12月から日本糖尿病学会認定教育施設(III)としての活動を開始したという。

 澤木氏は、DX推進により、スタッフ一人当たりの生産性が向上し、採用難の環境下でも質の高い医療提供を目指すことが可能となったとし、業務効率化により創出された時間を患者教育や専門的診療に充てることで、「糖尿病難民をなくす」という自院の掲げるミッションの実現を可能にしたいと述べた。

DX推進とスタッフ育成の一体的推進こそが、持続可能なクリニック経営の鍵

 最後に澤木氏は、「適切な投資判断と段階的実装により、セキュリティと利便性を両立した医療DXは実現可能である」と総括した。そして、業務効率化により創出された時間を患者教育や専門的診療に充てること、すなわちDX推進とスタッフ育成の一体的推進こそが、教育施設としての機能も含めた持続可能なクリニック経営の鍵となると述べ、講演を締めくくった。

文献

  • 石川和幸著:仕事アタマの設計図 思考のボトルネックを解除しよう! ディスカヴァー・トゥエンティワン, 東京, 2008.
[ 糖尿病リソースガイド編集部 / 日本医療・健康情報研究所 ]
postbottom_ckdsdm_pc
postbottom_ckdsdm_sp

糖尿病・内分泌プラクティスWeb 糖尿病・内分泌医療の臨床現場をリードする電子ジャーナル

医薬品・医療機器・検査機器

糖尿病診療・療養指導で使用される製品を一覧で掲載。情報収集・整理にお役立てください。

一覧はこちら

最新特集記事

よく読まれている記事

関連情報・資料