「栄養指導」を診療フローに組み込む——生活習慣病時代のクリニックDXという選択肢

2026.07.16
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 生活習慣病管理料への制度変更、外来栄養食事指導料へのオンライン区分の追加——ここ数年の診療報酬改定は、外来における「食事・栄養への介入」をこれまで以上に重視する方向へと動いています。一方で、多くのクリニックが直面しているのは「栄養指導の必要性はわかっているが、院内では実施しきれない」という現実的な壁です。管理栄養士の採用難、教育や管理にかかるコスト、投資対効果の読みにくさ。これらが、栄養指導を「やりたくてもできない領域」にとどめてきました。この壁を越える手段として注目されているのが、デジタル技術を介して栄養指導を外部リソースとして組み込む「医療DX」の発想です。本稿では、栄養指導をめぐる制度の流れと現場の課題を整理したうえで、その解決策のひとつとして、オンライン栄養指導や栄養指導用システムといった実装例をご紹介します。

【執筆者】Nsワーカー
介護士として勤務しながら准看護師資格を取得後、民間病院での臨床経験を積み正看護師へ。現在は大学病院に勤めて10年以上となる現役看護師。育児中のワーキングファザーでもあり、看護・医療・育児に関連した記事を100件以上執筆。高評価を多数いただいており、正確さと読みやすさを大切にしたライティングを心がけている。

1. 栄養指導はいま、なぜ「効率化」が問われているのか

制度が後押しする「多職種連携」と「オンライン」

 2024年度の診療報酬改定によって、糖尿病・脂質異常症・高血圧症の3疾患は、それまでの特定疾患療養管理料の対象から外れ、生活習慣病管理料へと制度が再編されました。生活習慣病管理料の算定にあたっては、療養計画書の作成とともに、管理栄養士を含む多職種連携による治療管理が望ましいとされています。つまり、食事・運動・生活習慣への踏み込んだ介入が、これまで以上に診療の質として問われるようになりました。

 同時に進んでいるのが、栄養指導の「オンライン化」です。外来栄養食事指導料には情報通信機器を用いた区分が設けられ、対面に限られていた栄養指導が、遠隔でも算定可能な形へと拡張されてきました。患者さんにとっては通院負担の軽減につながり、医療機関にとっては指導機会そのものを増やす余地が生まれます。制度面では、栄養指導をオンラインで提供する環境が着実に整いつつあるといえます。

しかし現場では「院内導入」が難しい

 制度が栄養指導を後押しする一方で、現場の感覚は必ずしも追いついていません。多くのクリニックが抱える悩みは、おおむね次のような形に集約されます。

  • 生活習慣病の患者さんに、本当は食事の面まで踏み込んで支援したい
  • しかし管理栄養士を雇用しようにも、人材が見つからない
  • 採用できたとしても、教育・管理にかかるコストや手間が大きい
  • 投資に見合うリターンがあるのか、事前に読みにくい

 栄養指導は、診療報酬上の評価が高まっているとはいえ、多くのクリニックにとって「診療の中心」ではありません。中心ではない業務のために常勤雇用という固定費を抱えるのは、経営判断として踏み切りにくいものです。結果として、「必要性はわかっていても、今すぐ院内導入は難しい」という状態が続いてきました。ここに、発想の転換を促すのが医療DXの考え方です。栄養指導を「院内に抱える機能」としてではなく、「デジタルを介して外部から取り込む機能」として捉え直すことで、固定費や教育コストといった従来の制約から切り離して実装できる可能性が見えてきます。

2. 栄養指導における「医療DX」とは何を指すのか

 医療DXというと電子カルテやオンライン資格確認といった基盤領域がまず思い浮かびますが、栄養指導の文脈におけるDXは、もう少し具体的です。ポイントは大きく二つあります。

①   食事情報の「見える化」——聞き取りと紙からの脱却

 従来の栄養指導は、患者さんへの口頭での聞き取りや、紙の記録用紙への記入を前提としてきました。ですが、この方法には情報の抜けや漏れがつきまといます。「昨日何を食べましたか」と尋ねても、記憶は曖昧になりがちで、指導の土台となるデータの精度に限界がありました。これをデジタルで置き換えるのが、栄養指導用アプリの役割です。

 患者さんが食事の写真を撮って送るだけで、食事内容が記録され、体重や体脂肪率といった体組成の変化とともに時系列で蓄積されていきます。聞き取りに頼らず、実際の食事を起点に指導ができるため、情報の精度が高まり、指導の質そのものが底上げされます。

②   指導ナレッジの「蓄積と活用」

 もう一つの軸が、指導内容のデータ化です。面談記録やチャットでのやり取りがデジタルに蓄積されることで、個々の患者さへの対応履歴が一元管理されます。これは単なる記録の効率化にとどまりません。蓄積されたデータは、どのような声かけが行動変容につながりやすいか、どの時期に離脱が起きやすいかといった知見へとつながり、指導の再現性を高める資産になります。栄養指導における医療DXとは、この「食事情報の見える化」と「指導ナレッジの蓄積」を通じて、属人的になりがちだった栄養指導を、データに基づく再現可能なプロセスへと変えていく取り組みだといえます。

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3. 実装のかたち——オンライン栄養指導サービスという選択肢

 こうした医療DXの発想を、クリニックが自前でシステム開発から始めるのは現実的ではありません。そこで活用したいのが、栄養指導のDXをパッケージとして提供する外部サービスです。その一例として、管理栄養士によるオンライン栄養指導コーチングサービス「eat+(イータス)」の仕組みを見てみたいと思います。

アプリとシステムの二層構造

 eat+は、患者さん向けのアプリと、管理栄養士・クリニック向けのシステムという二層で構成されています。患者さんはアプリ上で、体重や体脂肪率を記録し、食事の写真を送り、担当の管理栄養士とチャットでやり取りできます。一方、管理栄養士はシステム側で、アプリから送られてきた記録をもとに栄養指導を行います。そして導入先のクリニックにもこのシステムが共有され、患者さんがどのような食事をとり、どんな指導を受けているかを随時確認できます。指導の中身がクリニック側からも見える状態になっている点は、診療と栄養指導を連動させるうえで意味を持ちます。

「導入コストゼロ」で外付けする発想

 このサービスが医療DXの実装例として興味深いのは、栄養指導の機能を、院内の固定費を増やさずに「外付け」できる設計になっている点です。管理栄養士の採用も教育も自院で抱える必要がなく、紹介を介して運用が完結する形を選べば、クリニック側の工数を抑えながら栄養指導という選択肢を診療に加えられます。提供形態は、目的に応じて二つの方向性が用意されています。

 一つは、自由診療として栄養指導を導入する形です。もう一つは、保険診療下で、オンライン栄養指導が可能な管理栄養士をスポットまたは常勤で紹介する人材紹介の形です。後者では、クリニックに所属する管理栄養士が指導することで外来栄養食事指導料の算定にもつながります。栄養指導を「新たな診療の柱」として収益面から位置づけたい場合にも、現実的な入り口になりうるでしょう。

効率化の先にある「継続」と「満足度」

 栄養指導をDX化する狙いは、業務効率だけではありません。患者さんに継続的に伴走する管理栄養士の存在は、「誰かが見てくれている」という安心感につながり、治療からの離脱を防ぐ効果が期待できます。食事という生活に密着した領域で支援を受けられることは、患者さんにとっての満足度を高め、結果として診療の継続にも寄与します。効率化によって生まれた余力を、患者さんとの関係性の質に振り向けられる——これが、栄養指導DXがもたらすもう一つの価値です。

これからの展望——AIによる業務支援

 栄養指導のDXは、記録と蓄積の段階から、その先へと進みつつあります。蓄積されたデータを土台に、AIを活用して管理栄養士の業務を効率化したり、栄養計算や指導内容の提案をサポートしたりする機能の実装が、今後の展望として描かれています。データに基づく指導の再現性は、AIの支援によってさらに高まっていく可能性があります。

4. 公的な動き——臨床栄養協会「栄養指導せん発行WEBツール」

 栄養指導のオンライン化は、民間サービスだけでなく、公的な団体の側からも後押しされています。その象徴的な取り組みが、一般社団法人日本臨床栄養協会が提供する「栄養指導せん発行WEBツール」です。これは、管理栄養士が在籍していない医療機関でも、外来患者さんへのリモート栄養指導を実現するための仕組みです。リモート栄養指導の委託窓口となる各都道府県の栄養ケア・ステーションへ、オンラインでオーダーを出せるシステムになっています。協会は、管理栄養士のいない医療機関でのリモート栄養指導を普及させる目的で、2026年10月31日までの1年間限定で、協会の会員以外の医師も無料で利用できるようにしています。

 使い方はシンプルです。利用申込後に送られる新規登録用URLからアカウントを登録し、PC・タブレット・スマートフォンのブラウザからツールにアクセスします。必要な情報を入力して送信するだけで、栄養指導せんを発行できます。利用にあたっては、事前に医療機関と都道府県栄養ケア・ステーションの間で契約手続きが必要となる点には留意が必要です。このツールを利用すれば、管理栄養士を直接雇用することなく、情報通信機器を用いた外来栄養食事指導料2(初回225点、2回目以降170点)をレセプト請求できます。前述した生活習慣病管理料における多職種連携の観点からも、こうした公的な仕組みを診療に取り入れる意義は大きいといえます。

 民間サービスと公的ツールという二つの選択肢が出そろいつつあることは、栄養指導のオンライン化が制度・実装の両面で成熟しつつあることを示しています。

まとめ——栄養指導を「抱える」から「つなぐ」へ

 生活習慣病への介入が診療報酬上も重視されるなか、栄養指導はクリニックにとって避けて通れないテーマになりつつあります。ですが、それを従来通り「院内に管理栄養士を抱える」形で実現しようとすると、採用・教育・コストという壁に阻まれてしまいます。

 医療DXの発想は、この構図を「抱える」から「つなぐ」へと転換します。食事情報をデジタルで見える化し、指導ナレッジを蓄積し、必要なリソースを外部から取り込む。オンライン栄養指導サービスや、臨床栄養協会の栄養指導せん発行WEBツールといった選択肢は、まさにその実装例です。栄養指導を診療フローに無理なく組み込み、患者さんの継続と満足度を支えること。それは結果として、治療の価値を伝わりやすくし、クリニックの経営基盤を支えることにもつながっていきます。

 栄養指導のDXは、これからのクリニックにとって、検討に値する現実的な一手といえるでしょう。

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