高齢腎不全患者における腹膜透析のメリットと地域連携の必要性
第16回日本プライマリ・ケア連合学会学術大会
学会ジョイントプログラム1「<日本腹膜透析医学会>プライマリ・ケア医と腎臓専門医が拓く高齢者CKDの新しい選択肢~在宅腹膜透析の可能性と地域連携の実践~」
発表日:2025年6月21日
演題:「超高齢社会における末期腎不全医療~高齢者に対する腹膜透析のメリットと課題~」
演者:鯉渕清人(済生会横浜市東部病院)

高齢化が進む中、高齢腎不全患者における透析医療のあり方が問われている。特に腹膜透析(PD)は、生活の質や身体的負担などの面で高齢者に適した治療選択肢といえるが、国内の普及率は依然として低い。済生会横浜市東部病院腎臓内科の鯉渕清人氏は、高齢腎不全患者におけるPDのメリットと課題、そして専門医とプライマリ・ケア医の連携の重要性について講演した。
透析患者の高齢化で増える血液透析病院の負担
日本では近年、透析患者の高齢化が進んでいる。日本透析医学会の調査によれば、以前は少数であった70歳以上の高齢患者がこの20年余りで急増しており、若い透析患者は減少傾向にある1)。
また、血液透析(HD)患者の介護保険認定割合は多くの年代で一般人口の認定割合を上回っており、80代前半では一般人口の介護保険認定割合が29.05%なのに対し、HD患者は45.83%にのぼるとの報告がある2)。
さらに、通院状況も変化している。HD患者は週3回の通院が必要だが、日本透析医会の報告では一人で通院できるHD患者の割合は2011年に65.4%であったのが、2021年には52.6%に減少し、透析施設による送迎患者は15.0%から24.8%に増加している3)。HD患者の送迎は基本的にクリニック側の任意のサービスであるが、今後も送迎ニーズの増加が続けばクリニックの負担が高まることが懸念される。また、この先、入院患者も増えていくことが見込まれている。
高齢腎不全患者にPDがもたらすメリット
後述のように日本ではHD患者に比べ、PD患者の数が極端に少ない。だが、PDは高齢の腎不全患者にとってメリットの多い治療法である。
メリットとしてまず挙げられるのが、健康寿命の面である。海外の大規模研究において、高齢者の健康寿命を阻害する三大因子である脳卒中4)、認知症5)、骨折6)のいずれもが、HD患者に比べPD患者は発症リスクが低いということが明らかになっている。また、PDはHDに比べて患者満足度が高い。海外の前向き研究によれば、HD患者の56%が「満足」と回答したのに対し、PD患者では85%に達している7)。
そのほかにも、PDには高齢者にとって社会的・身体的メリットが多く存在する。
社会的メリットとしては、在宅での治療が可能で通院頻度が月1~2回と少ないこと、治療による環境変化が少ないこと、さらには鯉渕氏の施設のデータによると、高齢者のPDは若い患者より医療費が安くなる傾向にあることが挙げられた。
身体的メリットとしては、高齢者は若い人と比べて体格が小さく食事量も少ないため、バッグ交換回数や透析液量が少ない(結果的に医療費も少なくなる)、シャント造設が不要で痛みを伴わない、体外循環ではないため血圧変動が少ない、残腎機能が保持されやすい、食事制限が少ないなどが挙げられる。
また、PDの合併症として懸念される腹膜炎の発症率についても、近年のデータでは良好な成績が示されている。日本のPD関連腹膜炎発症数は0.22回/患者・年8)であるが、鯉渕氏の施設ではそれより低い0.13回/患者・年であり、高齢者ではさらに低い発症率となっている。
こうしたことから鯉渕氏は「これまでPDは若い人者向きと言われてきたが、高齢者にこそメリットが多く、PDを勧めていく必要がある。個人的意見としては、高齢患者さんの場合は特に生命予後だけでなく、患者さんのナラティブや患者さんとご家族のQOLも重要視するべきであり、また、緩和的腹膜透析(Palliative PD)を考える際にも、若い患者さんと高齢患者さんでは全く異なる見方になる」と述べた。
PDの普及を妨げている様々な事由と地域医療連携の必要性
高齢化が進む日本では特にPDの普及が期待されるところであるが、その普及率は依然として低い。海外を見るとニュージーランド36.3%、スウェーデン23.8%、韓国19%、カナダ18.3%、イギリス17%、アメリカ7.0%などといった普及率に対し、日本では3.2%と先進諸国の中で最下位となっている9,10)。
鯉渕氏は普及が進まない要因として、患者のPDに対する認知度不足を指摘する。日本透析医会によるHD実施患者へのPDの認知度調査では、「知っている」と答えた人は、60代43.8%、70代28.7%、80代以上15.4%と、高齢になるほど知らないという現状がある11)。
医療従事者の認知度の低さも問題だ。横浜市東部地区のケアマネジャーへのアンケートでは、PDを「知っている」と回答した割合は17%で、残りの83%が「聞いたことはあるが詳細は知らない」「知らない」と回答した。また、「PDは若い人の治療だと思っていた」「腹膜透析は特殊な治療法だと認識している」という声も多く聞かれた。これに対して鯉渕氏は「腹膜透析という治療を医療者、患者さんの双方に認知してもらうことを我々は今後も引き続きやっていく努力をする必要がある」と述べた。
また、高齢者におけるPDには、合併症やフレイルによる離脱という特有の課題もある。 鯉渕氏の施設では、70歳以上の高齢患者のPD離脱理由として、「合併症や老化、フレイルによる手技の継続困難」が約4割と最も多い。
このような現状により、アシストPD(Assisted PD:患者本人が自分で腹膜透析を行うのが難しい場合に、医療者や家族などの介助者が手助けして行う方法)が必要な患者が増えているが、家族の負担増加、介護者の負担を軽減するレスパイト施設の不足、訪問看護・介護の需要増が問題となっている。加えて、PD患者の受け入れが可能な入院施設や高齢者入所施設の不足など、課題は多い。
鯉渕氏は次のように述べ、締めくくった。
「アシストPDには地域での包括ケアが必要である。そのためには専門医とプライマリ・ケア医が一緒に患者さんを診ていく環境づくりが、今後ますます重要になる。地域医療との連携体制の構築に取り組んでいる日本腹膜透析医学会の認定医・連携認定医の制度12)があるので、ご興味のある先生方には、ぜひホームページをご覧いただきたい。私自身、PD患者さんを診てきて、我々腎臓内科だけで腹膜透析の患者さんを管理することは厳しくなってきていると感じている。プライマリ・ケアや訪問看護の先生方にご協力をいただきながら連携を深め、高齢者腎不全医療をよりよいものにしていけるよう努めていきたい」。
文献
- 日本透析医学会「わが国の慢性透析療法の現況(2021年12月31日現在)」
- 真々田美穂ほか.日本透析医学会雑誌.2017;50(Suppl 1):881.
- 日本透析医会「血液透析患者実態調査検討ワーキンググループ」日本透析医会雑誌. 2022;37(別冊)
- Fu, J. et al. Prevalence and Impact on Stroke in Patients Receiving Maintenance Hemodialysis versus Peritoneal Dialysis: A Prospective Observational Study. PLoS One. 10, e0140887 (2015).
- Wolfgram, D. F., Szabo, A., Murray, A. M. & Whittle, J. Risk of Dementia in Peritoneal Dialysis Patients Compared with Hemodialysis Patients. Perit. Dial. Int. 35, 189–198 (2015).
- Mathew, A. T. et al. Increasing Hip Fractures in Patients Receiving Hemodialysis and Peritoneal Dialysis. Am. J. Nephrol. 40, 451–457 (2014).
- Rubin, H. R. et al. Patient ratings of dialysis care with peritoneal dialysis vs hemodialysis. JAMA 291, 697–703 (2004).
- 政金生人ほか.日本透析医学会雑誌. 2015;48(1):33–44.
- Jain, A. K. et al. Global trends in rates of peritoneal dialysis. J. Am. Soc. Nephrol. 23, 533–44 (2012).
- 花房規男ほか. わが国の慢性透析療法の現況(2021年12月31日現在).日本透析医学会雑誌. 2022;55(12):665–723.
- 公益社団法人日本透析医会「血液透析患者実態調査報告書」. 2022年3月;(参考)全国腎臓病協議会:2001年度血液透析患者実態調査報告. ぜんじんきょう, 194;28, 2001.
- 日本腹膜透析医学会 - 認定医・連携認定医制度