4.新しい時代の2型糖尿病治療 ─食欲は制御できるのか?
─予防・治療・啓発の将来像─
4.新しい時代の2型糖尿病治療 ─食欲は制御できるのか?
Vol.39 No.6(2022年11・12月号)pp.630-635
中里雅光 Nakazato, Masamitsu
宮崎大学医学部医学科 生体制御医学研究講座,大阪大学蛋白質研究所
はじめに
肥満症では,体重の3%以上が減少すれば糖代謝・脂質代謝・脂肪肝などが改善する.しかし,長期間の体重減少に成功する肥満症患者の割合は低く,入院などの強力な介入により減少した体重も,介入が終了するとリバウンドすることが多い.体重はエネルギー収支のバランスで増減するが,最も大きく影響するのは摂食である.摂食は恒常的(homeostatic)調節機構により制御されているが,ヒトの場合は「おいしい」食物を目の前にした場合の過食など,恒常的調節とは無関係な摂食行動もみられ,これは快楽的(hedonic)摂食と呼ばれる.恒常的調節では視床下部や脳幹が中心となり,末梢臓器(消化管・肝臓・膵臓・脂肪組織・筋肉など)からのエネルギー代謝・蓄積状態,栄養素,消化管ペプチド,レプチンなどのシグナルが調節している.一方,快楽的調節では視覚,嗅覚,味覚,食後の快感や満足感,記憶などを含めた大脳辺縁系や大脳新皮質などの上位中枢からの制御も受けており,肥満者でみられる薬物依存症に類似した摂食行動(food addiction ともいわれる)に関与している.脳内や末梢臓器には,食欲亢進または食欲抑制作用をもつ多数の摂食調節ペプチドが産生され,各部位をつなぐ神経回路網や血流を介して複雑に情報伝達され,相互作用している.減量を成功させるためには,ヒトの摂食調節機構の詳細を解明し,そのメカニズムを応用した治療法を開発することが重要となる.近年,この分野の基礎研究は大きく進歩しており,長期間の減量効果を示す薬剤も開発されている 1).本稿ではすでに海外で承認され,わが国でも近い将来に処方が期待される食欲制御薬を中心に,摂食機序との関係や効果を紹介する.
糖尿病・内分泌プラクティスWeb 糖尿病・内分泌医療の臨床現場をリードする電子ジャーナル
医薬品・医療機器・検査機器
-
経口薬
-
注射薬
-
医療機器・検査機器
最新特集記事
-
糖尿病治療における体重管理の重要性
糖尿病診療の目 -
第3回 GLP-1受容体作動薬不足を巡る動き
新・糖尿病治療薬の特徴と服薬指導のポイント -
第15回「野菜や果物ジュースで安心!?」
4コマ劇場「糖尿病看護のあるある体験談」 -
Vol.15 水虫・靴擦れ・たこ 患者の「足」を診たことがありますか?
よりよい糖尿病看護を目指して -
第14回「インスリンボールに注射する患者さん」
4コマ劇場「糖尿病看護のあるある体験談」 -
Vol.14 2型糖尿病の薬物療法 ~患者1人ひとりに最適な選択を~
よりよい糖尿病看護を目指して -
第5回 高度肥満症診療の課題と治療の選択肢 ~減量・代謝改善手術を含めて
【セミナーレポート】肥満症認知向上プログラム -
2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム ~病態に応じた薬剤選択で最善の糖尿病診療をめざす~
論考百選 -エキスパートたちの視点-
よく読まれている記事
-
メタボの診断基準の修正案を発表 腹囲を「男性 83cm、⼥性 77cm」に変更 レセプトと特定健診の56万⼈のビッグデータを解析 新潟⼤学
-
インスリン不使用の2型糖尿病患者に「isCGM」を使用 血糖管理が改善し治療満足度も向上 RCTを実施 名古屋大学
-
「糖尿病標準診療マニュアル2024」を公開 糖尿病治療の流れを5つのステップで提示 日本糖尿病・生活習慣病ヒューマンデータ学会
-
GIP/GLP-1受容体作動薬「マンジャロ」の投薬期間制限が解除 限定出荷を継続 「トルリシティ」も限定出荷 イーライリリーなど
-
メトホルミンが糖尿病治療に加えてがんリスクを軽減する可能性 全体的ながん発症率の減少と関連
関連情報・資料
-
肥満症認知向上プログラム【セミナーレポート】
肥満症の基本から患者さんへのアプローチ、新ガイドラインを踏まえた診療、減量・代謝改善手術などの新たな治療選択肢など -
医療スタッフのギモンにこたえる グリコアルブミンQ&A
血糖コントロール指標である”グリコアルブミン”の基本から使い方まで、医療スタッフの皆さんの疑問にこたえるQ&Aコーナー。 -
新・糖尿病治療薬の特徴と服薬指導のポイント
加藤内科クリニック院長の加藤光敏先生が、ご自身の知識と経験を踏まえた服薬指導のポイントをわかりやすく解説。 -
関連資料・研究・調査・組織
調査や統計、学会・研究会・医界などの組織、財団・協会・支援基金、大規模研究や他のメディアなど、糖尿病や生活習慣病に関するリンク集。 -
糖尿病ネットワーク
糖尿病患者さんとそのご家族をはじめ、糖尿病医療に携わる医師、医療スタッフ、関連企業の方々などに向け、糖尿病に関する密度の濃い専門情報を発信。 -
国際糖尿病支援基金
国際糖尿病支援基金では、途上国の糖尿病患者さんがおかれた状況を紹介し、同じ糖尿病の仲間として何ができるかを考えます。豊富な海外の糖尿病事情をご覧ください。