(扉)特集にあたって─糖尿病領域におけるデジタル診療の最先端─
─情報通信技術は新たなる大海原の羅針盤たりうるか─
特集にあたって─糖尿病領域におけるデジタル診療の最先端─
Vol.39 No.5(2022年9・10月号)pp.501
松久宗英 Matsuhisa, Munehide
徳島大学 先端酵素学研究所 糖尿病臨床・研究開発センター
中島直樹 Nakashima, Naoki
九州大学病院 メディカル・インフォメーションセンター
繰り返される新型コロナウイルス感染症のパンデミックのもと,新しい社会システムの構築が喫緊の課題であり,対策として一層のデジタル化が進められてきた.また,政府は近未来を「Society 5.0」と位置づけ,多様なIT端末からサイバー空間に収集されたビッグデータを人工知能(AI)が解析し,フィジカル空間に還元するシステムが多くの社会課題を解決するものとして期待されている.デジタル化は医療・健康分野においても進められており,健診や診療の情報が統合・連携され,また個人が収集した健康データのIoT(Internet of Things)連携による診療が研究開発されている.糖尿病はデジタル化と親和性の高い疾患として注目されている.そこで,今回の特集は「糖尿病領域におけるデジタル診療の最先端─情報通信技術は新たなる大海原の羅針盤たりうるか─」をテーマとし,近未来のデジタル化糖尿病診療について総論から各論まで,第一人者の先生方に解説いただいた.
最初にデジタルヘルスに関する総論として,医療情報のエキスパートである萩原郁哉先生と脇 嘉代先生からPHR(Personal Health Record)やデジタルセラピューティクスについて国内外の知見もふまえ解説いただいた.特に,国内でこれから進めるべき方向性は示唆に富むものである.次に先進糖尿病治療のトップランナーである川村智行先生から,糖尿病診療の本幹である血糖値のデジタル化とマネジメントについて現状から課題,そして近未来について示していただいた.さらに,臨床的視点に基づく疫学研究を進める溝上哲也先生からは,疫学データに機械学習を介して作成された日本人に適した糖尿病リスク予測モデルに関して解説いただいた.糖尿病診療のエキスパートである大西由希子先生からは,導入が進められている糖尿病治療・予防アプリについて問題点もふまえた解説をいただいた.また,地域で遠隔医療の先進的な試みを進める白神敦久先生らからは,オンライン診療におけるご自身の試みを含めた現状からエビデンス,さらに課題までを紹介いただいた.最後に,本特集の企画者の一人である中島がPHRの最前線として,新しいデジタルヘルスにおける情報の扱いかた,その二次利用や精密医療への展開,そして国や産業界の動きまで幅広く解説した.
本特集を通じ,海外で先行する糖尿病領域のデジタルヘルスについて,ツール・システム・社会制度,さらにはわが国独自の課題まで幅広い最新情報を理解していただき,その活用による質の高い個別化医療の未来を多くの医療者に考えていただく端緒になれば幸甚である.
特集■糖尿病領域におけるデジタル診療の最先端 ─情報通信技術は新たなる大海原の羅針盤たりうるか─
(扉)特集にあたって─糖尿病領域におけるデジタル診療の最先端─
松久宗英/徳島大学 先端酵素学研究所 糖尿病臨床・研究開発センター
中島直樹/九州大学病院 メディカル・インフォメーションセンター
1.糖尿病領域のデジタルヘルス—総論
萩原郁哉/東京大学大学院医学系研究科 公共健康医学専攻 医療情報システム学分野 脇 嘉代/東京大学医学部附属病院 企画情報運営部
2.血糖管理のデジタル化
川村智行/大阪公立大学大学院医学研究科 発達小児医学教室
3.糖尿病発症リスクの予測:理論と社会実装
溝上哲也/国立国際医療研究センター 臨床研究センター疫学・予防研究部
4.糖尿病の治療・予防アプリ—医療機器承認や海外の動向もふまえて
大西由希子/朝日生命成人病研究所附属医院 糖尿病内科
5.糖尿病オンライン診療
白神敦久/徳島県立中央病院 糖尿病・代謝内科
影治照喜/徳島県立海部病院 脳神経外科
原 早苗/徳島県立海部病院 看護局
6.PHR(Personal Health Record)の最前線
中島直樹/九州大学病院 メディカル・インフォメーションセンター