【米国糖尿病学会】GLP-1受容体作動薬が糖尿病患者の末梢動脈疾患(PAD)を改善し歩行能力を向上 疾患進行を54%抑制

2025.07.16
 GLP-1受容体作動薬が、末梢動脈疾患(PAD)を改善し、疾患進行を抑制し、2型糖尿病患者に対してベネフィットがあるというSTRIDE試験の解析結果が発表された。

 GLP-1受容体作動薬は、主要評価項目である最大歩行距離(MWD)を有意に改善し、副次評価項目である無痛歩行距離(PFWD)も改善したことが示された。

 研究は、コロラド大学医学部心臓血管部門のMarc Bonaca氏らによるの。詳細は、6月にシカゴで開催された第85回米国糖尿病学会学術集会(ADA2025)で発表される同時に、「Diabetes Care」に掲載された。

PADを合併した2型糖尿病患者にGLP-1受容体作動薬を投与
歩行能力が向上 最大歩行距離と無痛歩行距離が改善

 末梢動脈疾患(PAD)は、世界中で2億3,000万人、さらには糖尿病患者の最大30%に影響を与える深刻な疾患で、動脈に狭窄が起こり、脚への血流が減少し、著しい障害を引き起こし、切断や死亡を含む重篤な合併症のリスクを高めQOLを低下させるが、その治療法は限られている。

 STRIDE試験は、北米、アジア、欧州の20ヵ国の、112の外来臨床試験施設で実施された第3相多国籍二重盲検ランダム化臨床試験。研究グループは、間欠性跛行およびABI(足関節上腕血圧比)の低下をともなった、PADを合併した18歳以上の2型糖尿病患者792人を、セマグルチド群(396人)あるいはプラセボ群(396人)に無作為に割り付け、セマグルチドの52週間の投与による歩行能力、症状、およびQOLへの影響を評価した。

 参加者の平均年齢は68歳で、男性が75%(597人)、女性が25%(195人)、糖尿病罹病期間の中央値は12.2年、HbA1cの平均は7.1%、BMIの平均は28.7、35.1%がSGLT2阻害薬を使用し、31.7%がインスリンを使用していた。

 その結果、セマグルチドはサブグループ全体で、主要評価項目である最大歩行距離(MWD)を有意に改善し、副次評価項目である無痛歩行距離(PFWD)も改善したことが示された[すべて相互作用でP>0.1]。BMIの低下はMWDの改善と弱い相関を示し、ベースラインでBMIが高かった対照群でより顕著だった。安全性の結果はサブグループ間で一貫していた。

 52週目での最大歩行距離のベースラインに対する推定中央値比は、セマグルチド群で1.21[IQR 0.95~1.55]であったのに対し、プラセボ群では1.08[同 0.86~1.36]だった。このサブ解析は、「Lancet」に2025年5月に掲載された研究結果にもとづいており、セマグルチドが糖尿病およびPADのある患者の歩行アウトカムを有意に改善し、その進行リスクを54%低下させ、QOLを高めたことが示されている。

 有害事象については、セマグルチド群の参加者5人で(1%)で6件の重篤な有害事象、およびプラセボ群の参加者6人(2%)に9件の重篤な有害事象が認められ、治療との関連性が疑われるか、まほぼ確実だった。もっとも多く報告されたのは重篤な胃腸障害事象が2件、プラセボ群では5件だった。治療に関連する死亡はなかった。

 STRIDE試験の解析では、セマグルチドのベネフィットに関する新しく重要な情報が提示され、そのベネフィットはベースラインのHbA1c値、糖尿病の持続期間、または糖尿病の強度とは無関係に示された。さらに、そのベネフィットはすべてのBMIカテゴリーで、またSGLT2阻害薬による治療の有無にかかわらず認められたとしている。

 「これらの知見は、GLP-1受容体作動薬に、HbA1c値や体重の低下にとどまらない血管保護の効果をもつがあることを示唆している。糖尿病患者でGLP-1受容体作動薬が、動脈硬化、心不全、腎機能に好ましい影響を与えることがデータ全体で示唆されている」と、STRIDE試験の統括者であるカナダのトロント大学心臓血管外科のSubodh Verma教授は述べている。

 「これらの効果が、糖尿病のないPAD患者にも及ぶかどうかを解明するためには、さらなる研究が必要となる」と付け加えている。

Semaglutide Increases Walking Capacity in Patients with Peripheral Artery Disease and Type 2 Diabetes (米国糖尿病学会 2025年6月21日)
Benefit of Semaglutide in Symptomatic Peripheral Artery Disease by Baseline Type 2 Diabetes Characteristics: Insights From STRIDE, a Randomized, Placebo-Controlled, Double-Blind Trial (Diabetes Care 2025年6月21日)
Semaglutide and walking capacity in people with symptomatic peripheral artery disease and type 2 diabetes (STRIDE): a phase 3b, double-blind, randomised, placebo-controlled trial (Lancet 2025年5月3日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

糖尿病・内分泌プラクティスWeb 糖尿病・内分泌医療の臨床現場をリードする電子ジャーナル

糖尿病関連腎臓病の概念と定義 病態多様性 低栄養とその対策
小児・思春期1型糖尿病 成人期を見据えた診療 看護師からの指導・支援 小児がんサバイバーの内分泌診療 女性の更年期障害とホルモン補充療法 男性更年期障害(LOH症候群)
神経障害 糖尿病性腎症 服薬指導-短時間で患者の心を掴みリスク回避 多職種連携による肥満治療 妊娠糖尿病 運動療法 進化する1型糖尿病診療 糖尿病スティグマとアドボカシー活動 糖尿病患者の足をチーム医療で守る 外国人糖尿病患者診療
インクレチン(GLP-1・GIP/GLP-1)受容体作動薬 SGLT2阻害薬 NAFLD/NASH 糖尿病と歯周病 肥満の外科治療 骨粗鬆症 脂質異常症 がんと糖尿病 クッシング症候群 甲状腺結節 原発性アルドステロン症
エネルギー設定の仕方 3大栄養素の量と質 高齢者の食事療法 食欲に対するアプローチ 糖尿病性腎症の食事療法
糖尿病薬を処方する時に最低限注意するポイント(経口薬) GLP-1受容体作動薬 インスリン 糖尿病関連デジタルデバイス 骨粗鬆症治療薬 二次性高血圧 1型糖尿病のインスリンポンプとCGM

医薬品・医療機器・検査機器

糖尿病診療・療養指導で使用される製品を一覧で掲載。情報収集・整理にお役立てください。

一覧はこちら

最新ニュース記事

よく読まれている記事

関連情報・資料