筋肉量が少ない糖尿病患者はCVDによる死亡リスクが2倍になど 第59回欧州糖尿病学会(EASD)ダイジェスト3
福島県の低線量の放射線被曝が糖尿病リスク増加の原因に
福島県の「放射線業務従事者の健康影響に関する疫学研究(NEWS)」により、低線量の放射線被曝が糖尿病のリスク増加の原因になっている可能性が示唆された。
労働者放射線障害防止研究センターの大久保利晃センター長らが、NEWS研究に参加した5,326人の男性救急隊員(平均年齢46歳)を対象に、低線量放射線被曝と糖尿病リスクとの関連を調査した。2012年~2021に392人が糖尿病を発症。
累積低線量放射線被曝の最低値(0~4mSv)と比較した糖尿病発症リスクは、5~9mSvの労働者で6%高く、10~19mSvでは47%、20~49mSvでは33%それぞれ高かった。
「潜在的なメカニズムは不明だが、放射線がインスリンを産生する膵β細胞に悪影響を及ぼし、糖尿病を引き起こしている可能性がある。さらに、放射線被曝とインスリン抵抗性、糖尿病発症の要因となる炎症の亢進との関連も考えられる」としている。
放射線業務従事者の健康影響に関する疫学研究(NEWS)
筋肉量が少ない糖尿病患者はCVDによる死亡リスクが2倍に上昇
筋肉量が低下した糖尿病患者は、心血管疾患(CVD)による死亡リスクが2倍に上昇することが、韓国の翰林大学が米国の糖尿病成人1,514人を対象とした調査で明らかになった。
平均9.3年の追跡期間に413人が死亡。筋肉量が低いと全死因死亡リスクは44%、CVDによる死亡リスクは2倍にそれぞれ上昇した。
サルコペニア(加齢にともなう筋肉量と筋力の低下)は、CVDや死亡のリスクと関連しているが、この関連は網膜症や腎症ではみられなかった。また、筋肉減少はHbA1cや微小血管合併症から独立して、全死因死亡とCVD死亡と関連していることが示された。
2型糖尿病の永続的な寛解はリアルワールドで実現可能か?
プライマリケアによる低カロリー食を中心とした介入により、2型糖尿病の寛解は可能であることが、英国ニューカッスル大学の研究で示された。
2型糖尿病患者298人を対象にランダム化比較試験「DiRECT研究」を実施し、12週間の超低カロリー食とその後の減量維持サポートを実施した結果、1年後に介入群はベースラインより平均10kg体重が減少し、ほぼ半数(46%)は糖尿病が寛解し、血糖降下薬をすべて中止した。2年後もベースラインより8.8kg減少した患者では、36%は糖尿病が寛解していた。
長期的なメリットを調査するために、研究をさらに3年間延長。2型糖尿病は肝臓と膵臓の過剰な脂肪蓄積により引き起こされ、これを減少することが寛解の鍵となるとしている。
「代謝的に健康な肥満」は現実にあるのか?
肥満者の半数で平均して2つ以上の合併症がみられる一方で、肥満を抱えながら生活している男性の2~19%、女性の7~28%が「代謝的に健康な肥満(MHO)」であり、代謝性合併症(血糖管理の異常・2型糖尿病・脂質異常・高血圧、その他の心血管疾患)の兆候がみられないと、ドイツのライプツィヒ大学とミュンヘン ヘルムホルツセンターが発表。
肥満者のMHOを決定するために、体重やBMIだけではなく、脂肪組織をみる必要があると指摘。脂肪組織の機能不全がある患者では、組織の損傷や線維化、炎症促進性や脂肪生成の分子の分泌異常がみられ、最終的に末端器官の損傷につながる可能性があり、アディポカインが血管系細胞に直接作用し、アテローム性動脈硬化を引き起こす可能性があり、さらに脂肪酸などの代謝産物が肝臓や膵臓のインスリン産生細胞の機能を損なうことがあると説明。
糖尿病の「プレシジョン メディシン」の最新情報
糖尿病の「プレシジョン メディシン(精密医療)」について、世界中から約200人の専門家が参加し、第2回国際コンセンサスレポートが作成された。糖尿病に関する推奨事項は、平均的な人にとって何が効果的であるかに焦点を当てられることが多いが、実際には糖尿病は多様な疾患であり、「平均的」な患者はほとんどいない、画一的なアプローチだけでは、糖尿病の治療を改善できないとしている。
糖尿病の代謝機能障害を予防・回避するために設計された複数のプロセスによって、糖尿病のさらなる悪化と糖尿病合併症の発症の抑制できる。
スウェーデンのルンド大学のPaul Franks教授らが発表したレポートは、米国糖尿病学会(ADA)と欧州糖尿病学会(EASD)のプレシジョン メディシン イニシアチブによって作成され、「Lancet Diabetes & Endocrinology」に掲載された。
Understanding diabetes heterogeneity: key steps towards precision medicine in diabetes (Lancet Diabetes & Endocrinology 2023年10月4日)