優秀な看護師・医療事務を効率的に『スカウト』する手法とは

【執筆者】Nsワーカー
介護士として勤務しながら准看護師資格を取得後、民間病院での臨床経験を積み正看護師へ。現在は大学病院に勤めて10年以上となる現役看護師。育児中のワーキングファザーでもあり、看護・医療・育児に関連した記事を100件以上執筆。高評価を多数いただいており、正確さと読みやすさを大切にしたライティングを心がけている。
クリニックの採用環境はなぜ厳しいのか
スカウト採用の必要性を語る前に、まずはクリニックを取り巻く採用環境の厳しさを数字で確認しておきましょう。
看護師の有効求人倍率は2倍超が常態化
厚生労働省「職業安定業務統計」に基づく看護師・准看護師の有効求人倍率は、2018年度から2022年度にかけて2.05倍~2.35倍で推移しています(厚生労働省「第195回職業安定分科会 参考資料」7ページ)。全職業の有効求人倍率が同期間に1.01倍~1.46倍で推移していることを踏まえると、看護師は明らかな売り手市場です。1人の求職者に対して2倍以上の求人が存在する状況では、求人広告を出して応募を待つだけでは、別の医療機関に決まってしまうのが現実です。
看護職員数は増加しているが、需要に追いついていない
同資料によれば、2020年時点の看護職員就業者数は173.5万人(厚生労働省「医療施設(静態)調査」「衛生行政報告例」「病院報告」に基づく)。一方、2019年の「医療従事者の需給に関する検討会 看護職員需給分科会 中間とりまとめ」では、2025年の需要推計が約180.1万人と示されており(同参考資料7ページ)、就業者数の増大が必要とされています。
医療事務も決して楽観できない状況
医療事務についても、厚生労働省「職業安定業務統計」に基づく業界調査によれば、2023年度の有効求人倍率は約2.0倍と高水準で推移しています。無資格でも応募可能なため看護師より採用しやすいと考えがちですが、レセプト業務や電子カルテ操作に習熟した経験者は希少で、複数のクリニックで奪い合いとなる構造があります。
「応募を待つ」採用が機能しなくなった理由
問題は、求職者の行動も大きく変化している点です。「いずれ転職するかもしれない」と考える潜在層は、求人サイトに登録しないまま情報収集を続けるだけのケースが多く、求人広告には反応しません。求人広告に応募してくる層は「今すぐ転職したい」顕在層のみで、母集団そのものが極めて小さい状況です。「待ちの採用」の限界こそが、スカウト採用が注目される最大の理由といえるでしょう。
「スカウト採用」とは──従来型採用との違い
スカウト採用とは、求人広告を出して応募を待つのではなく、医療機関側から候補者へ直接アプローチする能動的な採用手法です。ダイレクトリクルーティングとも呼ばれます。
従来型採用との比較

スカウト経由は内定率が高い傾向
医療・介護分野の求人サイトを運営するセカンドラボ株式会社が公表しているデータによれば、スカウト経由の応募はスカウトなしの応募と比べて内定率が約2.3倍にのぼるとされています。医療機関側が候補者のプロフィールを見たうえで興味を持って声をかけるためミスマッチが起きにくく、求職者にとっても「自分のスキルを評価してくれた医療機関」という印象が残りやすいことが要因と考えられます。
クリニックで使える主なスカウト手法5選

ここからは、クリニックが実際に活用できるスカウト手法を5つ紹介します。
①ダイレクトリクルーティング型求人媒体
最も導入しやすいのが、求職者データベースから候補者を検索してスカウトメールを送れる求人媒体の活用です。看護師向けにはジョブメドレー、ナースパワー、コメディカルドットコムなど、医療事務向けにはJimuten(ジムテン)など、医療事務特化型の媒体もあります。「レセプト経験あり」「電子カルテ操作可能」といったスキル条件で求職者を絞り込めるため、ターゲットを絞ったスカウトが可能です。費用は媒体掲載料(月額)+スカウト送信費、もしくは成功報酬型など、料金体系は媒体によって異なります。自院の採用予算と緊急度に合わせて選びましょう。
②人材紹介会社の指名・登録者検索
人材紹介会社のなかには、登録している求職者のプロフィールを閲覧して指名スカウトを送れるサービスを提供しているところがあります。なお、厚生労働省「第195回職業安定分科会 参考資料」(22ページ)によれば、令和3年度の看護師の常用就職件数のうち、有料職業紹介事業者による就職件数は約5.7万件にのぼり、医療人材市場における紹介事業者の存在感は大きくなっています。さらに、医療・介護・保育分野の適正な有料職業紹介事業者認定制度で認定された49社の紹介による就職件数は約4.3万件で、シェア率は75.4%を占めています。人材紹介会社を選ぶ際は、こうした認定事業者を活用することで、トラブルのリスクを抑えられます。
③SNSを活用した認知拡大とスカウト
InstagramやX(旧Twitter)を使い、クリニックの雰囲気や働き方を発信して興味を持った人にDMでアプローチする手法も増えています。特にInstagramは医療従事者の利用率が高く、職場紹介のリール動画やスタッフの1日を紹介する投稿は反応が良い傾向があります。すぐに採用につながらなくても、「いつか働きたい」と思ってもらえる潜在層の育成に有効です。ただし運用には継続的なリソースが必要で、即効性は期待しにくい点に注意してください。
④リファラル(紹介)採用
既存スタッフからの紹介で人材を採用する手法です。紹介者にインセンティブ(紹介料、特別休暇など)を用意する仕組みを整えることで、紹介の動機づけが可能になります。リファラル採用の最大のメリットは、職場の文化や働き方を理解した紹介者を経由するため、入職後のミスマッチが起きにくいことです。
⑤都道府県ナースセンター・ハローワークの活用
各都道府県に設置されている「ナースセンター」は、看護職に特化した無料の職業紹介機関です。医療機関側は求人を無料で出せ、潜在看護師(資格保有だが未就業の人)へのアプローチも可能です。ナースセンターとハローワークの連携事業も進められており、令和4年度の連携事業による求人充足数は2,134人と報告されています(厚生労働省「第195回職業安定分科会 参考資料」18ページ)。地域密着で人材を探すクリニックには有力な選択肢となるでしょう。
スカウト成功率を上げる3つの実践ポイント
スカウト手法を選んだら、次は「どう実行するか」が重要です。 返信率・採用率を高めるための3つのポイントを解説します。
ポイント1:ペルソナを明確に言語化する
「優秀な看護師がほしい」では曖昧すぎます。「クリニック経験3年以上」「採血・点滴のスキルがある」「日勤のみ希望」「子育てと両立したい層」など、具体的な人物像を言語化しましょう。ペルソナが明確になることで、スカウト時の絞り込み条件が決まり、文面のトーンも自ずと定まります。
ポイント2:スカウト文面は「個別化」が鉄則
最も避けるべきは、コピペの一斉送信です。求職者は1日に何通もスカウトを受け取っており、テンプレートメールはほぼ確実に読まれません候補者のプロフィールに目を通し、「○○のご経験を活かしていただける環境です」「△△にご興味があるとのこと、当院では...」といった個別化された内容を1通ずつ書くことで、返信率は劇的に向上します。時間はかかりますが、母数を絞って質を上げる方が、結果的に効率的です。
ポイント3:返信率が上がるタイミングを意識する
求職活動には、明らかに「動きが活発になる時期」があります。看護師の場合、ボーナス支給後の7月・12月、年度末の3月などです。このタイミングに合わせてスカウト送信を強化することで、開封率・返信率を高められます。送信時間帯にも気を配りましょう。看護師は夜勤明けに求人サイトをチェックすることが多く、朝9~11時頃、もしくは夜21~23時頃の送信は反応が良いとされています。
医療DXがスカウト採用を加速させる

採用業務をスカウト中心に切り替えると、応募者対応・面接調整・選考管理などの業務量が大幅に増えます。ここで力を発揮するのが医療DXの仕組みです。
採用管理システム(ATS)で応募から内定までを一元管理
複数の媒体を併用していると、応募状況の把握が煩雑になりがちです。採用管理システム(ATS)を導入すれば、媒体ごとの応募者情報、選考ステータス、メッセージ履歴を一元管理でき、「対応漏れ」「日程調整ミス」を防げます。
電話自動応答・Web問診と連携した業務省力化
スカウト採用に注力するには、採用担当者(多くは事務長や院長自身)の時間を確保する必要があります。電話自動応答システム、Web問診、オンライン予約システムなど、外来業務を効率化するDXツールを導入することで、採用業務に割ける時間を捻出できます。
【内部リンク:電子カルテ・予約システム導入による業務効率化に関する記事】
既存の電子カルテ投資を「採用の強み」に変える
すでに電子カルテを導入しているクリニックなら、その投資を「採用の強み」としてアピールすることも可能です。電子カルテやAI問診を導入していることは、「業務の標準化が進んでいる」「ITリテラシーの高い職場」というメッセージになります。求職者が職場選びで重視する要素のひとつである「働きやすさ」を、医療DXで可視化できるのです。
スカウト採用で気をつけたい3つの注意点
最後に、スカウト採用を進めるうえでの注意点を整理します。
注意点1:個人情報保護とコンプライアンス
求人媒体経由で取得した個人情報は、採用目的以外には使えません。紙の応募書類の管理、データの保管期間、選考終了後の取り扱いについて、院内ルールを整備しておきましょう。
注意点2:「採用後の定着」までを設計する
スカウト採用は入口にすぎません。日本看護協会「2024年病院看護実態調査」によれば、2023年度の正規雇用看護職員の離職率は11.3%、新卒採用者は8.8%、既卒採用者は16.1%でした(同調査結果6ページ)。注目すべきは、設置主体別では医療法人の正規雇用看護職員離職率が14.4%、既卒採用者離職率が18.2%と、ほかの設置主体より高い水準にあることです(同7ページ)。これはクリニックを運営する医療法人にとって、入職後のオンボーディング・教育体制・評価制度の整備が極めて重要であることを意味します。さらに同調査では、新卒看護師の主な退職理由として「健康上の理由(精神的疾患)」が52.5%で最多、次いで「自分の看護職員としての適性への不安」47.4%、「上司・同僚との人間関係」29.8%が挙がっています(同10ページ)。メンタルヘルスや人間関係のケアも、定着率向上の鍵となるでしょう。
注意点3:紹介料・媒体費の費用対効果を管理する
スカウト採用は手間と費用のトレードオフです。1人採用するのにいくらかかったか(採用単価)を可視化し、媒体ごとのROIを比較する習慣をつけましょう。採用単価÷想定勤続年数で年間あたりの実質コストを把握すると、判断軸が明確になります。
まとめ:「待つ採用」から「攻める採用」へ

クリニックの採用は、求人広告を出して応募を待つ時代から、医療機関側が能動的に候補者を探しにいく時代へと変化しています。看護師の有効求人倍率2倍超、医療事務の人材獲得競争激化という現実を踏まえれば、スカウト採用への移行はもはや「選択肢」ではなく「必須の経営判断」といえるでしょう。本記事で紹介した5つのスカウト手法のうち、自院に合う手法から段階的に取り入れてみてください。そして、医療DXの活用で採用業務の負荷を下げ、定着までを見据えた制度設計を行うことが、長期的に「選ばれるクリニック」となる近道です。人材確保はクリニック経営の根幹に関わる課題です。今日から、攻めの採用へ舵を切り直してみませんか。
参考リンク・引用元
※本記事の情報は2026年5月時点のものです。各種統計データや採用市場の状況は変動するため、最新の情報は各機関の公式サイトでご確認ください。






