本邦初の報告:発症前ステージ分類に基づく1型糖尿病の疫学的実態 PREP-T1D研究
発表日:2026年5月22日
演題:1型糖尿病を有する者の第一度近親者における発症前ステージ分類に基づく疫学的実態―PREP-T1D研究―
演者:中條大輔(国際医療福祉大学市川総合病院 糖尿病・代謝・内分泌内科)

2026年5月21~23日にかけて開催された第69回日本糖尿病学会年次学術集会において、国際医療福祉大学市川総合病院 糖尿病・代謝・内分泌内科の中條大輔氏は、国内の1型糖尿病患者の第一度近親者を対象とした「PREP-T1D研究」の結果を報告した。本研究は、本邦で初めて発症前ステージ分類に基づき1型糖尿病の疫学的実態を明らかにしたものであり、日本においても民族特性に応じたスクリーニング・モニタリング体制が確立されることが重要であると中條氏は強調した。
本邦における近親者スクリーニングの意義
海外では、自己免疫性1型糖尿病は進行の程度に応じて臨床的発症の前からステージ分類される。具体的には、耐糖能正常かつ無症状で複数の膵島関連自己抗体が陽性となる「ステージ1」、複数自己抗体陽性に加えて空腹時血糖値100~125mg/dLや糖負荷2時間後血糖値140~199mg/dLなどの耐糖能異常(境界型)を伴う無症状の「ステージ2」、標準的な診断基準による糖尿病症状や血糖上昇がある「ステージ3」と定義されている1)。
1型糖尿病発症リスクの指標としては、膵島関連自己抗体が広く用いられている。 複数の自己抗体が陽性である場合、ステージ3に移行するリスクが高いことが示されており2)、また、複数の抗体陽性確認後5年で43.5%、10年で69.7%、15年で84.2%がステージ3に移行した(高血糖を伴う1型糖尿病を発症した)との報告もある3)。さらに1型糖尿病治療においては、ステージ2を対象とした抗CD3抗体 teplizumab4)が「1型糖尿病の発症の遅延」を適応として、2022年11月に米国食品医薬品局(FDA)、2026年1月に欧州委員会(EC)より承認されるなど、昨今大きく進展している。
日本における1型糖尿病の有病率は欧米よりも低いとされる5)が、1型糖尿病を有する者の兄弟姉妹は一般集団に比べて200倍以上高リスクであり6)、多くが1種類以上の膵島関連自己抗体陽性を示すと報告されている7)。このことから中條氏は、本邦における近親者に対するスクリーニングの意義を指摘した。
しかし、これまで本邦では発症前の状態にある者を特定する試みは行われてこなかったことを中條氏は説明。 そのような背景から、本研究では、日本において第一度近親者に1型糖尿病を有する人をもつ者のうち、ステージ1および2に相当する病態に該当する個人を特定して、その集団における有病率を評価することを主要目的とした 。
膵島関連自己抗体によるスクリーニング検査を実施
抗体の種類は欧米と異なる傾向
本研究は、劇症1型糖尿病またはインスリン非依存状態を除く1型糖尿病を有する者の第一度近親者を対象に、日本全国の71施設により実施された。組み入れられた研究対象者は2,623名であり、そのうち2,614名に対して1次スクリーニングとして膵島関連自己抗体検査を行った。抗体陽性者に対しては2次スクリーニングとして糖代謝検査(OGTT、HbA1c)や各種詳細な検査を実施し、ステージ分類を行った。
1次スクリーニングの結果、膵島関連自己抗体陽性者は95名(3.6%)で、その内訳は、単一抗体のみの陽性が79名(3.0%)、複数抗体の陽性が16名(0.6%)であった。陽性者に対する2次スクリーニングの結果、OGTTを完了した89名のうち、単一陽性者75名中21名、複数陽性者14名中9名が耐糖能異常を示し、後者の9名はステージ2に相当した。
対象者の背景ごとの解析では、膵島関連自己抗体陽性者は陰性者と比較して年齢が有意に若かった(P=0.036)。また、複数陽性者は単一陽性者と比較して男性が有意に多い(P=0.009)という結果であった。
陽性となった膵島関連自己抗体の種類をみると、最も頻度が高かったのはZnT8A(亜鉛トランスポーター8抗体)で49.5%(95名中47名)であり、次いでGADA(グルタミン酸脱炭酸酵素抗体)が42.1%(40名)、IA-2A(インスリノーマ関連タンパク質2抗体)が32.6%(31名)の順であった。一方、IAA(インスリン自己抗体)陽性は1名(1.1%)のみであった。中條氏はこれらの傾向について、GADAやIAAの頻度が高いとされる欧米の報告とは異なるものであると指摘した。また、抗体価に関しては、ZnT8AおよびIA-2Aにおいて単一陽性者よりも複数陽性者のほうが有意に高値であった(いずれもP<0.001)。
複数抗体陽性者ではインスリン分泌能低下が示唆
膵島関連自己抗体陽性者におけるHLA遺伝子型は、疾患感受性ハプロタイプ(*09:01-*03:03、*04:05-*04:01、*08:02-*03:02)の頻度が高く、逆に疾患抵抗性ハプロタイプ(*15:01-*06:02、*15:02-*06:01)の頻度は低かった。
甲状腺自己抗体と膵島関連自己抗体の関連性も評価された。膵島関連自己抗体陽性者91名のうち20.9%(19名)が何らかの甲状腺自己抗体(TgAb、TPOAb、TRAb)を有していた。とくに複数抗体陽性者においては33.3%(15名中5名)が甲状腺自己抗体陽性であり、単一陽性群の18.4%(76名中14名)と比較して有意に高かった(P=0.028)。
スクリーニング陽性者におけるインスリン分泌能および抵抗性の評価では、複数抗体陽性者は単一抗体陽性者と比較して、C-peptide AUCおよびΣC-peptideが有意に低い値を示した(C-peptide AUC:P=0.041、ΣC-peptide:P=0.036)。中條氏はこの結果について、複数抗体陽性者におけるインスリン分泌能の低下が示唆されるものであると述べた。
民族特性に応じたスクリーニング・モニタリング体制確立に期待
最後に中條氏は、本研究は、本邦で初めて発症前ステージ分類に基づき1型糖尿病の疫学的実態を明らかにしたものであると強調。今後も経過観察を継続し、本邦初の貴重なエビデンスが得られることが期待されるとともに、日本においても民族特性に応じたスクリーニング・モニタリング体制が確立されることが重要であると述べ、講演を締めくくった。
文献
- American Diabetes Association Professional Practice Committee. : Diabetes Care. 2026; 49 (Supplement_1): S27-S49.
- So M, et al. : Endocr Rev. 2021; 42(5): 584-604.
- Ziegler AG, et al. : JAMA. 2013; 309(23): 2473-2479.
- Herold KC, et al. : N Engl J Med. 2019; 381(7): 603-613.
- Ogle GD, et al. : Diabetes Res Clin Pract. 2025; 225: 112277.
- Ikegami H, et al. : Endocr J. 1996; 43(6): 605-613.
- Kawasaki E. : Int J Mol Sci. 2023; 24(12): 10012.








