6.経口GLP-1受容体作動薬の登場 ─新しいdrug deliveryと薬剤効果─
─血糖値だけでない!その実力─
6.経口GLP-1受容体作動薬の登場
─新しいdrug deliveryと薬剤効果─
Vol.38 No.6(2021年11・12月号)pp.682-687
窪田紗希* 1, 2, 3 Kubota, Saki
丸山貴子* 1 Maruyama, Takako
山田浩司* 1 Yamada, Koji
矢部大介* 2, 3, 4, 5 Yabe, Daisuke
* 1 岐阜市民病院 糖尿病・内分泌内科
* 2 岐阜大学大学院医学系研究科 糖尿病・内分泌代謝内科学/膠原病・免疫内科学
* 3 関西電力医学研究所 糖尿病研究センター
* 4 東海国立大学機構 医療健康データ統合研究教育拠点
* 5 神戸大学大学院医学研究科 分子代謝医学
はじめに
経口摂取した栄養素に応答し消化管から分泌され,血糖依存的にインスリン分泌を促進する消化管ホルモンはインクレチンと総称され,糖尿病の治療標的として長年注目されてきた.今日,インクレチンの作用に基づく糖尿病治療薬として DPP-4(dipeptidyl-peptidase 4) 阻害薬とGLP-1(glucagon-like peptide-1)受容体作動薬が開発され,国内外で糖尿病診療を大きく変革している.特にインスリン分泌障害を主な特徴とする東アジア人の2型糖尿病では,他民族と比べて DPP-4阻害薬,GLP-1受容体作動薬の血糖改善作用がより大きいことも示され,日本では薬物療法を受ける糖尿病患者の約7割がDPP-4阻害薬を 使用するに至る 1).またGLP-1は薬理学的濃度で用いた場合,中枢に発現されるGLP-1受容体を活性化し食欲抑制・減量効果を発揮するため,GLP-1受容体作動薬は肥満2型糖尿病に対する治療薬としても期待される.さらにGLP-1は,血圧や脂質,慢性炎症を改善する効果が基礎的研究から示され,心血管安全性試験においてGLP-1受容体作動薬の心保護効果・腎保護効果が確認され,血糖改善薬を超え,合併症や併存症の発症・重症化を予防しうる糖尿病治療薬として,なおいっそう注目されている 2).しかし,従来のGLP-1受容体作動薬は注射製剤のため,導入に対する抵抗感など患者側の障壁と,必要な手技指導の負担感など医療者側の障壁とが相まって,わが国の糖尿病診療に十分に浸透しているとは言い難い状況にあった.そのようななか,2021年2月にGLP-1受容体作動薬として初の経口セマグルチド(リベルサスⓇ)が,わが国でも使用可能となった.本稿では,経口GLP-1受容体作動薬の薬物動態,HbA1cや体重に対する効果,有害事象を含む使用上の注意点について概説する.
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