Vol.16 増えつつある 「妊娠糖尿病」のケア

2024.01.15
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もともと糖尿病がある女性が妊娠する「糖尿病合併妊娠」とは別に、妊娠中に初めて指摘された糖代謝異常で、糖尿病の診断基準を満たさないものを「妊娠糖尿病」(GDM:Gestational Diabetes ellitus)と呼びます。妊娠すると胎盤のホルモンの働きでインスリンの働きが抑えられ、また胎盤でインスリンを壊す働きの酵素ができるため、インスリンが効きにくくなり、特に妊娠中期以降、血糖が上がりやすくなります。

関東労災病院 糖尿病・内分泌内科 前部長
浜野 久美子 先生

妊婦の10人に1人が妊娠糖尿病? 診断はどうするの?

 妊娠の早い時期に随時血糖を測り、これが高いときにはブドウ糖負荷試験をして診断します。妊娠初期に陰性であった人も、妊娠中期(24〜28週)にもう一度スクリーニングを受ける必要があります。
 尿糖陽性、糖尿病家族歴、肥満、過度の体重増加、加齢、巨大児出産やGDMの既往などが危険因子となります。
 2010年に世界共通の基準が見直され、全妊婦の約10人に1人にGDMがあると計算できます。また日本では、糖尿病患者数の増加、晩婚化・晩産化を背景に、GDMは増加傾向にありますので正しい知識の普及が重要です。

母体と胎児への影響

 GDMは、母体では妊娠高血圧症候群、羊水過多症、流産・早産・巨大児による難産などのリスクが、胎児では先天奇形、巨大児、発育不全、将来の糖尿病や肥満などのリスクがあります。GDMの女性は将来、糖尿病を発症するリスクが高いため、産後の予防が重要になります。

血糖管理と保険適用

 GDM妊婦は、糖尿病合併妊娠と同様に厳格な血糖管理が必須となるため、産科と内科が連携して管理をおこなうのが一般的でしょう。
 血糖管理は空腹時血糖値95mg/dL未満、食後1時間血糖値140mg/dLまたは食後2時間血糖値120mg/dL未満、HbA1cは6.0〜6.5%を目標にします。週数や肥満の有無を目安に必要なエネルギーを分割食としてとっていただくことで多くの妊婦さんは目標血糖を達成されます。薬物療法をおこなう場合は、胎児への影響を考えインスリン治療となりますが、おおむね分娩後は中止可能です。
 妊娠中は血糖自己測定(SMBG)や連続皮下ブドウ糖濃度測定(CGM)、間歇スキャン式持続血糖測定(isCGM)を用いた自宅での血糖測定が必須となります。現在、妊娠時に診断された明らかな糖尿病の場合や、ハイリスクな妊娠糖尿病患者に対して適切な指導管理をおこなった場合、在宅妊娠糖尿病患者指導管理料1(150点)が算定可能です。
 また、GDMといわれた女性は、出産後6〜12週の間に75g経口ブドウ糖負荷試験をおこなうことが推奨されています。先日には、「医学的に糖尿病が疑われる場合」は産後12週以降でも同試験実施料の算定が可能であるとの見解が示されました。母乳育児も推奨されています。なによりみんなの幸せのためにGDMの診断を契機に家族そろって健康的な食生活を続けていただきたいと思います。

*出典:厚生労働省保険局医療課「疑義解釈資料の送付について(その56)」令和5年8月30日

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