患者の不安と看護師の負担軽減を目指した腹膜透析指導の効率化

2025.03.11
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第30回 日本腹膜透析医学会学術集会・総会
合同シンポジウム3 (日本腎不全看護学会)
「腹膜透析における腎不全看護の多様性」
発表日:2024年11月17日
演題:「外来から病棟、そして在宅へとつなぐ腹膜透析看護」
演者:麓 真一 先生((医)社団 日高会 日高病院 看護部)
共同演者:林美紀、折居泰仁、溜井紀子、武藤重明、筒井貴朗、関原哲夫、 安藤哲朗

 第30回日本腹膜透析医学会学術集会・総会(2024年11月16日・17日開催)にて、日高会 日高病院で看護師長を務めている麓真一氏は、腹膜透析(PD)導入時の患者の不安と看護師の負担軽減を目的にPD導入時のフローを効率化する取り組みについて講演を行った。

腹膜透析導入時の指導における課題を4ステップで解決へ

 日高病院は、群馬県西部における腎不全医療の基幹病院である。以前、本院における腎代替療法は血液透析と腎移植のみに留まっていたが、2016年より腹膜透析(PD)外来を開始。現在、グループ施設も含め約30名のPD患者が治療を受けている。

 PD外来開設後に問題となったのは、PD導入の際の入院期間内に十分な患者教育の実施が困難だったことである。足りなかった指導分を補うため、入院を延長したり外来で時間を取る必要が生じ、患者に不安を与えることになったほか、看護師の業務負担も増えるといった課題が浮き彫りとなった。これらの問題に対応するため、医師や看護師をはじめとしたコメディカルが共同で4ステップの改革を行った。

業務効率化と多職種連携がもたらす成果

 改革の初めのステップとして「外来と病棟での導入時指導の分担」を行った。これまで病棟で一括して行っていた患者教育のやり方を見直し、パンフレット指導やバッグ交換の手技指導などを入院前に外来で行うよう変更した。一方、病棟では出口部消毒や入浴方法、緊急時対応などを指導する体制とし、病棟での業務負担を減らした。

 次に、外来と病棟の双方で「指導内容のチェックリスト化」を行った。外来ではSMAP(腹膜透析を開始する前にあらかじめお腹にカテーテルを埋め込んでおく方法)前と出口部作成前で指導内容を分けたうえでそれぞれチェック用紙を作成した。

 SMAP前は、腹膜透析の基礎知識やシステム選択、カテーテル留置位置、清潔にするためのポイント、バッグ交換についての指導項目や訪問看護利用の有無などを記載。

 出口部作成前のチェック用紙には、バッグ交換の実施、出口部の消毒、入浴パウチ、緊急時対応、自宅準備品の説明などの指導項目を記載した。

 一方、病棟ではクリニカルパスを導入し、チェックリスト化した。こちらは入院日ごとの指導内容を目的別に時系列で記載し、看護師がスケジュールに沿ってスムーズに指導を進められるようにした。これにより全体が可視化されて流れをつかめるようになり、以前は慣れていないスタッフなどが医師に確認を取りながら行っていた部分も、医師の指導を待たずに行えるようになった。

 このチェックリスト化により、指導内容と進捗状況をしっかり把握できるようになったことで効率的に業務を進められるようになった。また、初めて担当する看護師でも指導の介入が容易になった。

 さらに3つ目のステップとして「電子カルテを活用」し、外来と病棟間での指導の進捗状況を共有する仕組みを導入した。外来でのPD導入前指導時に担当看護師が気になった点や申し送り事項を電子カルテに記載することで、病棟の看護師がそれぞれの患者の状況をしっかり把握したうえで引き継げるようになった。また、入退院時に外来と病棟でそれぞれが申し送り事項を記入する「入退院時申し送り」も実施。この取り組みにより、外来・病棟間の意思疎通がスムーズになると同時に、個々の患者の背景を踏まえた個別性のある指導が可能となった。

 4つめのステップとして、「多職種による『定例カンファレンス』と『退院支援カンファレンス』の開催」を行った。定例カンファレンスは毎月1回行われ、医師、看護師、栄養士、メディカルソーシャルワーカー、訪問看護師が参加。退院支援カンファレンスは外泊前や退院時に行われ、メンバーはこれら医療従事者に加え、患者と家族も参加する。多職種カンファレンスにおいて、特に訪問看護師の参加は、患者が退院した後の指導の継続を容易にするほか、個々の患者の問題点に対して迅速な対応が行えるため、非常に大切である。

 定例カンファレンスは、患者指導の役割分担、進捗、患者の習得状況の把握を目的として行われており、退院支援カンファレンスでは、あらかじめ本人や家族に聞き取った自宅の様子から、在宅療養での注意点と解決策の立案をし、具体的なアドバイスを行っている。

 麓氏はこれら2つのカンファレンスを実施した結果、「退院後の継続支援がスムーズに行えるようになり、患者の不安が減って満足度が向上するに至った。また、出口部感染の減少や入院期間の短縮にもつながった」と話す。

 日高病院での4つの改革は、患者の不安軽減と医療スタッフの負担軽減につながり、PD導入の効率化に大きく寄与している。業務の効率化と多職種協働はPD治療の普及と看護の質向上に欠かせない要素であり、麓氏の取り組みは地域医療におけるPD患者の支援体制として、注目すべきモデルケースである。

[ MIKOZAWA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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