CKM(心血管・腎・代謝)リスク抑制における腎臓病の重要性

2026.05.14

シンポジウム「Integrating Care for Cardiovascular-Kidney-Metabolic Health Across the Lifespan」
発表日:2026年3月30日
演題:Kidney at the Center of Cardiovascular-Kidney-Metabolic Syndrome
演者:南学正臣(東京大学大学院医学系研究科 腎臓内科学・内分泌病態学 教授)

2026年3月28~31日にかけて開催された、世界腎臓学会議(WCN’26)のシンポジウムにおいて、東京大学大学院医学系研究科 腎臓内科学・内分泌病態学 教授であり、国際腎臓学会(ISN)前理事長でもある南学正臣氏が登壇。近年提唱されているCKM症候群の概念をふまえ、個々のリスクを独立して捉えるのではなく、CKMリスク全体を標的とした統合的な治療介入が不可欠であることを強調した。また、近年、腎保護効果のエビデンスが複数報告されている、SGLT2阻害薬、MRAなどによる薬物治療についても最新状況を紹介した。

心血管・腎・代謝(CKM)症候群

 慢性腎臓病(CKD)患者では、心血管イベントの増加が認められることは既知であるが、eGFRの低下とアルブミン尿の増加はそれぞれ独立したリスク因子となる1)。eGFRは60mL/分/1.73m²を下回るとリスクが増加し始めるという明確な閾値が存在するが、アルブミン尿には閾値はなく線形にリスクが増加する2)。実際に、Biらの報告によると、正常範囲内の尿中アルブミン・クレアチニン比(UACR)の上昇が心血管イベントの増加と関連することが示されている3)

 心臓と腎臓の関係、いわゆる「心腎連関」は古くから知られており、Silverbergら4)は「心腎貧血症候群(Cardio-Renal Anemia Syndrome)」という概念を提唱している。心不全によって循環血液量が増加すると血中ヘモグロビンが希釈され、貧血が惹起される。貧血となった患者の心臓には大きな負荷がかかり腎臓への血流を減少させ、腎臓の低酸素状態を招くといった悪循環が形成される。

 また近年では、新たな概念として「心血管・腎・代謝(CKM)症候群」が米国心臓協会(AHA)より提唱されている5)。心血管・腎・代謝疾患のそれぞれが、単独ではなく相互に影響を及ぼしながら重症化していくという考え方であるが、実際にこのことを示す一例として、南学氏は米国のメディケアデータを解析した報告6)を紹介。2型糖尿病あるいはCKDのいずれかを有する患者では、いずれも有さない患者と比較してうっ血性心不全、急性心筋梗塞、腎代替療法への移行、および死亡のリスクが高く、2型糖尿病とCKDを合併している患者で最も高いことが示されている。

低酸素誘導因子の不活性化がCKM症候群を引き起こす

 CKM症候群の進行には、脂質毒性や終末糖化産物(AGE)、腸内細菌叢のバランス異常(dysbiosis)、酸化ストレス、慢性炎症など、多様なメディエーターが関与していると考えられている。いずれも共通して、最終的には慢性的な低酸素状態から末期腎不全(ESKD)に至る。

 南学氏は長年、自身の研究グループにおいて、腎臓病における低酸素および低酸素誘導因子(hypoxia-inducible factor:HIF)の役割について研究しており、本来は低酸素から腎臓を保護する主要な調節因子であるHIFの活性化が、糖尿病下や尿毒症下では抑制されてしまうことを明らかにしている7~9)。例えば、代表的な尿毒症物質であるインドキシル硫酸は、CKDの進展に伴って血中に蓄積され、HIFを不活性化させることがわかっている10)。このことから南学氏は、HIFの不活性化は、腎機能低下や腎臓病患者の虚血性心疾患の進展にも重要な役割を持っている可能性を指摘した。

治療薬による腎保護の最新エビデンス

1)SGLT2阻害薬

 南学氏は、現在、腎臓病およびCKM症候群においては、SGLT2阻害薬、RAS阻害薬、非ステロイド型ミネラルコルチコイド拮抗薬、GLP-1受容体作動薬が治療の4本柱であるとしたうえで、中でもSGLT2阻害薬は近年、腎保護効果に関する報告が複数試験よりなされていることを指摘。EMPA-REG OUTCOME11)、CANVAS12)、DECLARE–TIMI 5813)では、2型糖尿病において腎アウトカムの改善がそれぞれ示されている。また、DAPA-CKD14)、EMPA-KIDNEY15)については、試験後の追跡評価において、投与中止後も最長12ヵ月間効果が持続していた16)。また、オーストラリア・SMART-C (SGLT2 Inhibitor Meta-Analysis Cardio-Renal Trialists' Consortium)が行ったメタ解析では、SGLT2阻害薬はベースラインのeGFR、アルブミン尿の程度に関わらずCKD進行のリスクを低下させることが報告されている17)

 さらに重要な点として、ダパグリフロジンはCKD患者の貧血を予防・改善する可能性が示されている。先述のDAPA-CKDにおいて、ダパグリフロジンはベースラインで貧血がある群とない群の両方において、ヘマトクリット値の上昇との関連が認められた18)。また、EMPA-REG OUTCOMEの媒介分析では、ヘマトクリット値およびヘモグロビン値の変化が、エンパグリフロジンによる腎保護作用の最も強いメディエーターであることが示されている19)。南学氏は、これらのことは、低酸素が末期腎不全への経路であり、SGLT2阻害薬による貧血の改善が腎組織の低酸素状態を緩和し、腎予後を改善していることを裏付けるものであるとの見解を示した。

2)非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)

 また最近では、SGLT2阻害薬だけでなく、非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)においても腎保護効果が報告されている。MRAであるフィネレノンは、FIDELIO-DKD20)およびFIGARO-DKD21)で、CKD合併2型糖尿病において腎・心血管アウトカムの改善を示している。また、CONFIDENCEでは、CKD合併2型糖尿病において、エンパグリフロジンとフィネレノンを同時に投与開始した群はいずれかの単独群と比較して、有意なアルブミン尿減少が認められた22)。なお本試験の事後解析では、エンパグリフロジンとフィネレノンの併用療法は、ベースラインでのGLP-1受容体作動薬の使用有無によるアルブミン尿減少率の差はないことが示されている23)。高カリウム血症の発生率についても併用療法群と各単独群とで差はなく、治療中止もほとんどなかった24)。さらに、先ごろ結果が公表された第3相試験FIND-CKDでは、非糖尿病性CKDにおいて標準治療へのフィネレノンの上乗せは、プラセボの上乗せと比較して、CKD進行を有意に遅延させることが報告された25)

3)開発中の新規薬剤:アルドステロン合成酵素阻害薬(ASI)

 南学氏は、現在開発中の薬剤の一つとして、アルドステロン合成酵素阻害薬(ASI)を紹介。同剤は、アルドステロン合成酵素を特異的に阻害することで副腎でのアルドステロン産生を直接抑制するもので、第2相試験26)ではエンパグリフロジンへの上乗せにより、用量依存的なアルブミン尿の減少が報告されている。現在、CKD患者を対象とした大規模国際共同第Ⅲ相試験・EASi-KIDNEYが進行中である。

CKMリスク全体を標的とした統合的な治療介入が不可欠

 最後に南学氏は、腎臓病をはじめとして、さまざまなCKMリスクが重なり合うことで、将来の心血管疾患発症リスクは跳ね上がることを改めて強調。個々のリスクを独立して捉えるのではなく、CKMリスク全体を標的とした治療介入が不可欠であるとした。また、今後の腎臓病診療は、臓器間の複雑な相互作用を理解し、適切な医学的管理を行うためには、統合的かつ多職種連携型の治療への根本的なパラダイムシフトが求められていると述べ、講演を締めた。

文献

  • Matsushita K, et al. : Lancet. 2010; 375(9731): 2073-2081.
  • Grams M, et al. : JAMA. 2023; 330(13): 1266-1277.
  • Bi X, et al. : Clin Kidney J. 2025; 18(4): sfaf074.
  • Silverberg DS, et al. : Kidney Int Suppl. 2003; (87): S40-S47.
  • Ndumele CE, et al. : Circulation. 2023; 148(20): 1606-1635.
  • Foley RN, et al. : J Am Soc Nephrol. 2005; 16(2): 489-495.
  • Nangaku M. : J Am Soc Nephrol. 2006; 17(1): 17-25.
  • Chiang CK, et al. : Lab Invest. 2011; 91(11): 1564-1571.
  • Chiang CK, et al. : Am J Physiol Cell Physiol. 2013; 304(4): C342-C353.
  • Tanaka T, et al. : FASEB J. 2013; 27(10): 4059-4075.
  • Wanner C, et al. : N Engl J Med. 2016; 375(4): 323-334.
  • Neal B, et al. : N Engl J Med. 2017; 377(7): 644-657.
  • Wiviott SD, et al. : N Engl J Med. 2019; 380(4): 347-357.
  • Heerspink HJL, et al. : N Engl J Med. 2020;383(15):1436-1446.
  • Herrington WG, et al. : N Engl J Med. 2023; 388(2): 117-127.
  • Herrington WG, et al. : N Engl J Med. 2025; 392(8): 777-787.
  • Neuen BL, et al. : JAMA. 2026; 335(3): 233-244.
  • Koshino A, et al. : NEJM Evid. 2023; 2(6): EVIDoa2300049.
  • Wanner C, et al. : Nephrol Dial Transplant. 2024; 39(9): 1504-1513.
  • Bakris GL, et al. : N Engl J Med. 2020; 383(23): 2219-2229.
  • Pitt B, et al. : N Engl J Med. 2021; 385(24): 2252-2263.
  • Agarwal R, et al. : N Engl J Med. 2025; 393(6): 533-543.
  • Agarwal R, et al. : Diabetes Care. 2025; 48(11): 1904-1913.
  • Agarwal R, et al. : J Am Coll Cardiol. 2026; 87(7): 772-784.
  • バイエル社プレスリリース(2026年3月16日)
    https://www.bayer.com/media/en-us/finerenone-meets-primary-endpoint-in-pivotal-phase-iii-find-ckd-study-in-patients-with-non-diabetic-chronic-kidney-disease/
  • Tuttle KR, et al. : Lancet. 2024; 403(10424): 379-390.
[ 糖尿病リソースガイド編集部 / 日本医療・健康情報研究所 ]
postbottom_ckdsdm_pc
postbottom_ckdsdm_sp

糖尿病・内分泌プラクティスWeb 糖尿病・内分泌医療の臨床現場をリードする電子ジャーナル

医薬品・医療機器・検査機器

糖尿病診療・療養指導で使用される製品を一覧で掲載。情報収集・整理にお役立てください。

一覧はこちら

最新特集記事

よく読まれている記事

関連情報・資料