SGLT2阻害薬「ジャディアンス錠」が急性心不全で入院後の安定した成人患者に対して有意な臨床的ベネフィットを示す
急性心不全の安定化後から退院するまでにジャディアンスを開始
90日後に臨床的ベネフィットが得られる可能性が36%上昇
EMPULSE試験は、急性心不全(新規または非代償性慢性心不全)で入院し、状態が安定した患者530人を対象に、SGLT2阻害薬「ジャディアンス」10mg(一般名:エンパグリフロジン)の1日1回投与が臨床的ベネフィット、安全性、および忍容性に及ぼす影響をプラセボと比較して評価する90日間の多施設共同無作為化二重盲検優越性試験。
主要評価項目は、全死亡、心不全イベントの頻度、初回の心不全イベントまでの期間、および治療から90日後のKCCQ-TSSで評価した症状の階層的な複合評価項目という臨床的ベネフィットにもとづき、win ratio法で評価された。
win ratioとは、ジャディアンス群の患者がプラセボ群の患者よりも優れた臨床ベネフィットを有する可能性を推定するもの。高いwin ratioは、ジャディアンスの臨床的ベネフィットが大きいことを示唆する。
同試験では、新規の急性心不全と非代償性慢性心不全が階層化された。それぞれの階層内で、ジャディアンス群の患者1人ひとりをプラセボ群の患者1人ひとりと比較した。win ratioは、ジャディアンス群での合計勝者数を合計敗者数で割って求められた。主要評価項目の要素は、心不全イベントや症状よりも死亡を重視して、臨床的な重要性の順に評価された。
その結果、急性心不全で入院した成人患者に対し、状態の安定化後から退院するまでにジャディアンスを開始することにより、プラセボと比較して90日後に臨床的ベネフィットが得られる可能性が36%高くなった。このベネフィットは、心不全の新規発症、再発を問わず、また左室駆出率の値に関わらず一貫していた。
ジャディアンスによる総合的な臨床的ベネフィットは、心不全の新規または再発、糖尿病の有無、左室駆出率の値に関わらず、一貫していた。探索的な副次的評価項目で、ジャディアンスは、ベースラインから90日後までの期間に、KCCQ-TSSをプラセボと比較して有意に4.5ポイント改善した。
同試験での安全性について、治験医の報告にもとづく急性腎不全の発生率は、ジャディアンス群で7.7%、プラセボ群で12.1%、低血糖症の発生率は、同1.9%と1.5%、体液量減少は、同12.7%と10.2%だった。
今回の臨床的ベネフィットは、全死亡、心不全イベントの頻度、初回の心不全イベントまでの期間、カンザスシティ心筋症質問票総合症状スコア(KCCQ-TSS)を含む主要評価項目を反映したもの。研究成果は、「Nature Medicine」に掲載され、2021年米国心臓協会(AHA)の最新情報セッションで発表された。
心不全で入院した患者の予後は不良だが、米国の全国再入院データベースによると、2010年~2017年に患者の30%以上が90日以内に再入院している。
EMPULSE試験の治験責任医師を務めたオランダ・フローニンゲン大学医療センター循環器科Adriaan Voors教授は、次のように述べている。
「心不全で入院後の最初の数ヵ月間は、患者さんにとって特に脆弱な時期です。未だ心不全の予後は不良であり、再入院や死亡を防ぐため、入院患者の臨床管理を改善する差し迫った必要性があります。今回、エンパグリフロジンによってプラセボと比較して有意な臨床的ベネフィットが得られたことは、退院直後の心不全治療を理解するための助けとなります」
今回のデータ公開は、最近の欧州および米国でのジャディアンスの成人心不全に対する治療薬としての承認取得を受けたもの。2021年にジャディアンスは、欧州と米国で成人の左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)患者の治療薬としても承認されている。今回の適応拡大は今までに有効な治療法がなかった左室駆出率が保持された成人心不全患者も含まれる。
ジャディアンスは現在、効果不十分な成人の2型糖尿病に対して適応がある。現在、心筋梗塞後の心不全リスクが高い患者を対象に、ジャディアンスが心不全による入院や死亡に及ぼす影響を検討する試験が進行中。また、慢性腎臓病へのジャディアンスの影響を検討する試験も進行中。
なお、日本でのジャディアンス錠の効能・効果は2型糖尿病、慢性心不全(ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る)であり、心血管イベントおよび腎臓病のリスク減少に関連する効能・効果は取得されていない。慢性心不全に対する治療薬として承認されているのは、ジャディアンス錠10mg。また、慢性心不全の効能又は効果に関連する注意には次の記載があります。「左室駆出率の保たれた慢性心不全における本剤の有効性及び安全性は確立していないため、左室駆出率の低下した慢性心不全患者に投与すること。」
ジャディアンス錠10mg ジャディアンス錠25mg 添付文書 (医薬品医療機器総合機構)
関連情報
- SGLT2阻害薬「ジャディアンス錠」10mgが慢性心不全に対する効能・効果および用法・用量に係る承認(一部変更)を取得
- SGLT2阻害薬「ジャディアンス」が、左室駆出率が40%超の心不全患者で、慢性腎臓病の有無を問わず、一貫した心腎ベネフィットを示す
- SGLT2阻害薬「ジャディアンス」が収縮機能が保たれた心不全(HFpEF)患者で改善を示した初の薬剤に
- SGLT2阻害薬「ジャディアンス」のEMPEROR-Preserved試験 左室駆出率が保持された心不全(HFpEF)患者で良好な結果に
- SGLT2阻害薬「ジャディアンス」がDPP-4阻害薬と比較して2型糖尿病患者の心血管イベントおよび心不全による入院のリスク低下と相関