小児1型糖尿病の成人科移行、20歳超えても半数が未移行の実態
第68回日本糖尿病学会学術集会 小児・思春期糖尿病5
発表日:2025年5月30日
演題:小児期発症1型糖尿病における小児科から成人科への診療移行の実態調査
演者:小川 洋平(新潟大学医歯学総合病院小児科)

小児期に発症した1型糖尿病患者が成人医療へ円滑に移行することは、生涯にわたる良好な血糖管理と合併症予防のための重要な課題である。しかし、その移行時期や方法に確立されたものはなく、実態は十分に明らかにされていなかった。第68回日本糖尿病学会学術集会にて、新潟大学医歯学総合病院小児科の小川洋平氏は、小児インスリン治療研究会の大規模コホート研究に基づき、本邦における診療移行の実態を報告。その結果、20歳を超えても半数以上の患者が小児科での診療を継続しており、成人科への診療移行が積極的に行われていない現状が明らかになった。
大規模コホート研究で明らかになった診療移行の実態
本研究は、登録時18歳未満の1型糖尿病患者を対象とした全国多施設共同観察研究である小児インスリン治療研究会(代表世話人:菊池 透(埼玉医科大学小児科))第5コホート研究のデータベースを基に行われた。登録時に18歳未満であった1型糖尿病患者1155名から除外、脱落、成人科通院患者を除いた1003名を対象とし、2018年3月から2024年2月までの6年間における診療移行の有無、移行先、移行時期が解析された。
解析の結果、コホート終了時点で、同じ医療機関に継続して通院していた者は736名(73%)であり、何らかの形で転院した者は267名(27%)であった。転院の内訳は、成人科への移行が97名(全体の10%)、小児科への紹介が15名、同一医師(他医療機関)が126名、小児科・内科クリニックが10名、海外5名、転院先不明14名だった。
特に注目すべきは、成人後の診療状況である。コホート終了時に20歳以上であった患者は228名おり、そのうち通院先を変更していなかった者、すなわち小児科での診療を継続していた者は124名と、半数以上(54%)を占めていた。一方、成人科へ診療移行した者は52名(23%)にとどまった。この結果は、成人後も多くの患者が小児科医の診療を継続している実態を明確に示している。
移行の契機は「高校卒業」、移行先は地域で異なる傾向
診療移行の時期に目を向けると、移行した患者の年齢分布は18歳、19歳、20歳に集中しており、特に18歳が最も多かった。このことから、高校卒業が診療科を移行する一つの大きな契機となっていると推測される。
また、移行先の医療機関には地域による傾向が見られた。同一都道府県内で診療移行する際はクリニックが選択されることが多かったのに対し、県外へ移行する際は病院が選択される傾向にあった。この背景について小川氏は、県内の場合、小児科医が地域の医療事情を熟知しており、顔の見える関係にある成人科医との連携が取りやすいためではないかと考察した。
考察と今後の課題:積極的な移行が進まない現状
今回の調査から、「20歳の時点では診療移行が積極的に行われていない実態」と、「小児期発症1型糖尿病において成人後も小児科医が診療を継続している実態」が浮き彫りとなった。小川氏は冒頭で「移行期医療をいかに円滑に行いそして成人科の先生にお願いするかということが一つの大切な使命」と述べたが、現状ではその移行がスムーズに進んでいない可能性が示唆された。
本研究は、登録時年齢が18歳未満であるため、大学卒業後など23歳以降の診療移行については把握できていないというリミテーションはある。しかし、この大規模な実態調査の結果は、患者が適切なタイミングで成人医療へスムーズに移行できるような、より体系的な支援体制の構築と、小児科と成人科のさらなる連携強化の重要性を改めて示すものと言える。