SGLT2阻害薬「ジャディアンス」のEMPEROR-Preserved試験 左室駆出率が保持された心不全(HFpEF)患者で良好な結果に

2021.07.14
 ベーリンガーインゲルハイムとイーライリリー・アンド・カンパニーは、EMPEROR-Preserved第3相試験が主要評価項目を達成したことを発表した。
 SGLT2阻害薬「ジャディアンス(一般名:エンパグリフロジン)」は、2型糖尿病合併の有無を問わない左室駆出率が保持された心不全(HFpEF)患者で、心血管死または心不全による入院の複合アウトカムのリスクを有意に低下させることが示された最初の治療薬となった。
 今回の結果とEMPEROR-Reduced試験の結果をあわせると、ジャディアンスは左室駆出率を問わない幅広い心不全で有効性を証明したことになる。安全性は、ジャディアンスの既知の安全性プロファイルとおおむね一貫していた。

左室駆出率が保持された心不全(HFpEF)は「心血管領域で最大のアンメットニーズ」

 ベーリンガーインゲルハイムとイーライリリー・アンド・カンパニーは、EMPEROR-Preserved第3相試験で、SGLT2阻害薬「ジャディアンス(一般名:エンパグリフロジン)」は左室駆出率が保持された心不全(HFpEF)患者の心血管死または心不全による入院のリスクを有意に低下させ、主要評価項目を達成したことを発表した。

 HFpEFは、その有病率、転帰不良、そして現在までに臨床試験で、臨床イベントに対して有効であることが証明された薬物療法がないことから、「心血管領域で最大のアンメットニーズ」とされてきた。

 承認された場合、ジャディアンスは、左室駆出率にかかわらず幅広い心不全患者のアウトカム改善が臨床的に証明された最初の治療薬となる。

 EMPEROR慢性心不全の臨床試験プログラムは、2型糖尿病合併または非合併の左室駆出率が保持された慢性心不全(HFpEF)患者または左室駆出率が低下した慢性心不全(HFrEF)患者を対象に、ジャディアンスの1日1回投与による治療をプラセボと比較検討する以下の2つの第3相無作為化二重盲検試験で構成されている。

 EMPEROR-Reduced試験では、左室駆出率が低下した慢性心不全(HFrEF)の成人患者でのジャディアンスの安全性と有効性を評価している。EMPEROR-Preserved試験では、左室駆出率が保持された慢性心不全(HFpEF)の成人患者でのジャディアンスの安全性と有効性を評価している。

 このうちEMPEROR-Preserved試験では、ジャディアンス10mgとプラセボを比較検討している。EMPEROR-Preserved試験の詳細な結果は、2021年8月27日に欧州心臓病学会議(ESC)で発表される予定。

 今回の結果に先立ち、すでに終了しているEMPEROR-Reduced第3相試験では、成人の左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)患者を対象に検討が行われ、ジャディアンスは心血管死または心不全による入院からなる複合評価項目の相対リスクをプラセボと比べて有意に25%低下することが明らかにされた。

 心不全は世界的に重大な問題となっている。世界での心不全の有病者数は6,000万人以上にのぼり、その半数がHFpEF患者だ。心不全は、入院の主な原因となる疾患であり、西欧諸国でも高齢化にともない有病率が上昇しつつある。心不全患者の死亡リスクは、入院回数に応じて増加する。左室駆出率が保持された心不全の患者では、左心室内に十分に血液を溜められないため、全身へ必要な量の血液を送り出すことができない。

 ドイツ・シャリテ ベルリン(Charité Berlin)の心不全専門医で、EMPEROR-Preservedの試験責任医師であるStefan Anker教授は次のように述べている。
 「EMPEROR-Preserved試験の結果は、心血管領域の薬物療法で、重要で画期的な内容であり、有病率が上昇し続け、公衆衛生上の問題となっているHFpEFの患者さんにとって新たな希望となります。その結果をESC2021で発表するのを心待ちにしています。HFpEFは長らく心不全のなかでも最も治療が困難なタイプとされてきました。EMPA-REG OUTCOME試験や、左室駆出率が低下した心不全患者さんを対象としたEMPEROR-Reduced試験ですでに得られている結果に加えて、EMPEROR-Preserved試験で今回の結果が得られたことにより、ジャディアンスが心血管死または心不全による入院のリスクを減少させ、心不全患者さんの治療に変革をもたらす可能性が示されました」。

 ジャディアンスは、EMPEROR-Reduced試験の結果にもとづき、成人の左室駆出率が低下した慢性心不全(HFrEF)患者を適応とする承認申請が行われ、このほど欧州委員会の承認を取得した。また、米国では、HFrEFの成人患者の心血管死と心不全による入院のリスク低減を目的とする治療薬として、ジャディアンスの適応追加申請(sNDA)を食品医薬品局(FDA)に提出した。審査結果は年内に得られる見通し。

 ジャディアンスは現在、血糖コントロール不十分な成人2型糖尿病患者の治療薬として承認されており、欧州連合では、HFrEF患者の治療薬としても承認されている。現在、心筋梗塞後の心不全リスクの高い患者を対象に、ジャディアンスが心不全による入院または死亡に及ぼす影響を検討する試験が進行中。また、慢性腎臓病へのジャディアンスの影響を検討する試験も進行中。

 なお、日本での2021年7月時点でのジャディアンス錠の効能・効果は2型糖尿病であり、心血管イベントおよび慢性心不全、腎臓病のリスク減少に関連する効能・効果は取得されていない。

EMPagliflozin outcomE tRial in Patients With chrOnic heaRt Failure With Preserved Ejection Fraction (EMPEROR-Preserved)(ClinicalTrials.gov 2021年7月)
Cardiovascular and Renal Outcomes with Empagliflozin in Heart Failure(New England Journal of Medicine 2020年10月8日)
Committee for Medicinal Products for Human Use (CHMP). Jardiance summary of opinion (post authorisation)(欧州医薬品庁 2021年7月)
US FDA accepts supplemental New Drug Application for Jardiance® (empagliflozin) for adults with heart failure with reduced ejection fraction(ベーリンガーインゲルハイム 2021年7月)
EMPACT-MI: A Study to Test Whether Empagliflozin Can Lower the Risk of Heart Failure and Death in People Who Had a Heart Attack (Myocardial Infarction)(ClinicalTrials.gov 2021年7月)
EMPA-KIDNEY (The Study of Heart and Kidney Protection With Empagliflozin)(ClinicalTrials.gov 2021年7月)

ジャディアンス錠10mg ジャディアンス錠25mg 添付文書 (医薬品医療機器総合機構)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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