SGLT2阻害薬「ジャディアンス錠」の適応がすべての成人心不全患者に拡大 FDAが承認

2022.03.23
 ベーリンガーインゲルハイムとイーライリリー・アンド・カンパニーは2月24日、米国食品医薬品局(FDA)が、成人心不全患者での心血管死および心不全による入院のリスク減少に対して、ジャディアンス錠10mg(一般名:エンパグリフロジン)を承認したと発表した。

 ジャディアンス錠は米国で2021年に、左室駆出率(LVEF)が低下した心不全患者の心血管死および入院のリスクを減少させる治療薬として承認された。今回の承認により、すべての成人心不全患者に適応が拡大された。その結果、左室駆出率が保持された成人患者も対象となっている。

ジャディアンス錠は左室駆出率が保持された心不全患者にとっても選択肢に

 FDAによる今回の承認は、第3相EMPEROR-Preserved試験の結果にもとづいている。同試験では、LVEFが40%を超える成人心不全患者5,988人を対象に、ジャディアンス錠10mg1日1回およびプラセボを標準療法に追加し、比較評価が行われた。

 主要評価項目でジャディアンス群は、心血管死または心不全による入院の相対リスクを21%低下した(絶対リスク低下3.3%、0.79 HR、0.69-0.90 95% CI)。EMPEROR-Reduced試験も含めた解析では、左室駆出率に関わらず一貫したベネフィットが得られた。

 EMPEROR-Preserved試験の重要な副次評価項目の解析から、ジャディアンスが心不全による入院の初回発現および再発の相対リスクを27%減少させることが明らかになった(ジャディアンス407件vs. プラセボ541件、0.73 HR、0.61-0.88 95% CI)。

 EMPEROR慢性心不全の臨床試験プログラムは、2型糖尿病合併または非合併の左室駆出率が保持された慢性心不全(HFpEF)患者または左室駆出率が低下した慢性心不全(HFrEF)患者を対象に、ジャディアンスの1日1回投与による治療をプラセボと比較検討する2つの第3相無作為化二重盲検試験で構成される。

 EMPEROR-Reduced試験では、左室駆出率が低下した慢性心不全(HFrEF)の成人患者でのジャディアンスの安全性と有効性が評価された。EMPEROR-Preserved試験では、5左室駆出率が保持された慢性心不全(HFpEF)の成人患者でのジャディアンスの安全性と有効性が評価された。

 ミシシッピ大学医学部長のJaved Butler氏(M.D.)は、次のように述べている。
 「第3相試験で、ジャディアンスは、左室駆出率を問わない心不全患者で、統計学的に有意かつ臨床的に意義のあるベネフィットを示しました。今回の承認は、実証されたベネフィットによって、治療選択肢が限られている、左室駆出率が保持された心不全を有する米国の約300万人の成人患者さんの大きなアンメットニーズに対応できることを意味しています」。

 ジャディアンスは、糖尿病性ケトアシドーシスのリスクを上昇させる可能性があるため、1型糖尿病の患者には使用できない。また、2型糖尿病の成人患者でeGFR30mL/分/1.73m²未満の患者では効果が得られない可能性があるため、血糖コントロール改善の目的では使用できない。ジャディアンスの対象患者は、eGFRが20mL/分/1.73m²以上の成人慢性心不全患者。

 また、ジャディアンスや、添加剤に対する過敏症の既往歴(浮腫など)がある患者、および透析を受けている患者は、ジャディアンスの使用は禁忌となる。

 日本でのジャディアンス錠10mgの腎機能障害患者への投与に関連する注意には次の記載がある。
<2型糖尿病>高度腎機能障害患者又は透析中の末期腎不全患者投与しないこと。本剤の効果が期待できない。
<慢性心不全>高度腎機能障害患者でeGFRが20mL/min/1.73m²未満の患者では、投与の必要性を慎重に判断すること。本剤投与中にeGFRが低下することがあり、腎機能障害が悪化するおそれがある。eGFRが20mL/min/1.73m²未満の患者又は透析を要する腎機能障害患者を対象とした臨床試験は実施していない。

 なお、日本でのジャディアンス錠の効能・効果は、2型糖尿病、慢性心不全(ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る)であり、心血管イベントおよび腎臓病のリスク減少に関連する効能・効果は取得されていない。なお、慢性心不全に対する治療薬として承認されているのは、ジャディアンス錠10mg。また、慢性心不全の効能又は効果に関連する注意には次の記載がある。「左室駆出率の保たれた慢性心不全での本剤の有効性及び安全性は確立していないため、左室駆出率の低下した慢性心不全患者に投与すること」。

Empagliflozin in Heart Failure with a Preserved Ejection Fraction(New England Journal of Medicine 2021年10月14日)
Cardiovascular and Renal Outcomes with Empagliflozin in Heart Failure(New England Journal of Medicine 2020年10月8日)
ジャディアンス錠10mg ジャディアンス錠25mg 添付文書 (医薬品医療機器総合機構)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

関連情報

糖尿病・内分泌プラクティスWeb 糖尿病・内分泌医療の臨床現場をリードする電子ジャーナル

糖尿病関連デジタルデバイスのエビデンスと使い方 糖尿病の各薬剤を処方する時に最低限注意するポイント(経口薬) 血糖推移をみる際のポイント!~薬剤選択にどう生かすか~
妊婦の糖代謝異常(妊娠糖尿病を含む)の診断と治療 糖尿病を有する女性の計画妊娠と妊娠・分娩・授乳期の注意点 下垂体機能低下症、橋本病、バセドウ病を有する女性の妊娠・不妊治療
インスリン・GLP-1受容体作動薬配合注 GIP/GLP-1受容体作動薬(チルゼパチド) CGMデータを活用したインスリン治療の最適化 1型糖尿病のインスリン治療 2型糖尿病のインスリン治療 最新インスリン注入デバイス(インスリンポンプなど)
肥満症治療薬としてのGLP-1受容体作動薬 肥満症患者の心理とスティグマ 肥満2型糖尿病を含めた代謝性疾患 肥満症治療の今後の展開
2型糖尿病の第1選択薬 肥満のある2型糖尿病の経口薬 高齢2型糖尿病の経口薬 心血管疾患のある2型糖尿病の経口薬

医薬品・医療機器・検査機器

糖尿病診療・療養指導で使用される製品を一覧で掲載。情報収集・整理にお役立てください。

一覧はこちら

最新ニュース記事

よく読まれている記事

関連情報・資料