1型糖尿病の研究・調査の最前線 第59回欧州糖尿病学会(EASD)ダイジェスト2
人工膵臓により1型糖尿病を合併した妊娠中の女性の血糖管理が改善
インスリンポンプとCGM、アルゴリズムを組合わせた人工膵臓(ハイブリッド クローズド ループ システム)により、1型糖尿病を合併した妊娠中の女性の血糖管理が改善したことが、英国の9ヵ所のNHS病院で実施された試験で示された。
24週間の試験には18~45歳の1型糖尿病の妊婦124人が参加。この人工膵臓を使用した妊婦は、従来のインスリン療法を行った妊婦に比べ、血糖値が63~140mg/dLに収まったTIR(time in range)が長く[68% 対 56%、1日平均2.5~3.0時間増加]、それまでの血糖値やインスリン療法と関係なく、あらゆる年齢層で一貫して改善した。
幹細胞由来膵島療法により1型糖尿病患者がインスリン依存から離脱
幹細胞由来膵島細胞「VX-880」による第1/2相試験の結果を、カナダのトロント総合病院のTrevor Reichman教授らが発表。治療を受けた1型糖尿病の成人6人で、血糖管理の改善を示され、3人がインスリン治療から離脱した。
目標用量の半分のVX-880が注入された群では、1人の患者が9ヵ月後にインスリン非依存を達成し、24ヵ月目もその状態が維持された。目標全用量が注入された群では、3人の患者が6ヵ月後にインスリン非依存を達成し、12ヵ月目にも維持され、さらに4人の患者は180日目にもインスリン非依存を達成した。
「VX-880」は、Vertex社などが開発したインスリン産生膵島細胞療法で、同種ヒト幹細胞由来の膵島をカプセル化し、肝門脈への注入によって送達する。膵島細胞を免疫拒絶から保護するために免疫抑制療法の使用が必要となる。現在8ヵ国で試験が実際されている。
1型糖尿病の国民皆検査は実現可能か?
複数の膵島自己抗体をもつ個人は、生涯にわたり1型糖尿病を発症するリスクが高い。1型糖尿病の国民皆検査を実現し、自己抗体をスクリーニングすることで、初期の未症状段階の人を特定でき、最初にインスリンが必要になる時期をより正確に予測し、診断時に頻繁に発生する生命を脅かす糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)を防ぐことができることが、小児・若年糖尿病環境決定要因(TEDDY)研究、フィンランド・ドイツ・スウェーデン・米国の前向きコホート研究のデータを統合した1型糖尿病インテリジェンス(T1DI)研究などで示唆されている。
1型糖尿病を発症する患者の85%~90%は家族性ではなく、複数の膵島自己抗体をもつ個人は、1型糖尿病を生涯にわたり徐々に発症する患者がいることが分かってきた。欧米10ヵ国で1型糖尿病のユニバーサルスクリーニングを実施する最善の方法を確立するための研究プログラムが進行中。
1型糖尿病の小児・若年患者の向精神薬の使用を調査
1型糖尿病の小児や若年の患者は、ストレスなどによるメンタル不調におちいることが少なくないことが、カロリンスカ研究所の研究で示された。スウェーデンの2006年~2019年の調査で、そうした患者で向精神薬[催眠薬・ADHD薬・抗不安薬・抗うつ薬]の投与量が0.85%増え、増加傾向にあることが判明。
向精神薬は精神症状を軽減するための、費用対効果の高い一般的なアプローチとなるが、副作用を無視できない。1型糖尿病の小児や若年の患者での向精神薬のベネフィットとリスクについて、さらなる詳細な調査が必要であり、心理的ニーズの早期発見と薬物使用の慎重なモニタリングを行い、小児糖尿病ケアとメンタルヘルスケアを統合することが必要としている。
食糧不安により成人糖尿病患者の重度の低血糖症のリスクが2倍に上昇
食糧の購入が困難な成人糖尿病では、重度の低血糖症が2倍以上多いことが、カナダのウェスタン大学の調査で判明した。対象となった成人の5人に1人は食糧不安を経験したことがあり、うち半数以上が過去1年間に1回以上の重度の低血糖イベントを経験していた。
世界的に生活費が上昇しており、食糧不安に対する公衆衛生上の戦略も必要としている。インスリンおよび/またはインスリン分泌促進薬による治療を受けている1型糖尿病または2型糖尿病の成人計1,001人が対象。参加者の平均年齢は51歳、糖尿病罹患期間の中央値は12年だった。