プライマリ・ケア医の第一歩が打ち破る腹膜透析3%の壁

2025.02.19
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第30回 日本腹膜透析医学会学術集会・総会
合同シンポジウム1(日本プライマリ・ケア連合学会)
「プライマリ・ケア医が腹膜透析に取り組むために~次の一手を考える~」
発表日:2024年11月17日
演題:「プライマリ・ケア医が腹膜透析に踏み出すために」
演者:高木 暢 先生(医療法人社団家族の森 多摩ファミリークリニック)

 近年、在宅医療との親和性の高さが注目される腹膜透析(PD)だが、透析療法のうちPDを選択している患者さんはわずか3%であり、普及率は依然として低い状況にある。第30回日本腹膜透析医学会学術集会・総会にて、医療法人社団家族の森 多摩ファミリークリニックの高木暢(みつる)氏は、地域医療におけるPD普及の現状と課題、そしてプライマリ・ケア医が果たすべき役割について講演を行った。

プライマリ・ケア医に求められる腹膜透析の知識

 高木氏が勤務する多摩ファミリークリニックは神奈川県川崎市多摩区に位置しており、近隣に病院が多く、病診連携を取りやすい環境にある。常勤6名(全員が家庭医療専門医)、専攻医3名、非常勤医師6名のほか、プライマリ・ケア認定薬剤師1名、看護師 7名などが在籍し、多職種でグループ診療ができる体制の下、PDを含む在宅医療を積極的に行っている(在宅患者数 200名、年間看取り人数30~40名)。認知症や老々介護、胃ろうによる誤嚥性肺炎の反復、多疾患併存、デバイスが複数存在するなどの理由で管理が難しいPD患者を在宅で診ているが、その多くは以前からのかかりつけ患者ではなく、専門医からの紹介が主である。

 自宅で行えるPDは在宅医療と親和性が高く、かかりつけ医と専門医の併診により患者の通院の負担が軽くなり、QOLの向上が期待できる。また、専門医にとっても、プライマリ・ケア医が在宅医療でPD患者を支えることは、負担の軽減につながっているものと考えられる。以上のことから、「プライマリ・ケア医はPDに対して積極的に関わっていくべき」というのが高木氏の考えだ。

 ところが実際には、かかりつけの患者さんの腎機能が悪くなるにつれ専門医に紹介することとなり(日本腎臓学会の『かかりつけ医から腎臓専門医・専門医療機関への紹介基準』ではG1~G3aの患者の一部とG3b以上の患者の全てが専門医への紹介となる)、かかりつけ医はだんだんと患者との接点を失っていく。そして腎代替療法が必要となるのはG5の患者であるため、腎代替療法の選択時のSDMも専門医に任せることとなり、かかりつけ医はこれまで診てきた患者さんがPDを含む適切な腎代替療法の選択をするためのサポートができないということになる。

 この問題への打開策として、高木氏は次のように私見を述べた。
 「患者さんに寄り添っていくのが、プライマリ・ケア医の診療スタイルである。かかりつけの患者さんにどのように一生伴走していくかということを考えると、CKDの患者さんには、専門医に紹介する前に、ACPの一環として腎代替療法について説明するのがよいと考える。患者さんのQOLや社会背景を把握したうえで適切と判断した場合には、かかりつけ医からPDをすすめることが求められていると感じている。だが、すべてのプライマリ・ケア医がPDについてしっかり説明できるかは疑問である。説明できない医師が多いのではないか。PDについてきちんと説明できるようにするためには、PDを学ぶ機会、すなわち座学と実地を学ぶチャンスを広げることが必要である」。

プライマリ・ケア医が腹膜透析を学ぶ機会が足りない

 プライマリ・ケア医がPDに関する知識や経験を持たない場合、多くの患者は腎代替療法の選択肢としてPDがあることを知らずに専門医に紹介されることになる。血液透析(HD)が主流となっている中、聞いたこともない、あるいは、名前は知っていてもよくわからないPDを選ぶ患者は少ない。すると患者は通院の負担が増大、専門医は患者数増加で負担が増すことにもつながる。

 患者にとって最適な腎代替療法を逃がすことのないよう、プライマリ・ケア医がPDについて学び、患者に説明できるようにすることは、早急に解決されるべき課題である。

 そこで高木氏は2023年と2024年に、日本プライマリ・ケア連合学会の秋季セミナーとしてPDセミナーを実施。そこでは90分の座学に加え、メーカーの協力のもとで実際にAPD(Automated Peritoneal Dialysis:自動腹膜透析)に触れたり、バッグ交換を行うなどの実技の機会が提供された。

 参加者への事前アンケ―トでは、参加理由として「わからないから」「在宅で必要だから」などの回答が得られ、PD診療の懸念事項として「専門医との連携」「PDに関する知識の少なさ」「トラブルシューティング」という声が寄せられた。このうち「専門医との連携」で不安なことは何か?という問いには、「連絡するタイミング」「連絡する内容」「怒られないか」といった回答で、専門医とのコミュニケーションをどのように取ればよいか分からないという意見が多かった。

 プライマリ・ケア医へのPD診療の知識普及機会が求められる中、実際にそうした機会が得られるのは、日本腹膜透析医学会(JSPD)が主催する腹膜透析基礎セミナーとPDセミナーのみである。さらに実地研修先として登録されている腹膜透析教育研修医療機関は全国に29か所ある1)が、地域によってはアクセスが難しく、また、受講対象は日本腹膜透析医学会の正会員のみが対象となっている。上記以外で腹膜透析の機材に触れたい場合は、メーカーに頼るしかないというのが現実だ。

3%の壁を打破するには「教育」と「交流」のシステム構築が必須

 このような状況を振り返り、高木氏は、PDを広げるためにはプライマリ・ケア医への教育機会の充実が重要で、特に実地研修、臨床現場の見学の場を増やし、PDの基本的な手技や機器の取り扱いを学ぶことが必要であると強調した。また、専門医に相談したり、意見交換をする場をシステムとして構築する必要もある。

 高木氏は次のように述べる。
 「我々プライマリ・ケア医は、まずPDについて学ぶ必要がある。それによりPDについて患者さんに語ることができるようになる。語っているうちにケアマネさんもPDに興味を持ってくれる。そして地域の人たちがPDを知るようになる。患者さんが実際に腎代替療法を選択する段階になった時にもプライマリ・ケア医の立場からPDについて説明をすることができれば、患者さんは専門医から説明があった時、何かわからないことを理由に選ぶ機会を逃がすことがなくなる。患者さんが実際にPDを選んだ場合、我々は併診という形で患者さんを最期まで診ることが可能となる。現在、プライマリ・ケア医は、基本的に専門医からPD患者さんを紹介いただいている立場である。また一方、自らPDを希望している患者さんを専門医へ紹介しても、PDの説明をされずにHDを導入されて帰ってくる患者さんが多いという現状もある。しかしこれからは、PDを導入する候補の患者さんを主導的に専門医へ紹介する、つまり、しっかり連携を取りながら送る側になることも考えるべき。このような循環がうまくいくと、PDを選択する患者は増え、透析療法でPDを選択している患者さんがわずか3%しかいない壁を打破することにつながると考えている」。

 PDの普及実現には、日本プライマリ・ケア連合学会による学ぶ機会の充足が欠かせない。その方策のひとつとして日本プライマリ・ケア連合学会の高齢者在宅医療委員会において、高木氏を中心とした腎臓チームが発足した。

 専門医がプライマリ・ケア医にPD患者を紹介するケースよりも、プライマリ・ケア医がPD導入候補の患者を専門医に紹介し、その後も一生の伴走者としてPD患者を最期まで診るケースが増える未来は近いかもしれない。

文献

[ MIKOZAWA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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