(扉)特集にあたって
篠田 啓 Shinoda, Kei
埼玉医科大学病院 眼科
■ 特集にあたって
糖尿病患者を取り巻く環境は日々変化している.進化していると言いたいが,言ってもよいものであろうか.念のためその前に網膜症で視覚障害を有する患者の立場からみた医療を含む社会環境について,あらためて考えたい.
眼科領域では分子標的薬や画像診断技術および手術の進歩は目覚ましく,早期診断,詳細な病態把握,細分化された治療選択肢,治療成績の向上がみられる.そしてAI(artificial intelligence)の登場で画像診療の比重の高い糖尿病網膜症診療では,未曽有の変革期に直面しているとも言える.そこで本企画の前半では,各分野のトップランナーに糖尿病網膜症診療の現状と展望をご解説いただいた.
しかしこれは患者を取り巻く社会のほんの一部である.そして2019 年末から始まったCOVID-19 のまん延により,社会の仕組みや価値観が根底から揺るがされ,1 年以上経過したいま,医療体制の問題点も明らかになってきた.IT やAI を駆使したニューノーマルと呼ばれる医療・社会体制が構築されつつある.これまで正常であるとか,優れているとかと考えられていたことの価値に転換が生じ,ノーマルであった日常の価値観は崩れ去り,新しいノーマルを受け入れて新しい日常を築いていく時代が来ている.否,さらに考えを進めてニューノーマルではなくノーノーマル,すなわちそもそも正常は存在しない,視覚障害の有無にかかわらず同様の生活が可能な社会を目指すときである(神戸アイセンター病院・髙橋政代先生の言葉).奇しくも2019 年には糖尿病患者が糖尿病のない人と変わらない生活を送ることができる社会環境の構築を目指すアドボカシー委員会が設立された.SDGs(sustainable development goals:持続可能な開発目標)を目指す社会のなかで糖尿病網膜症診療も同じ意識で進んでいきたい.患者が診療を継続しながら社会生活を営むあらゆる局面での支援のためには複数の専門職が必要である.診療においては治療だけではなく身体的・精神的な苦痛や不安に寄り添い前向きに取り組む意識へのサポートが,日常生活においては労働や経済活動を含む衣食住の各局面での支援が重要である.入院の際は退院から社会生活へのシームレスな移行が生活復帰の鍵になることも少なくない.後半では社会への架け橋となる患者を取り巻くチーム医療にフォーカスし,医療ソーシャルワーカー(medical social worker:MSW)・公認心理師・視能訓練士といった専門職の視点から現状と課題を述べていただいた.
そして最後に全身管理という視点から,糖尿病専門医の先生に医師を含む眼科スタッフが知っておくべき糖尿病患者の全身管理のポイントを解説いただいた.
本稿が,糖尿病診療に関わるすべての医療チームスタッフがお互いの理解を深め,多職種の連携による集学的ケアの向上に役立つ一助になることをこころから願う.
特集 ■糖尿病網膜症診療 Update─最新の知見からチーム医療の現状まで─
(扉)特集にあたって(7月20日up)
篠田 啓/埼玉医科大学病院 眼科
1.最新の糖尿病網膜症治療─新たな分子標的薬の開発を含めて(7月20日up)
小沢 洋子/聖路加国際大学/聖路加国際病院 眼科
2.糖尿病網膜症診療におけるAI(artificial intelligence)の役割(7月20日up)
安川 力/名古屋市立大学大学院医学研究科 視覚科学
3.診療科間連携,多職種連携のシステム構築:その理念と具体像─総論(7月20日up)
蒔田 潤/埼玉医科大学病院 眼科
4.多職種連携の実際
4-1.糖尿病と視力障害─チーム医療における心理職の現状と課題(7月20日up)
花村 温子/独立行政法人地域医療機能推進機構埼玉メディカルセンター 心理療法室
4-2.医療ソーシャルワーカーの支援とチーム医療(7月20日up)
早坂 由美子/北里大学病院 トータルサポートセンター
4-3.ロービジョンケアを窓口とする多職種連携 (7月20日up)
丸林 彩子/埼玉医科大学総合医療センター 眼科
5.眼科医と眼科メディカルスタッフが知っておきたい糖尿病の全身管理(7月20日up)
西村 明洋 森 保道/虎の門病院 内分泌代謝科 糖尿病・代謝部門