SGLT2阻害薬「ジャディアンス」が、左室駆出率が40%超の心不全患者で、慢性腎臓病の有無を問わず、一貫した心腎ベネフィットを示す
EMPEROR-Preserved試験の事前に設定された新たなサブ解析結果
日本ベーリンガーインゲルハイムと日本イーライリリーは、SGLT2阻害薬「ジャディアンス(一般名:エンパグリフロジン)」について、EMPEROR-Preserved第3相試験の事前に設定された新たなサブ解析により、左室駆出率(LVEF)が40%超の成人心不全患者で、ベースライン時の慢性腎臓病の有無を問わず、主要評価項目である心血管死または心不全による入院のリスクを減少させ、また腎機能の低下を遅らせることが明らかになったと発表した。
同試験に登録された患者のうち、3分の2は左室駆出率が保持された心不全患者(HFpEF:LVEFが50%以上)であり、3分の1は、左室駆出率が軽度に低下した心不全患者(同40%超50%未満)だった。
同試験では、試験登録の時点で被験者の半数(53.5%)以上が慢性腎臓病(eGFRが60mL/分/1.73m²未満、またはUACRが300 mg/g以上)を有し、9.7%は重症の腎障害(eGFRが30mL/分/1.73m²未満)を有していた。
同試験の事前に設定された新たなサブ解析結果から、患者全体でみられたベネフィットが、慢性腎臓病の有無を問わず一貫していることが明らかになった。
ジャディアンスは、eGFRが20mL/分/1.73m²までの腎機能にわたり、一貫して心血管アウトカムを改善し、腎機能の低下を遅らせた。ジャディアンスは、ベースライン時の腎機能の程度によらず、忍容性を示した。
心不全と慢性腎臓病を合併することで、死亡率と入院リスクが上昇する。世界で6,000万人以上が心不全に罹患しており、HFpEFはその半数程度を占めている。しかし現在までに、幅広い心不全に対して臨床的に有効であることが証明された治療薬はない。
EMPERORプログラムの治験医師を務め、フランス・ロレーヌ大学の治療・心臓病学の名誉教授であるFaiez Zannad氏は、次のように述べている。
「心不全と慢性腎臓病は、密接に関連しています。心不全患者さんの死亡リスクは、腎機能が低下するにつれて高くなります。慢性腎臓病の有無を問わず、深刻な心不全イベントを減少させ、腎機能の低下を遅らせるという一貫したベネフィットは、患者さんにとっても医師にとっても喜ばしいことです。この結果は、左室駆出率が保持された患者を含むこの心不全患者群で、広範な腎機能にわたり、ジャディアンスが好影響を与える可能性があることを示しています」。
「慢性腎臓病と心不全が合併すると、左室駆出率が保持された心不全の複雑な管理がさらに難しくなります。今回の結果から、ジャディアンスが心腎代謝系全体に好影響をもたらす可能性があることが明らかになりました」と、ベーリンガーインゲルハイムでは述べている。
これまでのEMPEROR-Preserved試験についての報告では、LVEF 40%超の心不全患者で、ジャディアンスは、主要評価項目である心血管死または心不全による入院のリスクをプラセボと比較して有意に減少させることが示されている。またジャディアンスは、心不全による入院の初回および再発のリスクを有意に減少させ、腎機能の低下を遅らせた。
ジャディアンスは現在、血糖コントロール不十分な成人2型糖尿病患者の治療薬として承認されている。また、欧州と米国では、成人の左室駆出率が低下した心不全患者の治療薬としても承認されている。現在、心筋梗塞後の心不全リスクが高い患者を対象に、ジャディアンスが心不全による入院や死亡に及ぼす影響を検討する試験が進行中。また、慢性腎臓病へのジャディアンスの影響を検討する試験も進行中だ。
なお、日本でのジャディアンス錠の効能・効果は2型糖尿病であり、心血管イベントおよび慢性心不全、腎臓病のリスク減少に関連する効能・効果は取得されていない。
EMPEROR-Preserved: Empagliflozin and Outcomes in Heart Failure with a Preserved Ejection Fraction and CKD(米国腎臓学会 Kidney Week2021)
Empagliflozin in Heart Failure with a Preserved Ejection Fraction(New England Journal of Medicine 2021年10月14日)