「尿中タイチン」が糖尿病患者の”将来の筋力低下リスク”を予測 新たなバイオマーカーの可能性 福島県立医科大学ら

2025.10.22
福島県立医科大学・徳島大学・神戸大学の共同研究チームは、2型糖尿病患者において「尿中タイチン」が将来のサルコペニア発症を早期に予測するバイオマーカーとなり得ることを明らかにしたと発表した。

 サルコペニアは、加齢や生活習慣病、がんなどの慢性疾患に伴い、筋肉量・筋力・身体機能が低下する状態であり、フレイル(虚弱)、転倒、要介護のリスクを高めることから社会的課題となっている。糖尿病は代謝異常や慢性炎症の影響によりサルコペニアの発症が加速することが知られているが、その発症を予測する信頼性の高いバイオマーカーは確立されていなかった。

 研究チームは、筋線維の構造を支えるタンパク質「タイチン」に着目。タイチンは、筋損傷時に血中へ放出され尿中に排出される。これまで尿中タイチン濃度は、筋ジストロフィーや拡張型心筋症など比較的まれな疾患のバイオマーカーとして用いられてきたが、研究チームは、糖尿病においても筋損傷が生じ尿中タイチンが上昇していると仮説を立て、研究を実施した。

 本研究では、福島DEMコホート(福島県立医科大学 糖尿病内分泌代謝内科の外来通院患者が参加)に登録された2型糖尿病患者でサルコペニアのない444名を対象に、尿中タイチン濃度を測定。その後、約3年間にわたり、毎年サルコペニアの新規発症(骨格筋量・握力・歩行速度)を評価した。

 その結果、追跡期間中に41名(9.2%)が新たにサルコペニアを発症し、尿中タイチン濃度が高い群でサルコペニア発症率が高いこと、尿中タイチン濃度が独立した予測因子であることが示された。またサルコペニアの構成要素の中でも、特に筋力(握力)低下とタイチンとの強い関連が明らかとなり、早期の筋機能低下を反映している可能性が示唆された。

 さらに、時間依存性ROC解析では、1年後のサルコペニア発症予測能は、尿中タイチン単独でAUC=0.80と良好であり、年齢・性別・BMIなど臨床情報の追加でAUC=0.94まで精度が向上した。また、年齢・性別、体格、血糖コントロール状態、腎機能の違いにかかわらず、一貫して高い予測能を示した。

 本研究により、非侵襲的で簡便な尿検査によって、2型糖尿病患者の筋力低下の兆しを早期に捉えられることが示された。研究チームは「今後、尿中タイチン測定を活用した栄養・運動指導など、一人ずつに個別化された予防や治療が、要介護の予防や健康寿命の延伸に寄与する可能性が期待される」と述べている。

 本研究は、福島県立医科大学 糖尿病内分泌代謝内科学講座の田辺隼人氏、島袋充生氏ら、徳島大学大学院医歯薬学研究部医学域栄養科学部門 医科栄養学系代謝栄養学分野の阪上浩氏、野村和弘氏ら、神戸大学大学院 科学技術イノベーション研究科の松尾雅文氏の共同で実施され、研究成果は『Diabetes Care』に2025年8月25日付で掲載された。

[ 糖尿病リソースガイド編集部 / 日本医療・健康情報研究所 ]

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