【米国糖尿病学会】スタチンなどの脂質低下薬の使用が不十分 何万件もの心筋梗塞・脳卒中を回避できる可能性を示唆

必要な脂質低下薬が使用されている患者は半数弱
心血管イベントの既往歴のある患者でも3分の2強
研究は、米ジョンズ ホプキンス大学公衆衛生大学院医薬品安全性・有効性センターのG Caleb Alexander氏らによるもの。研究グループは、米国国民健康栄養調査(NHANES)に2013~2020年に参加した40〜75歳の米国成人4,980人のデータを解析し、同じ年齢層の米国成人約1億3,100万人を代表するように統計学的に重み付けした。
その結果、主要な心血管イベントを経験したことのない患者のうち、2018年の米国の診療ガイドラインによりコレステロール低下薬が必要と判定されたのは半数弱の47%だったが、実際に使用したのは半数弱の23%であることが明らかになった。主要な心血管イベントの既往歴がある患者では、診療ガイドラインでは全員がコレステロール低下薬が必要とされたが、実際に服用していたのは3分の2強の68%だった。
脂質低下療法(LLT)の実施率は、スタチン(対象者100%、実施率66%)、エゼチミブ(対象者31~74%、実施率4%)、PCSK9阻害薬(対象者11~53%、実施率0%)となり、すべての治療法の対象患者の割合よりも低かった。
診療ガイドライン通りにLLTを実施していれば回避できたと推定される、米国の1年あたりの心血管系の有害イベント数は、冠動脈疾患による死亡が3万9,196件、非致死的な心筋梗塞が9万6,330件、冠動脈血行再建術が8万7,559件、脳卒中が6万5,063件に上るとしている。
「これらの結果は、高コレステロールなど一般的にみられ医療機関での介入を必要とする慢性疾患のケアの質が不十分であり、改善すれば大きな公衆衛生上の大きな利益が得られる可能性を示している」と、Alexander氏は述べている。
「対象となった個人に対する治療として、多くの場合にスタチンなどの脂質低下薬の使用が含まれる。米国あるい欧州のガイドラインに完全に準拠していれば、LDLコレステロール(LDL-C)の中央値は大幅に低下し、米国での主要な心血管イベントのリスクが最大27%減少すると推定される」。
「高LDL-Cなどが分かっている患者に対して、治療のベネフィットに関する患者教育を実施し、それ以外の人に対してはスクリーニングを改善するなど、さまざまな対策を通じて、実際の治療をガイドラインの推奨に近づけることは可能だ」としている。
研究グループは今回、米国心臓学会(AHA)/米国心臓病学会(ACC)のガイドライン、欧州心臓病学会(ESC)/欧州動脈硬化学会(EAS)のガイドライン、LDL-C低下のための非スタチン療法の役割に関するACC専門家決定方針の3種類にもとづき解析した。
心血管リスクは、2018年の米国ガイドラインを用いて、以下の項目を順に特徴づけた。(1) アテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)の有無、(2) 重度の原発性高コレステロール血症(LDL-Cが190mg/dL以上)、(3) 糖尿病がありLDL-Cが70~189mg/dL、(4) 現在、脂質低下療法を実施中、(2) 糖尿病およびASCVDをともなわずLDL-Cが70~189mg/dL。
さらに、Pooled Cohort Equations(PCE)を用いて、10年間のASCVD発症リスクを推定し、低リスク、ボーダーラインリスク、中リスク、高リスクに分類した。また、心血管疾患の既往(冠動脈疾患、狭心症、心筋梗塞、脳卒中などの自己申告)が確認された患者については「二次予防コホート」(11%)、それ以外は「一次予防コホート」(89%)と定義した。
Tens of Thousands of Heart Attacks and Strokes Could Be Avoided Each Year if Cholesterol-Lowering Drugs Were Used According to Guidelines (ジョンズ ホプキンス大学 2025年6月30日)
US Public Health Gains from Improved Treatment of Hypercholesterolemia: A Simulation Study of NHANES Adults Treated to Guideline-Directed Therapy (Journal of General Internal Medicine 2025年6月30日)